魔王と聖女の転生日記 5
「母様、このハンバーグはどうやって作るのですか?他の料理も美味い。何か秘訣が?」
「ええ?…うーん、そう言ってもらえるのは嬉しいのだけれど、特に特別なことはしてないと思うわ」
ふむ。しかし、この美味さは普通に何気無く料理していて作り出されるものではない。この一口一口が芸術品のようにバランスがとれているのだ。きっと本人は自覚なくこの芸術品を作り出しているのだろう。
「では、今度このハンバーグのレシピたけでも俺に教えてくれませんか?母様の料理を参考にして自分でも作ってみたいのです」
そして今世では、究極のハンバーグを完成させよう。そうしよう。
「勿論よ。レオが料理に興味を持ってくれて嬉しいわ」と、母様は惜しむことなく料理を教えることを承諾してくれた。
有意義な食事の後。
俺は両親と別れて、アリスと共に廊下を歩いていた。前世の記憶を取り戻したのは良いが、今までのレオとして記憶を俺は忘れてしまっている。そのため自室はどこにあるのかとアリスに尋ねれば、彼女は案内すると申し出てくれた。
「母様とレオ、仲良し。良いこと」
「貴族らしい気取った両親だったのならば、俺は耐えられず、すぐにでも屋敷を抜け出しただろうが…彼らが両親ならば今世は初めから大分恵まれている」
「前は違ったの?」
「前か…まぁ彼らのようではなかったな」
「そう」
「お前はどうだった?」
「私もあんなに優しくされてなかった」
「娘が聖女の素質があったなら、普通の親は喜ぶものではないのか?大切に育てるはずだ」
「そうなの?」
「…お前も訳ありのようだな」
俺は前世のアリスの格好を思い出す。やはり聖女にしては質素すぎる衣服を来ていたし、良く思い出せば少し痩せていた。
聖職者は人間社会の中では貴族社会よりも上だろうから裕福であるだ。中には俗世を捨てた身分でありながら、賄賂を受け取り私腹を肥やす者もいたと聞いている。
ちなみに俺はそういう奴らが嫌いなのだけれど、魔王を倒すほどの力を持つアリスがそんな教会の裏の世界も知らないとなると…余程の田舎で育ったのか、聖女として丁重に扱われることがなかったのだろうか。
(そこら辺は、俺が踏み行って良いところではないか)
誰しも聞かれたくない物はあるものだ。それについて尋ねるのはまたの機会にしよう。
「ついた」
考え事をしていると、一つの扉の前でアリスが立ち止まった。
「ここが貴方の部屋。他にも分からないところ、あったら、言って。私が教える」
「あぁ。助かった」
「これがこの部屋の鍵。私が預かっていたから、渡しておく」と、アリスは金の鍵を渡してきた。
「当たり前だ。今の俺は少なくともお前よりも歳上だぞ?」
「そう。じゃあ、おやすみ。レオ」
「おやすみ、アリス」
俺は扉の前でアリスと分かれ、渡された鍵を使って扉を開けた。
部屋の内装は濃い青色で統一されていて、前の俺もそれほど派手なものは好きではなかったのか、インテリアはスッキリとしている。子供向けの玩具などはないらしいと俺はほっとした。
(思っていたよりも俺好みの部屋だ。無駄なものがなくていい。記憶はなくとも好みは似るのか)
好みに合わないものがごちゃごちゃと置かれていては掃除が大変だろうからな。助かった。
部屋の細かな確認はまた明日にしようと、俺はベッドに潜り込み、そのまま眠ることにした。