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番外編

思い付きはしたものの、本編には入れなかったものです。一つ一つは短めです。レオ視点ではなく、三人称で書いています。



お題『レオが「画家の住所は知っている」と言った時のサルトの反応』





(え?住所知ってるんですか?)



サルトはぎょっとした。


森で偶然出会った画家がかの有名なシエル(この時はまだ従兄弟だとは気付いていない。レオはアーラの名前を出していないので)と出会い、彼の話を聞いて、この作品が本当に売れないのか?と疑問を持ち、サルトに相談したレオ。


人気な作品だと分かり、レオは面白い悪巧みを考え付いた顔をした。サルトは(レオさんに巻き込まれるなんてその人も災難だなぁ…)なんて他人事のように考えていたのだが、何故か自分まで巻き込まれることになった。酷い。


しかし、偶然出会ったのなら、今後は連絡が取れないのでは。と思って尋ねると、レオは「住所なら知っている」と言ったのだ。そして、その家に行こうと言う。サルトが断れば一人で行くと言う。…一人で。知らない大人の家に。



「えっと、少し聞きたいんですけど…その画家って何歳ですか?」



サルトは尋ねずにはいられなかった。


何故年齢を?と不思議そうな顔をするレオを見て、これ、危ないよなぁ…という感想を覚えた。


このレオ・アクイラという子供、実は素晴らしく顔立ちが整っているのである。


漆黒の髪に瞳。肌は日焼けの跡も見当たらない透き通るほどの白さを持ち、性にとらわれない美少女にも美少年にも見える、中性的で綺麗な顔立ち。


白銀の髪と瞳のアリスと並べると、どうしてもその珍しい色から妹の方に目が行くが、レオも一見すると人形なのでは、と勘違いするほど綺麗な子供なのである。


そして、世の中にはそんな綺麗な子供を好む人間もいる。この"好む"は、可愛らしいなと思うだけとか、そんなものじゃない。時には誘拐、時には我が物にしようなどと考える輩がいる。


もしやその画家もその一人なのでは、とサルトは思ってしまった。だって、普通見ず知らずの子供に「僕の家ここだからね。暇だったら是非遊びに来てね」という感じで、住所教える?教える??下心があるんじゃないのかと怪しむのが普通だ。



「二十と聞いたが」


「はい、アウト!」



二十。成人している大人が五歳の子供を家に誘う。怪しすぎる。



「レオさん」


「どうした?」


「その人家に来る時、一人で来てね、とか言いました?」


「言ってはなかったが、アイツは(人と話すのが苦手なので)俺一人で来ることを望みそうだな」


「…一人で?」


「その方が色々と話せるだろう?」


「…色々と?レオさん、その人から森で何かされました?」


「特には何も?会った時はすぐに帰ろうとした俺を(小鳥を描くために)強く引き留めたくらいか」


「強く。引き留める」


「後は…あぁ、(小鳥を描かせてくれないと)ストーカーをするとか何とか」


「ストーカー?!」



サルトは頭を抱えた。なんてこった!ストーカー。ヤバい奴だ!確実に!!



「ほ、他には?!」


「他?」


「そう!他に何かされました?」


「(指を折ると脅すために。俺が)指を絡めたな」


「指を?!絡める?!」



アウトォォォ。サルトは心の中で叫んだ。


指を絡める、そんな行為、恋人同士でしかしないだろう。仲のいい友人でもそんなことしないもの。サルトは頭の中で二十歳の男と五歳のレオが恋人繋ぎをする光景を思い描き、(犯罪じゃないか!)と思った。大の大人と小さな子供が他人なのにキャキャウフフと手を絡めている。しかもストーカーになると宣言した大人。犯罪。マジ、犯罪。



「レ、レオさん…大丈夫ですか?」



レオが強いことは百も承知だが、純粋な強さとそういった犯罪に上手く対処できるかは関係ない気がする。



(それにこの人たち貴族ですし。屋敷でずっと育ってきたって父様が言ってましたし。…爆弾とか知っていたみたいですけど、こういう犯罪には無縁だったのでは?これ危ないのでは?)



ダラダラと嫌な汗が流れてきた。


サルトはそれなりに裕福な家に生まれたとは言っても町で育ってきたし、親からは怪しい大人についていくなと耳にたこができるほど言われてきた。町で歩いている時に顔を隠した大人に声をかけられて、危ないと自分で判断し、逃げたこともある。それくらいには常識は備わっている。


しかし、この双子、良くも悪くも浮世離れした雰囲気があるのだ。恐らく屋敷で大事に育てられたからでは、とサルトは思っている。


アリスはセクハラという単語を知らなかった。五歳ならば知らなくてもいい単語だけども、妙に知識があるというのに、そこら辺の知識が抜けているのは少し問題なのでは。


次にレオ。彼は博識で大人でも知らないようなことを沢山知っているけれど、「困っている人を助ける?何故だ?」と尋ねたり、「口止め料を受け取らない?金はいくらあってもいいだろう?何故受け取らない?」という感じのことを言ったり、知識の偏りが時たま伺える。特に情緒面で。


纏めると犯罪というものは知っていても、暴力とかそんなので。セクハラとか、そういう犯罪は知らないのでは?…と考えたのである。



「あ、あの、レオさんたちのお父様も一緒に行ってもらいましょう?そうしましょう?」


「駄目だ。この前危ないことに関わるなと説教された。父様に言えば外に出ることを許可してもらえない」


「レオ、怒られた、の?」


「あぁ」


「そう。驚き」


「俺も驚いた。まさか怒られるとは。何故父様が怒ったのか未だに分からない」


「レオ、何かやった?」


「爆弾を抱えた人間を拘束しただけだ」


「命まで、は?」


「奪ってないぞ。俺は蹴っただけで、父様が気絶させたからな」


「そう、なら良かった。じゃあ、何で怒られたの?」


「さぁ?それが分かったら苦労してない」



駄目だ、これ。サルトは目で両目を覆い天をあおいだ。この天然たち気付いてない。なんで頭がいいのに、父親が心配で怒ったと分からないのか。


サルトだって獣がいる森に行ったと父親に怒られて文句は言ってるけれど、それでもちゃんと、どうして怒られたのか理解している。


しかし、この二人は心底不思議とでも言いたげに、二人して首を傾げているのだ。危ない。非常に危ない。



(ここで僕が反対しても二人で勝手に行きますよねぇ…)



サルトは決意した。怖かったけど決意した。自分も共に画家の家に行くことを。



「僕も行きます…」



ここは歳上の自分が、ふわふわした二人を守らねば。取り敢えず家に行って、鼻息を荒くした危ない大人がいたら、二人の手を引いて一目散に逃げようと思った。




作者の余談 : サルトは不安を覚えていますが、実はレオはちゃんと性犯罪についての知識があります。前の母親が娼婦だったからですね。被害者になることが多かった母をお腹の中から見ていたので、そのような類いの犯罪を特に嫌っています。逆にアリスは教会という特殊な環境で育てられたせいで、恋愛や性の知識からは隔離されて育ったため、無知なところがあります。







お題『聖水を作りすぎたアリス(『商人の息子』でレオがアンドレの店に行っていた間、聖水作りとお留守番を任されていた)』




ーーーーーー我らを作りし創造主。我は聖女、主の祝福を受ける者、闇を滅する者なり。我らに恩恵を与えたまえ。魔力を贄に、闇を清める力を…。


ーーーーーー我らを作りし創造主。我は聖女、主の祝福を受ける者、闇を滅する者なり。我らに恩恵を与えたまえ。魔力を贄に、闇を清める力を…。


ーーーーーー我らを作りし創造主。我は聖女、主の祝福を受ける者、闇を滅する者なり。我らに恩恵を与えたまえ。魔力を贄に、闇を清める力を…。



「作り、すぎた…?」



アリスはかれこれ一時間ほどずっと振り続けていた杖の動きを止めて、机に溢れ返るくらい並べられた至聖水(この時のアリスはまだ商品としての名前は知らないがそう呼ぶことにする)の瓶たちを眺めた。タワーができている。瓶のタワーが積み上がっている。作りすぎたどころではない。


が、少々抜けたところがあるアリスは、大きなシャンパンタワーのように積み上がった山を見て、(作りすぎたかなぁ…困ったなぁ…もっと作りたいけど、どうすればいいかなぁ…そうだ。どかせばいいんだ。床に置いていこう)と考え付いた。


新しく作った杖で魔法が使えることが楽しくてたまらないのだ。何せ、前の生では治癒魔法以外はどれだけお願いしても教えてもらえなかった。貴方様は治癒ができればそれでいいのです、と言われて。


当時のアリスは、そうなんだ、と納得して特に不満を覚えていなかったけれど、今は違う。


好きに魔法を使っていい。レオが記憶を取り戻してくれてからは、沢山のことを教えてもらっている。杖もこれがあるのとないのとでは、疲労感が段違いだ。こうやって山のように浄化魔法の光を入れた商品を作り続けても、全く疲れたと思わなかった。



(楽しい。嬉しい。もっと魔法、使いたい)



アリスはわくわくしていた。そのわくわくのままに、杖を振り、至聖水を量産していく。二つ目のタワーが床にできた。アリスは三つ目のタワー作りに取り掛かった。四つ目、五つ目、六つ目…。



「アリスーー!!料理を作るから手伝ってくれないかしら?」



一階から母が自分を呼ぶ声がした。現実に引き戻される。



「…?」



視界が妙に暗い。不思議に思って部屋を見回すと、小瓶の山々がアリスを取り囲んでいた。視界が暗かったのは、小瓶たちが日光を妨げているからだった。



「…いつの、間に」



いつの間に自分はこんなに沢山作っていたのだろう。人間は夢中になると周りが見えなくなるものだ。



「アリスーー?」


「母様。今、行く」



まぁいいや。レオも沢山作れって言ってたし。繰り返すことになるが、アリスは少々抜けていた。沢山、という程度が分からず、取り敢えず部屋が埋まるくらいは沢山って言うんだろうと考えた。


至聖水の光を入れる瓶はレオの部屋にあったので、聖水作りはアリスの自室ではなく、彼の部屋で行われていた。そのためレオの部屋は瓶に侵食され埋もれていた。


言葉を選ばずに言うと、汚い。家具も最低限しかなかったすっきりした部屋が、瓶まみれになっている。


レオは山のように沢山作れとは言ったが、山を沢山作れとは言っていないのに。


アリスは満足して母の元へと行き、一緒に料理を作った。レオと父親が帰ってきて共に食事を取る。隣に座っているレオがこっそりと話しかけてきた。



「アリス、聖水は作ったか?」


「うん」


「何個作った?」


「沢山」


「そうか。百個はあるか?」


「うん。沢山」



うん、もっと沢山。優に百は越えているよ。とは言わなかった。アリスは口数が少ないので。そして、言うべきことだとも思わなかったので。


夕食を食べ終わると、レオとアリスは至聖水が置いてある部屋に戻った。レオがドアを開けた。山があった。山々が、あった。レオは固まった。



「沢山、作った、よ?」



その後、レオは妹に程度というものを教えなくてはならなかった。何事もほどほどがいいのだということ、沢山とはどのくらいであるのかなど、アリスを椅子に座らせ静かに説いた。悪意もなく、ただ単純に喜んでもらいたい一心でやりすぎてしまった子供を窘めるように。部屋を占領する瓶たちを魔法で片付けながら。



(後々この余りに余った至聖水はレオの懐に携帯され、アーラに渡される)


(ちなみに自分が寝る部屋を散らかされたこの体験から、レオは「やはり実験室は欲しいところだな…」と思ったりする)




作者の余談 : 数日後にサルトがやって来て見たのは、ちゃんと片付けた後の元の綺麗な状態の部屋です。アリスが大量に作った至聖水は、空き部屋に保管してあります。彼女に悪気はないことは分かっているのでこれくらいではレオは怒りません。大人です。






お題『アンドレの店での親たちの会話(レオはサルトといるので部屋にいません)』



「坊っちゃんは…随分大人びた子ですね」


「そうかい?」


「えぇ。内心、とても驚きましたよ。完璧な挨拶、立ち居振舞い、そして魔法道具をあの歳で作る。前代未聞です」


「アンドレ、分かっていると思うけどレオのことは…」


「勿論、分かっていますよ。無闇やたらに言いふらしたりしません」



アレクは、(僕はいい友人を持ったね)と思い、ゆっくりとレオが淹れた紅茶を飲んだ。彼が考えたという商品は、それなりに有名な自分でさえ考え付かなかったものばかりだ。しかも五歳を迎えた途端に急にその才能が開花し始めた。驚かなかったと言えば嘘になる。



「あの子はね、本当に前まで普通の子だったんだよ」


「普通…ですか」


「うん。確かに頭のいい子ではあったけど、どちらかと言うとアリスの方が大人びているくらいだった。僕や妻に対する敬語もたどたどしかったし、あんなに綺麗な笑顔を作る子でもなかった。不器用な子だったよ。上手く笑えないと悩んでいた」



アンドレは静かに耳を傾けていた。今のレオとは別人のようだ、と思ったが、口には出さなかった。ただ静かに友の言葉を聞いた。



「ただ、レオは不思議なことをよく言っていた」


「不思議…とは?」


「夢を見るんだって。違う世界の、違う生き方をしている自分の夢。そこは冷たくて、汚くて、寒くて、苦しい場所なのだと夢を見た日は泣いていた。そんなレオを慰めるのは、決まってアリスの役目だった」


「お嬢様が」


「そう。夢は大きくなるにつれて頻繁に見るようになっていった。そして、五歳の誕生日の数日前。レオは僕の部屋にやって来て言ったんだ。『どうか"俺"が変わっても受け入れてください。"俺"と夢の俺は同じなんです。"俺"はあの子の一部だったもの』と。最初は意味が分からなかった。レオはレオだよ、と言っても首を振るばかりだった」


「…」


「意味が分かったのは、あの子が五歳になってから。朝起きると、様子がおかしかった。上の空でね。受け答えもしっかりしていなかった。アリスは何故か深刻そうな顔をして、少しの間二人きりにして欲しいとお願いされた。次に二人に声をかけた時には、レオは変わっていた」


「それは…本当に坊っちゃんなのでしょうか」


「レオだよ。例え、夢の中のあの子と僕たちが今まで接してきたあの子が溶け合って変わってしまったのだとしても。あの子はあの子だ。レオも言っていた。自分はあの子の一部だったのだと。なら、今のあの子が本当のレオなんだろう。ならば、父親である僕ができることは一つだけ。レオを受け入れることだけだ」


「相変わらずの子煩悩ですね…」


「何とでも言っていいよ。僕は妻が大切だし、アリスとレオが大切だ。彼女たちを守るためなら、僕はどんな労力も厭わない」



アレクが迷いなくそう言いきると、アンドレは苦笑した。恥ずかしいことを平然と言うのだからこの人は困ったものだ、という苦笑だった。




作者の余談 : レオの父親は実は変化に気付いています。しかし、前のレオも今のレオも、同じく自分の子供だと受け入れています。どちらも同じ魂なので、根本は同じです。今のレオも生まれ方や環境、そして魔力の量が違っていれば、四歳までの彼のように普通に過ごせたのかもしれません。





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