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魔王と聖女の転生日記 4

俺はフォークとナイフを手に持って、皿の上にあるハンバーグを切る。そして、ゆっくりとその一口を自分の口の中に入れた。



(…!!)



ピシャリ…と身体が固まった。天から雷を落とされたかのような衝撃が走る。


…美味だ。間違いなく俺が今まで食べてきたなかで最も素晴らしい肉料理だ。


外側は香ばしく焼かれているのに、内側は柔らかい。噛めば噛むほど中の肉汁が溢れ、その肉汁と肉が絡み合う。極上のステーキを食っている時のように、今、自分は肉を食っているのだという満足感が心を満たす。


しかし、ステーキとは違ってこのハンバーグは丸くころりとした可愛らしい外見をしている。それだけに、一口食べた時のその味わいの深さに、その外見とのギャップに驚かされるのだ。


これが、ハンバーグ。



「俺は…」



「…?」



わなわな、と手が震えた。ハンバーグを食してからというもの、一言も言葉を発することがない俺を変に思ったのか、アリスが首を傾げ顔を覗き込んできた。


しかし、今の俺にはアリスのことを気にしている余裕はなかった。


それほどまでに、ハンバーグとの出会いが衝撃的だったからだ。



「俺は…今までどれほど人生を損してきたのだろうか…」



「レオ?」



「前世で俺は何年生きたか?魔族は長寿だ。もはや歳さえ数えていない。しかし、それほどの長い時間を俺は無駄にしてきたのだ」



「レオ。魔王。聞こえる?」



「何故ハンバーグを探そうと思い付かなかった?王座に座り退屈だと空を眺めていた時間、寝床で惰眠を貪っていた時間、何故その全てを死に物狂いでハンバーグを探すことに費やさなかった?!」



俺は前世、食にそこまで興味がなかった。食えればいい、不味くなければいい。王座を狙った者たちに時には毒さえ盛られることもあった俺には、そこまで食事とは心踊るものではなかったのだ。


否、そもそも前の俺は、何かを学ぶ時以外に心を動かされることもなかったかもしれない。


しかし、今は違う。俺はまじまじとハンバーグを見つめた。


未知なもの、未知な料理、未知な美味さ、未知な…高揚感。


前世であの飾り立てられた椅子に座ったままでは、知り得なかったもの。



「アリス…」



俺は、かつての自分を殺害した彼女を見た。



「レオ、大丈夫?変だった。目に狂気が宿ってた」



ハンバーグ、美味しくなかった?アリスの問いに、俺は首を横に振る。美味くなかっただと?違う、逆だ。



「アリス、俺を殺してくれたこと心から感謝する」



お前のお陰で、今世は前とは違うものになりそうだ。強さしか興味がなかった俺が、食という新たな目的を得たのだから。


元々彼女に対して殺されたことに恨みなど覚えていなかったが、今は感謝しかない。



「どういたしまして?」



アリスはよく分かっていないようだった。



「なぁに、どうしたの?アリスとレオ、今日は一段と仲良しね」



「魔王?何かの遊びかい?自分たちで新しい遊びを思い付くなんて二人は本当に賢いなぁ。父様たちは鼻が高いよ」



しまった。俺としたことが両親の存在をすっかり忘れていた。


しかし、前世の話まで随分と大声で言ってしまっていたが、大丈夫だったらしい。今世の両親は少しばかり頭に花が咲いていると見える。まぁ、俺にとっては好都合だ。



「すみません。父様、母様。取り乱しました」



そう言って静かに食事を再開する。


しかし、美味い。この世のものとは思えぬ美味さ。


前世の俺に教えてやりたいくらいだ。




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