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杖作り 1


次の日。俺はさっそく手に入れた材料を使って杖作りに取りかかっていた。


予定では昨日の晩から始めるつもりだったのだが、勝手に借りていたナイフや採集道具を元の場所に戻したり、剣にこびりついた血をふきとっとりしていると、随分と時間が食われた。深夜になったので、流石に杖作りは次の日に回したのだ。


作業は俺の自室で行い、危険なので結界を張ってある。これで少々大きな爆発が起ころうが屋敷が破壊されることはないだろう。採集で手に入れたものと、昨日の内に父様に頼んでもらったものを並べる。新しい魔法道具のためなのだと言えば、彼は快く渡してくれた。話が分かる父親で助かる。



「まずは枝を削ることからだ」


「削る」


「あぁ、長さは自由だな。だが短すぎるのは使いにくいし、逆に長すぎるのも運びにくい。自分が丁度いいと思う長さまで削れ」



ポンッとアリスに枝と小刀、そして削りかすを集めるための袋を放り、自分も作業を始める。アリスは暫く動きを止めていたが、俺の動きを見てやっと手元を動かし始めた。


まずは簡単に理想の長さより少し長めに削り、その後に細かく削っていく。細い方が形としては綺麗だが、だからといって細すぎると折れやすくなる。さじ加減が難しい。



「できた」



俺が削り終わる頃になると、アリスも終えたようだった。俺の方が少し長めだろうか。歪な形ではなくきちんと綺麗に削れているので、手先は器用らしい。



「次は?」


「これらに手を加える。これは俺がやるからお前は見ておけ」



俺は机の上に並べた材料を指差し、小さな鍋を取り出した。この鍋は台所で埃が被っていたのを俺が見つけた。どうやら母様も使っていないようなので借りてきたのだ。魔法で一から鍋を作ることもできるが、使えるものがあるのならばわざわざ作る必要もない。


薬草を細かく千切り、鍋の中に入れて水を入れる。動かないように道具で固定し、火力石で火をつける。



「薬草、全部じゃない?あれは使わないの?」


「あれらは恐らく先に火で炙った方がいい。アリス、そこにある火力石をもう一つ渡せ」


「うん」



鍋の隣にもう一つ火力石を置き、残していた薬草を軽く炙っていく。その後に鍋の中に入れてかき混ぜる。



「火力石、便利」


「魔力を温存したい時にはいいな。野宿の際も使えるはずだ。攻撃としては火力が弱すぎるが」


「攻撃用も作る?そしたら私も使える。前、みたいな狼に襲われても平気かも、しれない」


「その場合はあまり大量生産はできない。火力石ならば何百、何千単位で生産しても魔力には余裕があるが、ある程度の攻撃力を持つ火力を作り出すなら何千単位は一日では用意できないだろう」


「なら、火力石の何回か分の火力、を一回で使えるようにするのは?」



俺は鍋をかき混ぜていた手を止めた。アリスの顔を見る。



「複数分を?一回で?」


「無理?十回分を一気に使う。そしたら今の火の十倍。これの十倍なら多少の攻撃にはなる、と思う」


「なるほど…その発想はなかったな」



火力石は一回で使いきるものではない。十回以上は火が出せる魔力を入れている。石に入れている分もそれを一気に解放して火力を強めれば、人ならば火傷を負わし、獣なら小さいものならば倒せるだろう。家事として使うためのものだったからまだ小さな火しか出ないようにしてあるが、刻んでいる魔法式にいくつか細工を加えれば可能だ。



「この後、父様と共にアンドレ殿の店に行く予定だ。アリスの案を提案してみよう。少し書き換えればいいだけだからあの数でも一時間もあればできるはずだ。…よし、できたな。アリスそこの器を取ってくれ」


「はい。これをどうするの?」



十分に煮詰まったことを確認して、薬草の成分が溶けた液体をすくって器に入れる。



「器の中に鉱石を細かく砕いて入れ、少し冷やす」


「石、砕いて、入れる?」


「そうだ。普通の石ならば入れても何も起こらない。しかし、今回採集した鉱石は違う。水に浸せば水は特別な効果を持つものになる」


「サルトからもらった、やつも?」


「いや、あれは別に使う。魔法石も火力石の方に使いたいからそれ以外だ」



次は採集した鉱石を砕いていく。ハンマーなどの必要な道具は昨日の内に揃えているので、段取り良く進めることができた。大きめのものはまだ使い道があるかもしれないため取っておいて、小さなものを中心に使うことにする。


硬い鉱石を砕くコツは、その石が弱い方向に力を入れることだ。どの方向に弱いかは種類によって違うけれど、方向さえ分かってしまえば弱い力でも砕くことができる。



「…私でも、割れた」


「へき開という。ある特定の方向には割れやすい性質のことだ」


「知らなかった」


「研究が趣味でなければ、なかなか石を割る機会などないからな」



ある程度の大きさまで割れたら、液体が入った器の中に入れて、少し日光に当てる。器の底に集まる鉱石の破片が日光によって輝き、次第に液体まで発光するようになった。それを見たアリスは「すごい」と感心したように言う。


その液体を二本の瓶に入れて削っていた枝を浸す。コルク栓を閉めて蓋をし、また日光に当てる。



「終わり?」


「いや、まだだ。最後に自分が使いやすいように手を加える」



そう言って、俺は机に残していたものに目を向ける。父様が実験に使うだけだと約束して譲ってもらった葡萄酒と、洞窟で襲ってきた狼の血。この二つを混ぜたものに枝をまた浸けて、俺の魔力に染まりやすい杖にする。



「私も」


「お前は止めておいた方がいいと思うぞ」



葡萄酒と血が入った瓶を手に持って、俺と同じことをしようとするアリスを止める。きょとん、とした顔をした後、アリスは首を横に傾ける。



「どうして?」


「酒と獣の血は、俺の魔力に染めやすいように用意したものだ。杖の基本的な作り方は、魔力があるものを集めた後にその魔力を杖に移すようにし、最後に自分が使いやすいように一手間を加えるというもの。最後の仕上げは人によって違うと聞く。俺は用意できるものの中でそれらを選んだ。だが、お前と俺の魔力は違いすぎる。俺と同じ杖では恐らくお前に向かないものになるだろう」


「駄目なの?」


「使えないことはないが、使いにくいだろうな」


「じゃあ、どうする?」


「それはお前が自分の頭で考えることだ。俺は言ったぞ、自分で作れと。今までは同じ作業だったから一つ作ろうが二つに作ろうが変わらなかったから、アリスの分もやっていたが、ここからは別だ。自分の頭で考えろ」



悩んで黙り込むアリスを放置して、俺は酒と血を混ぜていく。分量の割合はどれくらいがいいか。前世の知識と自分の感覚を頼りに調合していく。酒を六、血を四の割合で混ぜ終わり、浸けていた枝をそろそろ出すかと後ろを振り返った。


まだアリスは動いていなかった。十分ほど前に俺と会話をしていた場所から一歩も動いていない。視線を彷徨かせ、どうすればいいのか分からずにただ木偶の坊のように突っ立っているだけだった。俺は呆れた声を上げる。



「あれから何もしていないのか?」


「だって、分からない」


「思い付くもので、一心不乱に試行錯誤を繰り返せ」


「…?」



アリスは動かない。困惑するように視線を彷徨かせるだけだ。



「はぁ…仕方がない。助言を与えてやる」



俺は人差し指で、自分のこめかみを叩いて言った。



「お前の場合、どうすればいいか迷った時は勘に頼れ。この数日でアリスの勘は一級品だということが分かった。洞窟でも俺が獣の住みかだと気付く前に、嫌な予感がすると危機を回避しようとしていた。その直感はお前の強みだ。武器になる」


「勘」


「そうだ。勘に頼りすぎるのはよくないがな。判断材料としては十分に信用できる。…そうだな。アリス、目を閉じろ」



素直に目を閉じたアリスに、俺は問いかける。



「俺の作り方を参考にしようとするから、混乱しているんだ。一旦忘れろ。自分が作りたい杖の形を考えて、自分の直感に任せろ」



アリスはずっと俺の作業を見ていたから、俺の杖のイメージが基準になってしまっている。似た魔力の者同士ならば参考になるが、俺とアリスは正反対の性質の魔力。俺のものを参考にすることで逆に自分の杖のイメージを持つことができなくなっている。


魔力には種類がある。正確に何種類とは決められていないが、本質によって使う魔法も相性もある程度決まってくる。


俺の魔力は本質は闇。魔物ならば大体は闇になる。その中でも俺は特に闇の性質が強い。闇の魔力は、"混沌"、"憎悪"、"悪意"などが源だという説がある。俺が杖の材料として己で殺した獣の血を使うのはそれが理由だ。


血には獣たちの俺への恨みが溶けている。血に感情が溶けるなど、と笑う者もいるが、魔法は感情や想いによって大きく変化するもの。血に力が宿ることもある。恨みは闇の魔法の源、だから俺は材料として選らんだ。しかし、血だけでは所有者である俺への恨みが強すぎるため、杖が命令を聞かない可能性が出てくるかもしれない。そのために似ている色の液体ーーー葡萄酒で血を薄めた。これが俺の杖だ。


逆に、アリスは強い光の魔力。聖女に相応しい性質の魔力だ。聖女に恨みなど必要あるだろうか。


自分の魔力の本質を知り、それに合う材料を己で選び調合し、杖に手を加えていく。これが杖を作るということだ。


暫く目を閉じていたアリスは、ゆっくりと目を開けた。目から迷いがなくなっている。



「聖水に蜂蜜。あと…」



ととっ…と彼女は窓へと走り、庭を見て、そこに咲いている花を指差した。



「あの白い花。名前は知らない、けど、あれがいい」


「ではそれがお前にとっての正解だろう。さっさと取ってこい」


「うん。ありがとう、レオ」



アリスはそう言って部屋を飛び出していった。






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