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魔王と聖女の転生日記 31


「魔法は?レオが前使ってた、火。効くかも」


「こんな密閉に近い空間でか?俺はともかくお前たちは間違いなく、一酸化炭素中毒になる上に身体に大火傷を負うぞ。それでいいならやるが」


「嫌ですよ!そんなの聞いて、はいやってください、なんて言う人います?!」


「他の魔法」


「あるにはあるが、そのほとんどが洞窟を崩壊させる可能性があるな。それかお前たちが死ぬ可能性。…いっそのこと、サルトを餌として差し出せばいいんじゃないか。一人食えばアイツらも満足するだろう。あの獣たちは腹一杯になり、俺たちはゆっくり採集できる。いいことずくめだ」


「マジでアンタ、性格悪いですね?!普通本人の前で、コイツ使えねぇから食わせようぜ、なんて言いますか?!」


「俺は言う」


「駄目。レオ」


「レオさんは、アリスさんの爪の垢を煎じて飲んだほうがいいですよ!本当に!」



俺たちはそんな会話をしながら、洞窟の奥へと進む。俺とサルトはいいが、アリスはドレスのまま来ているので動きにくそうだった。


後ろを振りかえると、狼たちも追ってきている。俺を警戒して距離を開けてはいるが、俺たちの体力が底をついたら一気に仕留める気なのだろう。



「…レオ、湖!!進めない!」



アリスのその声と同時に、道は終わり、開けた場所に出る。前を向き直すと洞窟の中に地底湖が広がっていた。



「大分開けた場所に出たな。ここなら剣を思う存分に振るえる。二人は奥へ離れていろ。アリス、やり方は分かるな?」


「…!分かった」



はっとした顔をして、アリスがサルトを連れて湖へと走る。俺はその場に残り、狼を待つことにした。



「え?分かったって、湖で行き止まりなのに?」


「ううん。行き止まりじゃない」




ーーーーー水の精霊よ。水上を自由に歩める脚を貸せ。




アリスが唱えたのは、俺が気紛れで教えた魔法だった。そして、ドレスの長い裾をたくしあげ、水面に足を踏み入れる。足裏に魔力を流しているため、彼女の身体が冷たい水の中に落ちることはない。



「サルトも、早く!」



そして、呆然とアリスを見るばかりで、一向に動く気配のないサルトに手を伸ばして呼び掛ける。



「いや、無理ですよ?」


「…?」


「いや、あの、なんで水面に立っているんですか?」


「水は床。だから、立てる。当たり前」


「当たり前じゃありませんが?!」



あぁ、そうか。サルトは知らないんだったな。二人の会話に俺は思い出す。



「水は踏めて当たり前だと思い込め。あとはアリスが言った詠唱を言えばどうにかなる」



剣を構え、狼と対峙しながら俺が助言を与えてやると、「水が踏めて当たり前?!正気ですか?」と返ってきた。



「思い込め。水は固いということを少しでも疑えば失敗するぞ」


「水の精霊よ!水上を自由に歩める自由に脚を貸せ!!…無理ですけどぉ!!普通に沈んでます!」


「サルト。早く。狼、来てる」


「分かってます!分かってますが…」



サルトはアリスのようにすぐにコツを掴むことができなかった。しかし、獣は待ってはくれない。ジリジリとこちらに近寄ってきて、危機的状況であることをサルトも理解し焦りを覚えている。焦っているせいで余計に魔法に集中できず、できないせいでまた焦る。悪循環だ。


アリスも放っておけばいいだろうに、わざわざサルトのために待っている。



「邪魔だ。さっさと行け。言っておくが俺は守らないからな。己の身は自分で守れ」


「だから…逃げたくても逃げられないんですって!!」


「はぁ…」



仕方がない。このままお荷物が背後にいて、喚かれるよりはマシだ。


俺はアリスたちの元に走る。そして、サルトが着ている服を掴み、そのまま勢いよく放り投げた。彼は湖の中央に、ドボンと音をたてて落ちる。



「魔法が使えぬのなら、死ぬ気で泳げ」



乱暴をするな、とアリスが咎める声を上げる。



「レオ」


「少し手荒な手段をとっただけだ。狼に食い殺されるよりはいいのではないか?お前が水面で腕でも支えてやれば溺れることもないだろう」


「…分かった。レオ、気を付けてね」



アリスは湖の上を走っていく。俺はそれを見届けて、前に向き直った。



「久しぶりの戦闘で、しかも今の俺は幼子だ。お手柔らかに頼むぞ?」



とんとんっ…と左足で地面を軽く蹴り、袖をまくる。肩の力を抜いて、短剣を右手で持ち、息を整える。



「さぁ、始めようか」



剣を片手に、暗闇に溶け込む狼の群れに飛び込んだ。


















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