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魔王と聖女の転生日記 30



(この薬草は…前世の世界の物に似ているな。火で少し炙って、先程取った別の薬草と組み合わせれば…)



採集した植物の細部を見て、香りや手触りを確認していく。この世界の生態系は細かい部分は違うが、大体は前の世界に似通っている。そのため前世の知識が役に立った。とり尽くさない程度に残して、俺はアリスたちがいる場所へと向かう。


アリスは黙々と、サルトは時々ハンマーを指にぶつけて悲鳴を上げながら、作業をしていた。膨らんだ袋を見る限り、それなりに採集はできたようだ。



「お前たちの方は終わったか?」


「うん。レオに言われた物と、あと魔法石も見つけた」



これ、とアリスは魔法石を見せてくる。ほう、この洞窟にもあったのか。



「それは良い収穫だ。この大きさならば、当分困ることはないだろう。奥の分は取ったから、場所を移動するか。分かれ道の右の方だ」



俺たちは分かれ道に戻り、先程とは逆の方向へ曲がる。特に前の道と変わりはない。強いて言うのならば、こちらは植物の数が少ない気はする。


暫く歩いていたが、突然ピタリとアリスは足を止めた。



「アリス?」



後ろを振り返り、どうしたのかと尋ねる。ランプで照らすと、彼女が焦ったような顔をしているのが分かった。



「レオ、やっぱりこっちは駄目」


「先程まで、平気そうにしていただろう?急にどうした?」


「分からない。でもこっちは駄目。なんとなく、嫌な気がする」



なんとなく。その言葉がアリスの口から聞くのは何度めだろうか。普段ならば杞憂だと切り捨てるそれは、アリスが言うと意味が違ってくる。



(アリスの勘はよく当たる。認めざるを得ない)



聖女としての資質なのかは知らないが、彼女は勘が鋭い。


アリスは、勘と運で実際に俺という魔王を倒して見せた。土壇場で杖の正しい使い方を直感し、それを実行に移し、そして自爆魔法を成功させた。


彼女の勘を気のせいだと切り捨てることはできない。俺は前に進む代わりに、周りを注意深く観察した。



「…なるほど」



洞窟の壁に手を当てると、小さな傷がいくつかあった。人の手がある位置ではなく、俺たちの足元の辺りだ。そして、道の端に捨てられている果実を見つける。



(洞窟の中に果実。木の実がなる植物など生えていない場所にだ。しかも、歯形がついてある。これは…)



アリスの勘は当たりだな。暗闇から微かに聞こえる複数の軽い足音を聞き、俺はそう確信した。



「例の獣の住処か…二人とも、しゃがめ」


「え?」


「分かった」



俺はそう言うと同時に懐から短剣を取り出す。俺の声にいち早く反応したアリスがサルトの頭を掴み無理矢理しゃがませ、その瞬間に二人がいた場所に牙を向いた狼が飛び込んできた。素早く鞘を外し、狼の首を掻き切る。どばり、と生ぬるい血が手を汚す。



「ギャッ…ウ…」



狼は苦しげに呻き、俺は深くまで剣を通したことを確認して勢いよく剣を抜いた。濃い血の匂い、前世で嗅ぎ慣れた匂いが辺りに満ちる。



「え…ぁ…?」


「大丈夫?」



何が起こったのか理解できなかったのだろう。まだ頭を押さえられたままのサルトは、目を見開き、地面に倒れてピクピクと痙攣している狼を見つめている。反応からして、動物が殺されるところを初めて見たのか。アリスは心配そうにサルトに声をかけている。



「アリス、サルト。休んでいる暇はなさそうだぞ」


「グルルル…」



足音、威嚇の鳴き声からして五十体ほどの狼がいた。大きな群れのようだ。仲間が殺されたことにより俺たちは完全に敵だと認識されたらしく、涎を滴し鋭い牙を向いてくる。


彼らが来たのは洞窟の奥からではなく、出口の方からだった。ならば、ここは彼らの住みかで、今までは外出していたらしい。



「狩りから帰ってきたか。そして、どうやら狩りは収穫なしのようだな」



目が空腹時の獣のそれだ。そこにのこのこ現れた人間三人。彼らにとってはご馳走以外の何物でもない。


俺は剣についた血を払い、軽く構える。洞窟の道は狭い。両手を大きく広げれば簡単に当たってしまう狭さだ。ここでは剣が振りにくい。


しかし、出口がある方向に彼らがいるのだから脱出は不可能。外に誘き寄せて迎え撃つことはできない。洞窟の中で仕留めるしかないか。



「二人とも後ろに下がれ。邪魔だ」



アリスがこくりと頷いた。任せる、と狼たちを刺激しないように小声で呟いて、サルトを引きずり俺の後ろへと移動する。どうでもいいが、先程からサルトへの扱いが雑だな。まぁ、緊急事態だから仕方がないかもしれないが。


前にいた三匹がバッ…と俺に向かって走ってきた。一匹が跳躍し、二匹は姿勢を低くして足元を狙う作戦のようだ。獣にしては連携がとれているが…甘い。


俺は右足で地面にいた一匹を蹴り上げ、空中にいる一匹の目玉に剣を突き刺す。二匹がやられたことに狼狽えて、一瞬の隙を見せた最後の三匹目を足で踏みつけた。



(やはり筋力をつけなくては。これくらいの獣さえ純粋な筋力のみでは踏み潰せないとはな)



魔法で足の筋力を強化して、暴れる狼の頭を踏み潰す。パンッ…と果実が破裂したように、血液が巻き散らされる。



「ギャ…ガウゥ…」


「あぁ。次はお前だな」



目玉に突き刺した剣を更に押し込み、脳まで貫通させる。暴れる力がなくなったことを感じ、剣を横に動かして完全に命を刈り取る。ドサドサと一気に四匹の死体が俺の周りに積み上がる。しまったな。足場が狭くなった。


俺の動きを見て簡単に仕留めることはできないと理解したらしい。すぐに攻撃をするのではなく、低く唸りながらタイミングを見ている。


八匹ほどが動いた。大きいのが二匹混じっている。コイツらから仕留めた方がよさそうだ。動きが他のよりも段違いに速い。


剣で腹を引き裂き、手で握りつぶし、足で蹴り上げてまた踏み潰す。子供の身体では軽すぎて、少しバランスを崩しそうになるため気を付けつつ、一匹一匹を確実に仕留めていく。


しかし、一匹が俺の横をすり抜けた。俺に攻撃を加えるようなことはせず、俺の後ろのアリスたちを狙うことにしたようだ。



「え?!え、止めてください!僕、美味しくないです!美味しくないですって!」



サルトの叫び声が聞こえる。相変わらずよく響く。



「サルト!」



アリスがサルトの前に立ち、懐から小瓶を取り出して、中の液体を狼にかけた。狼の断末魔が洞窟に響く。生きながら身体を溶かされる苦痛を叫び声で表す狼は、既に肉が溶かされ白い骨が見えている。


アリスがかけたのは、俺が先程渡した聖水の失敗作だ。すぐさまそれを攻撃の手段として思い付いたアリスに、俺は少し感心した。



「ひぃぃぃ!怖っわ!レオさん、何ていうもの持ってたんですか?!骨!骨になったんですが?!」



十数秒もしない内に、先程まで肉を持ち内臓が詰まっていた狼の身体は、白い骨のみとなった。絶対に触れたくない、と思ったのかサルトはその骨からも距離をとろうとしている。



「即効性じゃなかったら、お前たちは今頃死んでいたぞ。失敗作だったがなかなか使い勝手がいいな。いっそのこと商品にしようか」



そんな会話をしつつも、勿論手は休めていない。数は半分は削った。死体まみれになった足場を見て、俺は舌打ちした。



「ちっ…ここだと狭すぎる。奥へ走れ」




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