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魔王と聖女の転生日記 29

無事に鉱石を採集し終わり、辺りを見回す。奥にはまだ幾つか光があるから、同じような鉱石がまだあるということだ。


そして、その鉱石の周りには植物も生えていた。一枚葉をちぎって、観察する。



(雑草ではなさそうだな)



これも使えそうだ。



「ふむ…アリスとサルトはこの辺りにある物を採集してくれ。あちら側はあまり材料として向いていなさそうだから、取らなくていい。俺はもう少し奥の方を探してくる。道具はこれを使え」



俺が採集していたのを見ていたのだから、やり方は分かるだろう。俺はアリスとサルトにもう一つランプを渡し、そして採集用の道具を渡した。


ここの採集は二人に任せ、俺は他にも採れる物はないかと奥へと進む。すぐに行き止まりにぶつかった。やはりそこまで距離のある道ではなかったようだ。



(採集できたものは、種類が少ないな)



できればもっと数種類は鉱石や薬草を集めたいのだが。取り敢えず、今ここにある分を集めるかと考えたその時だった。



「うわぁぁぁぁ!!」



二人を残してきた後ろから、悲鳴が上がった。アリスの声にしては低いので、サルトの悲鳴だろう。今度は何だ。


サルトのことだ、またしょうもないことで騒いでいるのでは、と呆れつつ、俺は来た道を戻る。



「…何があった?」



アリスの背中に隠れてブルブルと震えるサルトと、叫び声も上げずに平然と立っているアリスがそこにはいた。アリスの手にはハンマーと鉱石の欠片が握られている。採集の途中に、サルトに邪魔されたようだ。


アリスが怖がっていないところを見ると、やはり大事ではないらしい。



「鼠!鼠ぃぃぃがいるぅぅぅ!!」



俺は説明を求める目を、アリスに向ける。



「サルトが鼠を見つけた。で、怖いみたい。自爆魔法でやっつけるべき?」



チュウ。アリスが指差す先に、小さな鼠がいた。この鼠を怖がっていると?それに我が妹は、この小さな鼠一匹のために魔王をも倒した自爆魔法を使うと?


アリスは自爆魔法以外に攻撃魔法を知らないからなのだろうが…無駄使いにも程があるのではないだろうか。この二人、あり得ないぐらいに使えない。俺はそう結論付けた。



「お前、次は鼠と心中するつもりか?俺が言えることではないが、もう少し自分の命を大切にしたらどうだ?」


「無理!ここに、鼠がいるなんて聞いてません!!出ましょう?!ここ、今すぐに、出ましょう?!ねぇ!!」


「ただの鼠。落ち着いて、サルト」


「僕、基本的に小さい動物は好きですけど、アイツだけは無理なんです!!あの目玉と、あのなんかウネウネ動くミミズみたいな尻尾と、あの前歯!!めっちゃ怖いんです。分かります?分かってくれますよね?だから、出ましょう?!」



サルトは、鼠の恐ろしさを力説する。


例えば、あの目。こちらをじっと見てくる目は、妙な圧を感じさせ、小動物とは思えない怖さがある。例えば、尻尾。ふわふわの尻尾ならば許せるが、あの尻尾は許せない。例えば、前歯。あの前歯にガジガジ齧られるのが怖い。


悪いが、サルト。お前が鼠を毛嫌いしているのは十二分に分かったが、お前の鼠への恐怖は一ミリも理解できない。



(これが、それほど恐ろしいのか?)



俺は鼠と顔を見合わせる。鼠はサルトが大暴れするのを見て首を傾げていた。特別狂暴な訳でもなく、害もないこの生き物が?


手で鼠を追い払うと、それはあっさりと逃げていった。



「お前の言う危機は去ったぞ」


「本当ですか?もう目を開けてもあの小さな悪魔はいません…?」


「小さな悪魔が鼠のことならば、逃げていった」


「良かったぁぁ…」



ちゃんと鼠がいないことを確認すると、サルトは心底安心したような声を上げた。


彼が鼠を怖がっているのはわざとではないのは分かった。しかし、こうも騒がれると今後も採集に大きな遅れがでそうだ。



(失敗作だが、使えるだろう)



俺は懐から瓶を取り出した。



「サルト、手を出せ」


「え?は、はい?」


「良いから、手を出せ。今すぐに。指を切り落とされたいか?」


「イエッサー。すぐに手を出します」



慌てて広げられた手に、俺は黒い液体の入った瓶を置いた。アリスに頼む前に、一度自分で聖水を作れるか試してみて失敗したものだ。俺の魔力によって聖水とは程遠い品物になっている。


植物の葉の他にも溶けるのか試してみたが、台所にあった鶏肉も簡単に溶けた。しかし、ガラスを溶かすことはないようなので、溶かすことができるのは生物だけのようだ。



「これを持っておけ。いちいち鼠ごときで大声を出されては敵わん。お前もアリスもロクな攻撃魔法を使えないようだからな。鼠が出れば蓋を開けて瓶の中身をかけろ。すぐに解決する」



そう。すぐに解決する。かければ途端に鼠は、骨まで溶かされるだろうからな。



「グツグツ言ってるんですけど。この液体、煮詰めてもないのに、ほんのり温かくて、瓶の中でグツグツ言ってるんですけど。これ、何か聞いても良いですか?」


「その液体は生物の肉体を溶かす」


「怖っっっわ!!!嫌です!嫌!!僕、そんな恐ろしい物を触ってたくないです。え、ちょっと僕の手にあるこの瓶、誰か取ってください。恐ろしくて離すことさえできないんです」


お前が鼠が嫌だと言うから渡してやったのに。贅沢ばかり言う奴だな。



「アリス」


「分かった。私が預かっておく。鼠が出たら言ってね、サルト」



瓶を持ったまま固まっている彼の手から、アリスは瓶を抜き取り、両手でしっかりと握る。大丈夫、任せて。と言いたげな顔だ。



「やだ。アリスさん、男前ぇぇ…」



サルトよりもアリスの方が肝が据わっているのは確かだな。俺はサルトの言葉に頷いた。




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