魔王と聖女の転生日記 28
歩いていると、森の中に洞窟を見つけた。入口は人が一人やっと入れるくらいの大きさだが、中は比較的広い道になっているようだ。
貴重な杖の材料は、洞窟で見つけられるものが多くある。鉱石などもそうだし、日光をそこまで必要としない薬草などもだ。
「洞窟ですか?」
「ここが良さそうだな。アリスは暗い所は平気だな?」
「うん。大丈夫」
家から持ってきたランプを持って、俺が歩き、次にアリス、サルトと続く。誰も今まで入ったことがないはずの洞窟にしては、そこまで歩きにくくはない。薄暗いが、ランプの明かりをつければ難なく進むことが出来た。
十分ほど進むと、道が二つに分かれていた。
「あ、分かれ道ですね。どっちに行きます?」
後ろから、サルトが声をかけてくる。
「別にどちらでもよかろう。どうせ後からもう一方も行くことになる」
どちらも同じような広さだ。入口が小さな洞窟にしては、大分歩いたから二つの道もそこまで長くはないはずだ。どちらか片方に進み、行き止まりになったところで引き返して、もう一方も進めばいいだろう。
「じゃあ、左」
アリスが、俺たちから見て左にある道を指差した。
「構わないが…何故だ?」
二つの道に特に大きな違いはない。しかし、迷いなく彼女は左を選択したので、何か理由があるのかと尋ねる。
「なんとなく。こっちが良い気がする」
とだけ、アリスは言った。左を選んだのは、ただの勘によるものだったらしい。
アリスが選んだ左の道を俺たちは進み、入口の光が届かなくなるほど深くまで進んだ頃、道の先がぼんやりと光っているのが見えた。
光り方からして、洞窟の隙間から差し込む日光が原因ではないのは確かだ。「人魂?!お化け?!」とそれを見て、サルトの甲高い悲鳴が上がる。
(やはり五月蝿い。声帯を…)
俺が心の中でそう思うと、後ろにいたアリスは俺の考えを読んだかのように「…ハンバーグ、人質」と呟いた。
俺はまた溜め息をついて、指を鳴らす代わりに、「違う」とサルトの声に答えた。
「おそらく、あれは俺たちが探していたものだな」
光に近付くと、その光は地面に近い位置にあることが分かる。人魂といった類いのものならば、もっと上に浮かんでいるだろう。だから、これは…。
「光っているということは、魔力のある鉱物だ。これも杖の材料になる」
俺はランプをその光に近付ける。光の正体は予想通り、鉱物だった。
洞窟の壁には穴はないから、この石は日光を反射して輝いている訳ではないだろう。自らぼんやりと光っているのならば、それなりに魔力は溜まっているはずだ。杖作りに使える。
「え?お化けじゃないんですか?」
「みたい。だから、サルト。大丈夫。戻ってきて」
鉱石の光をお化けだと思った瞬間に、外に向かって逃げ出していたサルトと、彼を呼び止めるアリスの声を聞き流しつつ、俺は持っていた袋から鉱物を採集するための道具を取り出す。
こればかりは家で探してもなかったので、自分で使ったものだ。簡単に適当に作ったものので、使いやすくはないが、一応使える。
「ハンマー?家にこんなの、あった?」
「なかった。だから、俺が昨日作ったものだ。取り敢えず採集さえ出来れば良かったからな、重さも足りていないし道具としての品質は悪いが」
俺が鉱物を採集していると、アリスが興味深そうに俺の手元を覗き込んできた。
「この袋にあるものも、レオが作ったの?ロープとかも?飛べるのに?」
「あぁ。前世とは違って、魔力を湯水のように使うことは出来ないんだ。魔力を節約するために、手でできるものは手でやる。ロープは洞窟にも崖がある時があるだろう。その時のためのものだ。洞窟の中ならば、あんな大きな翼を動かすことは出来ない。下手したら、風で洞窟が崩壊する」
「凄い」
アリスは感心したようにそう言って、そして思い出したように「あ、でも…」と続けた。
「ロープで、崖の時、サルトを助け出せたんじゃ?」
「お前がロープを貸せとは一言も言わなかったからだ。その前に、ドレスが汚れるのも気にせずに手を伸ばし出したからな。しかも、その後すぐにサルトは落ちたから、仕方なく魔法を使うことになった」
「貴方が、ロープを持ってるとは思わなかったから。貴方は力があるから、そういう手作業もしないんだと思ってた。意外」
魔法を使わずに手作業の方が都合が良いなら、俺だって人間と同じように手を使う。
アリスは俺を何だと思っているんだか。




