魔王と聖女の転生日記 27
前の生では見たことのない石だ。俺は興味を引かれ、サルトの手にある石をじっと見つめる。
まだ原石だから輝きは目立たないが、色合いは悪くない。磨けばそれなりに美しい石になるだろう。あとは、魔法石のように特別な力があるかどうかだが…。
「手にとって見ても構わないか?」
「ええ、全然良いですよ。僕には価値なんてサッパリ分かりませんし」
どうぞ、とあっさりとサルトは俺に石を渡す。俺は軽く頷いて、それを受け取る。
俺は暫くその石を観察した後、魔法石に魔力を入れた時のように軽くその石にも魔力を流した。
「色!変わった…」
草緑色から、透き通った紅色に。俺が魔力を流せば流す程、石は濃い赤色になっていく。
俺と同じように石を観察していたアリスが声を上げた。サルトも「え?赤?何故です?」と驚いていた。
「魔力を流せば色が変わる石か。面白い。上手く加工すれば、杖の材料になりそうだ。サルト、これはいくらだ?」
「え?!いや、値段なんて知りませんよ。でもレオさんの反応からして、これって結構珍しかったりしますか?」
「知らん。俺はまだこちらの世界に関しての情報があまり知らないからな。石が珍しいのか高価なのかは俺が言えることではない。…が、これが杖の材料になりそうなことは分かった。だから売れ」
「売れ、って急に言われましても…」
サルトは困惑するように視線を彷徨かせ、言葉を濁した。
彼はまだ子供だ。まだ物の価値も分かっていない年頃の子供に、お前が待っているものは必要だから渡せと迫っても、簡単には話を呑み込めないだろう。
仕方がない。
「そうか。…流石にお前の石を盗るような真似はしない。残念だがな」
そう言って、俺は石を返した。
「えっ…?あ、ありがとうございます?」
「さて、話を戻そう。アリスは帰る気がない。そうだな?そして、サルトを置き去りにすることも許しはしないか」
「そう。私も杖欲しい。そして、サルトも一緒に連れていく。ここで置いていったら、また崖に落ちる。獣もいる。危ない」
「流石に二度も崖に落ちませんが?!アリスさんは、僕をそんな間抜けだと思っ…」
べちゃり。歩いていたサルトが倒れる。サルトの足元を俺とアリスが見ると、そこには木の根が地面から出ていた。これにサルトはつまづいたらしい。
俺は自分の足元を見るが、木の根はない。サルトが丁度歩いていた所に、大きな木の根があったようだ。別に森も歩きにくいという訳ではなく、足元に適度に注意すればつまづいくことも回避できたはず。
運が悪いのか、それとも不注意が多いのか。
「サルト、俺はまたお前は崖に落ちると思うぞ」
「うん。レオに同意」
流石にあんなヘマはもうしないと宣言した瞬間に、この様だ。崖には落ちなくとも、似たようなことにはなる。絶対になる。そんな確信めいた予感がする。
アリスも同じことを思ったのか、すぐに俺の言葉に同意した。
地面に転がるサルトは、自分の顔を両手で覆い隠す。
「恥ずかしいです。恥ずかしすぎて、穴があったら入りたい…。僕がこの三人の中で一番歳上なのに…」
「なるほど。崖の次は穴に落ちるのか。ありそうだな」
「次も助けるから、安心して落ちて。サルト」
「そういう意味じゃないです!!この二人、天然?!意外と天然なんですか?!」
そんな会話をしながら、俺たちは杖の材料となる物を探して森を歩き回った。
「これは?」
「却下だ。アリス、お前はそこら辺に落ちている木の枝が杖になると思うのか?」
「意外となるかもしれない」
「ならない。捨てろ」
「これとかはどうですか?」
「サルト、お前の手にあるそれは毒キノコだ。長時間持っていれば、手が腐っていくぞ」
「ヒィィ!!マジですか?!」
この二人、全く役に立たん。
アリスは杖が何かをまだ理解しきれていないのか目についた物を俺に使えないかと尋ねてくるし、サルトの場合は目をつける物は悪くないが、何故か取り扱いに困る危険物ばかりを選ぶ。
それも、彼自身は別に危ない物を選んでいるという自覚がないそうだ。




