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学校 9


学校に通う生徒たちは基本的に寮暮らしとなっている。


申請すれば実家から通うことも可能らしいが、俺たちが住んでいる別荘は学校からかなり離れたところにあるので、俺とアリスは寮で暮らすことになっていた。


制服になるシャツとズボンを最低限の数だけ詰め、後は教科書や筆記用具といった細々としたものを詰めていく。


トランク一つだけという俺の荷物に、父様からは「それだけでいいのかい?」と驚かれたけれど、元々荷物は少ない方なのだ。本や実験器具などは実験室に収納してあるし、それは後で人形で運ばせることになっている。



「本当についていかなくて大丈夫かい?」


「学校へ向かうまでに、一晩宿に泊まるだけでしょう? それくらい平気ですよ」


「でも…」


「それにアンドレ殿の知人の方が経営している信頼できる場所とのことですし。心配には及びません」



確かにそうかもしれないけど…でも…と父様は落ち着かないのか、オロオロとしている。


数日前から「本当に通うのかい?」「今からでもやめていいんだよ?」「辛くなったらいつだって帰ってきていいからね」と煩かったのだけれど、今日はまた一段と落ち着きがないな。


俺は溜め息をついて「父様」と声をかける。



「俺とアリスは本当に大丈夫です。アリスも自分の身を最低限守れますし、アクイラ家の噂に萎縮するほど俺たちは弱くありません」


「…そうだね。君たちは強い子だ。アリスも昔よりずっと強くなった」


「ええ、そうですね」


「レオ、アリスのことを頼むね。あの子は強いけど、時々危ういところがあるから、あの子の心を守ってあげてくれ」


「父様こそ。最近は忙しくしているようですが、母様のこともしっかり気にかけてくださいね。最近少し眠りが浅いご様子ですよ」


「そうか…。分かった、気をつけて見ておくよ」



アリスの荷物も馬車に積み、そして出発の時間がやってきた。



「ては、行って参ります」


「行ってきます」



父様と母様は最後まで心配している様子だったが、それでも最後には笑顔で送り出していた。


色々と彼らなりに思うところはあるのだろうが、それでも自分たちの考えに従わせようとするのではなく、子供の意思を尊重しようとする姿勢は好感が持てるな。



「レオ」


「なんだ」


「私は変われたかな。もう見てばかりだった私じゃない?」


「少なくとも、自分で考える頭と動くべき時に動ける力は手に入れただろう」


「そっか」


「あぁ」


「でも、まだまだかな。もっとできることを沢山増やしたい」


「そのために学びに行くんだろう」


「そうだね。見て、聞いて、もっと沢山のことを学びたいな」



アリスは馬車から窓の外を眺めながら、なにかを思い出すかのように目を細める。



「昔の私はなにも知らなかった。外の世界がこんな綺麗だって知らなかった。なに一つ外のことを知らなくて、初めて部屋を出た時は、これから私はなんでも知ることができるんだって嬉しく思った」


「…」


「だけど、教えてもらったのは神父様から、“聖女”として知るべき最低限のことだけ。他のことに興味を持つことは許されなかった。それがとても…そう、悲しかったのかな。悲しくて苦しかったのかも」


「…そうか」


「だから、今、ものすごく嬉しい。一度死んで、“聖女”じゃなくなって、“アリス・アクイラ”という名前をもらって。そしてまた学び直すことができるの。今度は自由に、好きなだけ」



アリスは自分の手のひらを見つめて、そして拳を握りしめた。これが幸せっていうことなのかな、と柔らかい声で言う。



「レオ。あの時、私と死んでくれてありがとう」


「…」


「皮肉じゃないよ。心からそう思うの。前世の記憶がなかった貴方からも沢山のものをもらったけれど、今の貴方からも色んなことを教えてもらった。貴方に出会えてよかったと思ってる」


「…一応、どういたしまして、と答えておこうか」


「可愛くない返事」


「可愛さを求めるな」



まぁ色々と学べるといいな、と俺が返せばアリスは少し目を丸くした後、「うん」と微笑んだ。


そのまま半日以上の間、馬車の中で揺られ、俺たちはようやく一泊する予定になっている町にたどり着いた。座りすぎて固くなった身体の筋肉をほぐしながら、さて、と辺りを見回す。


この辺りで迎えが来ることになっているはずだが…。



「あ! レオさん! アリスさん! こちらです!」


「サルト。お前が迎えなのか?」


「そうですよぉ。本当は父様が仕事を終わらせてから直接こっちにくる予定だったんですけど、思ったよりも前の仕事が長引いているみたいで…。僕が代わりに来ることになりました」


「そうか」


「言っておきますけど、苦情は受け付けませんからね。迎えに来ただけでも感謝して欲しいくらいですよ。本当に!」


「どうもありがとう」


「棒読みのお礼はいらないです」


「相変わらず贅沢な奴だな」



レオさんは変わりませんね…と苦笑しながらサルトはアリスに目を向け、「アリスさんもお久しぶりです。見ない間にまたお綺麗になられましたね」と言う。


アリスも笑って「サルトも身長が伸びて更に格好よくなったね」と返事を返した。



「では、ご案内しますね。父様も流石にそろそろ仕事を終えていると思います」



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