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学校 8


俺に促され、アリスは唇を噛み締め、そしてゆっくりと言葉を選びながら話し始める。



「私、私ね」


「…ええ」


「二年前、エヴィに救われたの」


「私が? アンタを?」


「うん。自分は不幸じゃないって前を向いている貴方がとても眩しく見えて、貴方みたいになりたいって思った。…ずっと強くなりたいと思っていたけど、強さってどんなものなのかよく分からなくて、レオみたいになりたいって思っても私には無理だった。だからエヴィを見て、こんな強さもあるんだって知ったの」


「…私はそんな大層なものじゃないわよ」


「強いよ、エヴィは強い。レオみたいに分かりやすい強さじゃないけど、レオにはない強さを持ってる。まるで崖の上に咲く花みたい」


「…」


「エヴィみたいになりたいって、目指したい強さを見つけたから、私は今の私になれた。少しは成長したかなって思ってる」



アリスは自分の胸に手を当てて、静かに目を伏せる。



「昔は自分の意見を言うことが怖かったけど、普通に話せるようになれた。自分の感情がちょっと分かるようになった。表情も前より豊かになったねって父様たちに喜んでもらえた。レオに教えてもらって、少しだけなら大切な人たちを守れる力を身につけられた」



どれも貴方がいてくれたおかげ、とアリスはにこやかに微笑んだ。



「アリスが頑張ったからでしょ」


「でも、きっかけをくれたのはエヴィだよ」


「そんなこと…」


「あるの。少なくとも私にとってはそうだった」



だからね、とアリスはエヴィに駆け寄り、その手を自身の両手で包み込むように握る。



「自分と一緒にいれば迷惑がかかるなんて、そんな悲しいことを言わないで。どうかこれからも隣にいさせて欲しい」



…アリスはこの二年で、随分と自分の考えを口にするようになったと思う。


それまでの彼女は、神父様とやらの思想に考えが染まっているようなところがあったけれど、あの事故を見て彼女なりに思うところがあったようだ。


今では予想外の出来事に直面した時、自身の育ての親がかつて言っていた言葉に縋るのではなく、まずは自分の頭で考えようとする努力が見られる。


体術も教えた魔法もそう簡単に習得できるものではない。特に教えた二つの魔法のうち、その片方は彼女の過去のトラウマを呼び起こすような、取り扱いの難しいものだ。


毎日、何時間も泣きながら杖を握りしめて練習していた姿を見てきたからな。俺もそれなりに彼女の覚悟と努力は評価している。



「〜っ! アリス!」



エヴィはアリスの言葉を聞いて、感極まったように涙ぐんで彼女に飛びついた。そして強く抱きしめ「…ありがとう」と呟く。



「一緒にいてくれる?」 


「もちろんよ! 今更嫌って言っても、もう離れてやらないんだから!」


「私たちって友達?」


「友達よ! 前からずっとね!!」


「そっか…。友達ができたの初めて。嬉しい」



なんとかなりそうだな。二人の会話を聞きながら、とりあえず解決はしたらしいと俺は安堵する。それから顎に手を当て、さて…と今後のことを考え始めた。


アクイラ家の子供として入学する以上、多少は風当たりが強くなるだろうと覚悟していたのだけれど、それに加えて少しばかり気になることができた。


花の神隠し…な。平民の女子生徒が狙って孤立させられるのだとしても、子供だけのいじめで何人も姿を消すというのはあまり考えにくい。あの店主の話を聞くに、もしかしたら学校側にも問題があるのかもしれない。



「一応実験室も持っていくとして…念のため、少し助けを借りるか」



既に学校の周辺に小動物の人形を放ち、情報収集を行っているのだけれど、状況把握のために学校内の監視も増やした方がよさそうだ。


校内を歩ける生き物には限りがあるし、こちらの方法の方が人形の数を増やすよりも効果があるかもしれない。


これから数年間通うのだ。在学中の間、ずっと気を張り続けるのは疲れるし、もしあの場所に問題があるのならば短期間のうちに片付けておきたい。



「…人生初の学校生活だが、退屈の心配はなさそうだな」



一応は学びを得ることを目的として通うので、面倒事ばかりというのも正直困るのだけれど。まぁ、少しくらい刺激があった方が後々、いい思い出となるのかもしれない。そう思うことにしよう。


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