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学校 7


「レオ。今の」



オリバーが去った後、アリスはこちらに駆け寄ってきて、そして困惑したような顔で話しかけてきた。



「あぁ、嘘と本音が微妙に混じってるな。だからこそ余計に本心が分かりにくい」



大抵の人間の嘘は見抜ける自信があるのだけれど、アイツの場合は妙にやりにくい。なんというか、掴み所がないのだ。


博覧会では俺たちのことを嫌っていると思っていたのだけれど、それにしては妙に馴れ馴れしいし、腹の中に抱えているのはただの嫌悪感だけではなさそうだ。


計算してそう振る舞っているのか、それともあれが素なのかは知らないけれど、一人の人間と話しているというよりは、まるで“オリバー・セルペンス”という登場人物になりきっている役者と話しているような気分になる。もしくは道化師とかその辺のもの。



「お前にはどう見える?」



こういったことはアリスの方が得意だろうと意見を求めれば、アリスは困ったように眉を下げ、「…多分だけど」と口を開いた。



「嘘で本心を塗り固め続けて、自分自身さえ本音がなんなのか分からなくなってしまった、迷子のような人」


「ふぅん? あの態度は計算でやっているんじゃないのか」


「意識してやってるところもあると思う。だけど、全部が演技じゃなくて…自分を守るために仮面をつけ始めたのに、いつしか仮面の脱ぎ方を忘れてしまったの。だから、自分の素顔も忘れちゃって、たくさんの仮面のどれが自分の本当の顔だったのか、あの人自身もきっと分かってない」


「そうか。哀れだな」


「そうだね。可哀想な人。だけど、だからといってエヴィを傷つけていい理由にはならないとも思う」



アリスはそう言って表情を曇らせ、そしてエヴィの方を振り返る。


俺も同様にそちらに視線を向ければ、随分と思い詰めた顔をしたエヴィが立っていた。



「ねぇ、さっきの本当なの?」



エヴィはそう尋ねる。



「貴族のアンタたちが平民の私といると印象が悪くなるっていうの」


「…」


「確かに身分とかで差別をするのって馬鹿らしいと思うわ。そんな偏った価値観を持っている人たちのことも大嫌いだし、私だけならそんな奴らにどう思われようと構わない。…だけど」



彼女は悔しげに顔を歪め、そして強く拳を握った。



「アンタたちも巻き込まれるなら話は別よ」


「エヴィ、気にしないで」


「できるわけないでしょ?!」


「エヴィ…」


「私…嫌よ。そんなの。二人には感謝しているの。たくさん助けてもらったし、たくさん救われたわ。恩人に迷惑をかけるような真似はしたくない」



エヴィは「正直に言ってちょうだい。同情なんていらないわ」と強く言い切った。


そんな彼女を見てアリスは、どう言葉をかければいいのか迷っているようだった。


彼女に「そんなことない」と言ってあげたいのに、どうやって伝えれば彼女の心にその言葉が届くのか分からないといったところか。


アリスは甘いところがあるから、彼女の言葉では同情だと受け止められる可能性もあるな。そう考えて俺は面倒に思いつつ、アリスに助け舟を出してやることにした。


ここで変にこじれて、マリーさんとの関係のようになり、また二年前の鬱々とした空気を垂れ流されるのはごめんだからな。



「じゃあ、正直に言わせてもらうが」


「…ええ」


「お前と関わっているせいで、貴族たちからの印象が悪くなるのかどうかに関してはイエスと答えるべきだろう。ほとんどの貴族は、差別意識をあそこまで露骨に表に出すことはまずないだろうが、それでも『自分たちは平民とは違う』というプライドが少なからずある。もしそんなものがないのならば、ソイツは余程の変わり者だ」


「…で、アンタたちはその変わり者だらけの家ってわけね」


「そうだな。だからまぁ、平民と仲良くしているところなんて見られれば、頭がおかしい、常識がないと思われてもおかしくない。次、それで俺達が不利益を被るかどうかに関して。これはイエスともノーとも言い難い」


「なんでよ」


「アクイラ家は既に貴族社会で孤立しているからだ。心配しなくても、もう俺たちの印象は既にこれ以上、悪くなりようがないくらい最悪だぞ」



これは流石に予想外の答えだったのかエヴィは驚いたように目を見開く。その様子に溜め息をついて、俺は三本の指を立てた。



「一、俺たちの祖父にあたる人物が父様の魔法道具を他国に売りさばき、紛争を激化させていた罪がアクイラ家にはある」


「え…?」


「ニ、俺たちも知っている二年前の大事故。その原因はまた父様の魔法道具。証拠がないからかろうじて分かりやすい罰はないが、それでもあの事故を計画したのは父様ではないのかと今でも疑いの目を向けられている」


「…」


「三、そしてその息子、このレオ・アクイラは毎晩のように悪夢に魘され、物にも人にも当たる癇癪持ちの問題児として有名だ。三世代揃って、問題ばかりを引き起こす犯罪者、または犯罪者予備軍だぞ。俺ならばこんな家の人間と関わりたいとは思わないな」



つまり、と俺は言葉を締めくくる。



「お前が案じる必要はない。それどころかお前が離れるとアリスが面倒なことになる予感しかしないから、さっさと仲直りをしてくれ」



本当に、切実に、こじれるのだけは止めて欲しい。昔はとにかく今のアリスを宥めるのは面倒なのだ。


アリスは彼女を“身内”認定しているようなので、エヴィとの関係になにかあれば、学校でオリバーに喧嘩を売る可能性が出てくるし、もしそうなれば彼女を押さえつけるのは骨が折れるのだから。



「…もしかして慰められてる?」


「事実を述べたまでだ」



助け舟は出したからな。後はどうにかしろ。俺はそう心の中で言いながら、隣で突っ立っていたアリスを肘で小突いた。



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