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学校 6


彼の言葉を聞いて、アリスはエヴィを庇うように彼と彼女の間に立つ。


責めるように強い眼差しでオリバーを見つめるアリスの様子を見ながら、さて面倒なことになったなと俺は考えを巡らせた。



「アリスの友人ですよ」


「へぇ? 貴族が平民と?」



演技がかった仕草でオリバーは片眉を上げる。そして、うーん…と困り果てた顔で腕を組み唸った。



「悪いこと言わんから、そういう関係はやめておいた方がええよ。学校に通うなら尚更や。貴族の中やと平民に嫌悪感を抱く奴も少なくないし、学校生活を穏便に過ごしたいなら、ちゃんと線引きはせな」


「はて。線引きとは?」


「あれ? ここまで言っても分からん? 首席でも文脈を読むのは苦手なんて可愛いところもあるねんなぁ」



意外やわぁ…と言って、オリバーはニコリと笑う。



「平民と仲よぉせぇへん方がええってこと」



背後でエヴィは息を呑むのが分かった。視線をやればアリスがエヴィの手を握り、安心させるように笑いかけている。


あちらの方は任せてよさそうだな。アリスも成長したものだ。そんなことを思う。


しかし、そんな俺たちの態度が気に入らなかったのか、オリバーは「なぁ、君」とわざわざエヴィに声をかける。



「君も立場をわきまえな。今のアクイラ家は寛容で有名やけど、それでも古くから続く名家の一つや。君みたいなのが馴れ馴れしく接していいような存在やない」



まぁそういうだろうな。上手く言い返そうと俺が口を開くよりも前に、アリスは「やめて」と言った。



「私の友達。ひどいこと言わないで」


「睨みつけるなんて怖いなぁ。初めて見た時はもっとお淑やかなご令嬢かと思ってたんやけど。随分とお転婆なお嬢さんや」


「貴方の私に対する印象なんてどうでもいい。エヴィの話をしてるの」


「平民の話なんてしてなにになるん?」



その瞬間、ひやりとした冷気を感じ、即座に俺は「アリス」と彼女を咎める。



「分かってる」


「分かってない。それをやめろ。今すぐにだ」



俺が強く言えば、アリスは不機嫌になりながらも魔力の放出をやめる。不完全に発動していた氷魔法も止まり、俺は深い溜め息をついた。


まったく…教えてやった魔法を習得したのはいいが、自分の感情に自覚的になった分、地雷を踏まれるとこうして我を忘れて暴走しそうになるのは困りものだ。


治癒魔法とは違って、これは一応は攻撃魔法の種類に入る。少しの放出だってどんな怪我に繋がるか分かったものではない。


次はどのような精神状態でも魔力のコントロールだけはできるように鍛えなければならないな、と思いながら俺はオリバーに向き直った。



「大変失礼を。妹には後できつく言って聞かせます」


「ええよぉ。君たちのさっきのやり取りがなにを指すのかはイマイチ分からんかったけど。まぁレオ君が代わりに叱ってくれるなら、僕から言うことはないわ」


「ありがとうございます」


「レオ君は礼儀正しいねぇ」



表面上だけだがな。そう心の中で答えながら、ふむ…と俺は彼の格好に視線を落とす。そして「…それより、先程のお話で少し疑問に思ったのですが」と話し出した。



「それほど平民がお嫌いなら、どうして供の一人も連れずにこのような場所へ?」



彼の後ろには控えているべき使用人の姿がいない。彼に声をかけられた時から妙だなと思っていた。



「ちょっと買い物に来ててなぁ。近くに馬車を待たせてるねん」


「おや、不思議ですね。買い物のためにわざわざそのような格好を?」


「おっと」


「白いシャツに茶色のズボン。立ち居振る舞いが素晴らしいのでとても品がよい格好に見えますが、その服は元々平民向けの店で売られていたものだったのでは?」


「どうしてそう見えたん?」


「それは貴方だって分かってるでしょう?」


「「生地が安っぽい」」



お互いに言い合って、クスリと笑い合う。



「その様子やと、レオ君たちも制服であれこれ言われたんやろ? ほんま面倒くさいしきたりやなぁ。暗黙の了解なんて分かりにくくて嫌いや」


「おや、そんなことを言っていいのですか?」


「さぁねぇ」



オリバーは楽しげに笑って、俺を観察するように静かに見つめる。やがて目を細めて、「うん。やっぱり思ってたよりも、面白い子やね。君」と彼は呟いた。


空気を変えるようにパンッと手を叩いて、オリバーは先程の明らかな悪意を感じさせるものとは違った、にこやかな笑みを浮かべる。


 

「堪忍なぁ。ちょっと君たちのこと知りたくて、からかってみてん。ほらアクイラ家は謎の多い家やし、もし煽られたらどんな反応するのか興味があったんや」


「それはそれは…」


「そこの平民ちゃんもごめんな」


「…」


「取って食ったりせぇへんよ? 怖ないよぉ?」


「…」


「あらら。嫌われてもうたわ」



ま、どうでもええか。そう言ってオリバーはニコニコとしていた笑顔を削ぎ落とし、気は済んだというように踵を返す。



「ほな、レオ君。妹ちゃん。また学校で」



そう言って、ヒラヒラと手を振ってオリバーは去っていった。


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