魔王と聖女の転生日記 18
「浄化する魔法?」
アリスは目をしばたく。聞いたことがないようだったので、どんな魔法なのかも加えて述べる。
「そうだ。浄化魔法。聖職者が一番最初に身につけると言われているもので、魔族には大きなダメージを与えられる魔法。人間への攻撃にはそこまで向かないが。その魔法を水にかけると聖水になり、聖属性の魔力が強ければ強いほどに聖水の純度は高くなる。その浄化魔法をこの瓶に閉じ込めて欲しい」
聖水ならば、飲み水として人間の舌に合うはずだ。魔族には俺の作った毒物並みの危険な飲み物で、舌を切り落としたくなるほどに不味いと聞くが。
ほう…と感心しながら、俺の解説に耳を傾けるアリス。
まだ聖魔法を使うところを見たことはないが、彼女の作る聖水ならば高値で取引される程の価値あるものなのだろう。少し飲み水に使うのは勿体ない気もする。
「何に使うの?」
「水を浄化させる魔法道具を作るために。心配するな、人を殺すようなものじゃない。それどころか多くの人間を助けることになるだろう」
「なら、頑張る」
そう言うと、アリスはやる気になったようだった。俺はアリスが使いやすいように、自分が作った呪文に更に手を加えて、その呪文とイメージを教える。
すぐに彼女はコツを掴み、早速試してみるかと瓶を置く。失敗すると俺にも聖魔法がかかる場合があるため、少し離れて、準備ができたことを視線で伝える。
アリスはこくりと頷いて、俺が彼女のために新しく作った呪文を唱えた。
ーーーーーー我らを作りし創造主。我は聖女、主の祝福を受ける者、闇を滅する者なり。我らに恩恵を与えたまえ。魔力を贄に、闇を清める力を…。
アリスの手に白く輝く光の塊が現れる。美しく輝くそれはまるで小さな恒星のようだ。
そっと彼女が手を開くと、光はふわりと空中に浮かび、そして、瓶の中へと吸い込まれていった。
俺は瓶の蓋を閉じて、確かに中に光が入っていることを確認し、「上出来だ」と満足げに言う。
彼女が閉じ込めたこれは間違いなく浄化魔法であるということが、わざわざ水につけて確かめなくとも、見ただけで分かる。しかも光の輝きを見るに品質は期待以上だと思われた。
「礼はする。この魔法道具の利益の六割…でいいか?もしもっと上を望むのならば、考えよう」
「お金は別にいい。魔法教えてもらった。人の役にも立てる。もう十分」
「…そうか。これからもやってもらうことになるが、身体への負担は?大丈夫そうか?」
「うん。そこまで疲れてない」
「ならばいい」
報酬を渡そうと言えば、アリスは首を振り自分の手を見つめながら、魔法を教えて貰っただけで十分なのだと断った。
受け取れるものは貰った方が良いだろうし、今回の魔法具はアリスが作ったもので俺は特に何もしていないのだから、貰って当然の労働の対価のはずなのだが。
まぁ、元聖職者であるアリスには、金がそこまで執着すべきものでもないのかもな。俺には到底理解できない考え方だ。
利益を全てくれるというせっかくの申し出を、断る必要もなかったので、素直に感謝しておくことにする。