魔王と聖女の転生日記 17
「気休めにはなるだろう。溜めた魔力など使わないことを祈るばかりだが。あとは、アンドレ殿が言っていた水を浄化する魔法具…」
そして、これが問題だ。魔法式は完成しているし、浄化魔法を瓶に閉じ込めたものにしようというイメージも固まっている。理論上はできるはずなのだが…。
俺は、机の上に置いていた水が入ったグラスに、人差し指を向けた。
ーーーーーー我は闇を滅する者。魔力を贄に、闇を光に清める力を与えたまえ。
グラスの中の水が、絵の具を垂らされたように、じわりと黒く濁っていく。最終的には透明な透き通った水は、濁りきった液体に変わっていた。
庭から拾ってきた落ち葉をその中に入れる。すると、葉は液体に触れた所から腐敗し、ドロドロと溶けていった。
俺は、はぁ…と溜め息をつく。何回試してもこれだ。
(これを流石に飲める人間はいないだろうな)
一口飲めば最後、その者内臓を溶かされ、内側から自分を蝕む地獄の苦しみを味わいながら絶命するだろう。
まぁ、これはこれで需要はあるかもしれないが。
「やはり俺では駄目だな。やり方は分かるが、俺の本質と合わない」
そもそも呪文の中の"闇を滅する者"という単語が合っていない。魔法式に合うように仕方なく言っているが、前世は魔族であり、誰よりも魔力が闇に近い俺に適していないのだ。
本来の本質に反したものをやれば、こうなるのは当たり前だろう。
「と、なると…」
その道のことはその本質に合う者の手を借りた方が早いか。丁度、すぐ側に俺とは真逆の本質の才がある者がいるのだし。
「アリス」
「レオ、どうしたの?」
俺は自室を出て、違う扉をノックした。俺の妹であるアリスの部屋だ。アリスは俺が部屋に来たことに驚いていたが、警戒することもなく、招き入れてくれた。
椅子に座り、話を切り出す。
「お前は自爆魔法と治癒魔法以外に魔法は使えないんだったな?」
「そう」
「見本を見せずとも、やり方さえ教えればできるか?少し協力して欲しいことがあるのだが」
手本を見せても良いが、目にするのは俺が毒物を作る光景だけだ。それも特に酷い死に方をする毒のな。あまり参考にはならないだろう。
「何のためのもの?」
少しアリスの目に警戒の色が宿る。元魔王の俺が自分に頼みなど何を企んでいるのかと疑っているようだった。
俺は取り敢えずアリスに商談のことと、その時の話し合いに出た新商品についての説明をする。