魔王と聖女の転生日記 15
確かに俺の魔力は前世とは比べものにならないほどに少なくなった。前の俺からすれば、今の俺は弱者だ。思うままに魔力を使うことはできず、制限があり、常に残りの魔力量を気にしながら魔法を使わねばならなくなるだろう。
この魔法石一つに入れる魔力が微々たるものなのだとしても、それを山程用意しなければならないとなると、対処法を用意しておく必要がある。
…だから、それについてはもう解決済みだ。
「心配には及びません。対処法は既に見つけております」
俺は、アンドレ殿の心配することはないと微笑んだ。
彼はほっと安堵したような表情を浮かべた。
「流石ですね。では、商品名はどうしましょう?普段から使うものですから、覚えやすく言いやすいものが良いと思います」
「名前ですか…」
俺は、顎に手を当てて、暫く考える。そして、ふと魔王だった時のことを思い出した。前も俺はこんな風に様々なものを思い付いては暇潰しに作っていたものだったが、何故か配下たちは俺が発明品に名前をつけることを嫌がっていた。
結局それが聞き出せないまま、殺されてしまったな。何だったのだろうか。いや、それよりも今は目の前の商談だ。そう、名前だったな。
俺は魔法石を見つめて、頭に浮かんだ名前を言った。
「…これで簡単!火がつく便利な石?」
「…」
「…?」
「それは、商品名ですか?」
「はい。これで良いかと」
何故か二人は沈黙した。
「レオ、それは素なのかな?それとも冗談かい?」
「ジョークを口にした覚えはありませんが?」
父様は何を言っているのだろうか。
俺が首を傾げると、何故か二人は突然笑い出した。
「あぁ。坊っちゃんにも欠点はあるのですね。安心致しました」
「レオの場合は、その才能の代わりにネーミングセンスが犠牲になったんだね」
「父様?アンドレ殿?何を言っているのですか?」
本当に何を言っているのだろう。俺は更に首を横に傾げる。
「レオ、その名前も分かりやすくて良いけれど、そのまま過ぎないかな?父様はせっかくのレオが作ったものだから格好いい名前がいいと思うよ」
「格好いい名前ですか…ファイアーファイアーコンビニエント、ストーン?」
また沈黙。次に、爆笑。
そして、父様は笑いすぎて涙を浮かべながら言った。
「よし、アンドレ、僕たちで名前をつけてあげよう」
「そうですね」
何故か二人が名前をつけることになった。別に俺は誰が名前をつけようが構わないが、一体何だったのか。