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博覧会 2



「驚いた。本当に好かれてるのね」


「特に何かした覚えはないんだけどな」



座っている俺の腹にべったりとくっついているルークを見て、ほぉ…とエヴィは感心した風に言う。普段ならばじっとしていることは少ないらしいが、今は何故か俺の腹から動こうとしない。


重いし、服に唾液がつけられそうなので、さっさと退いて欲しい。



「…毎日来てくれない? ルークがいつもこれくらい静かだと助かるのよね」


「断る」


「………お願い♡」


「気色悪い」


「おぇ…自分でやってて吐きそうになったわ…。アンタに媚を売るくらいなら、鳥に求婚する方がマシね。私には普通の態度よね。マリーさんが嫌いなの?」


「別に? 嫌悪感は覚えていないが」


「…人妻がタイプとか?」


「殴っていいか?」



俺が拳を握り締めれば「冗談よ! 骨折じゃ済まなそうだわ」とエヴィは両手を上げた。これ以上茶化す気はないようなので、俺もあっさりと手を下ろす。



「まぁ何となく察しはつくんだけど。何て言うのかしらね。今まで付き合ったことがないタイプの人間だから距離感が分からなくて戸惑う、みたいな感じかしら」


「それもあるな」


「ちょっと分かるわ。いい人過ぎてこっちがどうしよう、って気を遣っちゃうのよね。それを言うならあの人…アーラさんもそうじゃない? 彼とは仲がいいみたいだけど?」


「アイツは一周回って愉快。頭が足りない動物に触れ合う気持ちで見てる」


「私、あの人のこと時々可哀想に思うわ」



ちょっと分かるけど…と苦笑するエヴィ。俺は自分の腹に視線を下ろし、「おい。俺の指は食べ物じゃない」と俺の指を口に含んでいるルークに注意をした。


どうせ噛んだところで歯が生え揃っていないのだから痛くはないけれど、指が汚れるのは遠慮したい。


ルークは一瞬だけ驚いたが、もぐもぐとまた口を動かすのを再開する。吐き出す気はないらしい。俺が溜め息をついて手を引けば、予想通り指が唾液まみれになっていた。



「何か拭くものをくれ」


「うわ…ちょっと待ってて」



茶の用意をしているアリスがいる台所へ、エヴィも走っていく。その背中を見送り「赤子は視覚、聴覚より口からの刺激の方が得やすい。よって、何でも口に入れたがる。とは読んだことがあったが…」とルークを見る。



「う!」


「よりにもよって何故俺なんだ…?」



本当に好かれるようなことをした覚えがない。会う頻度で言えばアリスの方が上だろうし、特に機嫌を取るようなこともしていないはずだ。



「まとわりつくなら、エヴィかアリスにしろ。喜んで可愛がるだろう」


「あ!」


「意味が分からない…」



構ってもらえるのが嬉しいのか、ルークはニコニコと笑っている。毒気を抜かれてそのままにしていれば、ルークは開いている窓の外を指差して「あ! ばぁ!」と叫び始めた。


その勢いで、バランスが崩れたのか身体が横に倒れ、そのまま俺の膝からずり落ちる。



「…っと」



床に頭がぶつかるギリギリのタイミングで、風が吹かせてルークの身体を持ち上げる。


そのまま指を上に動かし、ふわふわと宙に浮かばせたまま机の上に運んだ。



「あ!」


「…風の魔法は無詠唱でできるとはいってもコントロールが難しいんだからな。今だって窓が開いていなかったら頭を打っていたぞ」


「う!」


「死にかけるのなら、俺が預かっていない時にやってくれ。どうして俺がお前を守らなくてはいけないんだ」


「う?」


「次やれば柱に縛り付ける。返事は?」


「あう」


「よし」



返事を返したことを確認し、俺はルークが見ていた窓の方に目を向けた。数匹の小鳥が木の枝にとまっている。あれが気になったのだろう。



「あぁ。鳥が気になったのか?」


「う!」


「まぁ気持ちは分かるぞ。俺も子供の時は『鳥はどうして飛べるのか』とよく考えていたものだ」


「あー、ばぁ!」


「…言った側から机から落ちようとするな。はぁ…鳥を見れればいいんだろう?」



懐から魔法石を取り出し手にのせる。普通の赤子の記憶力など大したことはないだろう。魔法を見せたところで数日でもすれば忘れるはずだ。




ーーーーー傀儡よ。仮初めの姿、仮初めの声をやろう。この石を核とし、姿を現せ。




窓の外と同じ鳥の形をした人形を作り、それをルークに手渡してやる。縫いぐるみの代わりだ。これで大人しくなるなら安いものだろう。



「…う?」


「何か不満でも?」


「う! うっ、ぁー!」


「…飛べと?」


「あ!」



鳥が飛んでいるところを間近で見たいらしい。鳥の翼を両手で掴んでパタパタと動かしている。動かして飛べ、ということだろう。注文の多いことだ。


「…飛んでやれ」と俺が鳥に言えば、それは頷いてゆっくりと翼を広げる。「あーっ!」とルークが明るい声を上げた。鳥は部屋の中を一周して俺の肩にとまる。


また鳥を手渡せば、ルークは翼をしげしげと見つめ始めた。



「飛べる方法が気になるのか?」


「う!」


「へぇ。人間の赤子でも、そういうことを考えたりするものなのか」



俺は少し考えた後、あちこちに動き回られるよりはマシかと思って紙とペンを取り出した。



「…何やってんの?」



エヴィは拭くものを取りに行くついでに、茶の用意を手伝っていたらしい。


アリスと共に戻ってきた彼女は、ペンで鳥の翼を指し、ルークに説明をしている俺を不審そうに見た。



「飛べる仕組みが気になるようだから、教えてやってる」


「馬鹿なの? その子、まだ子供よ? 赤ん坊よ?」


「まぁな。ただこうやってる方が静かになるらしい。…で、翼は勿論だが他の身体の構造も人と違う。分かりやすい例で言えば骨が軽い。空洞が多く軽量化されているが、その代わりに強い風を受けても折れることがないように特殊な構造で頑丈になっており…」


「ストップ! 難しい講義なんて聞いていたら、折角の紅茶も美味しく感じなくなるわ! 後でやってちょうだい!!」



無理矢理、説明を中断させられ茶を渡される。丁度喉も渇いていたので休憩することにした。



「今更だけど、その鳥はどこから来たのよ? 全く逃げようとしないけど…」


「ルークがそこの窓から捕まえた」


「ルークが?!」


「あぁ。素手で」


「素手で?!」



エヴィはルークに「そうなの…? アンタってすごいわね…」と尊敬の眼差しを向ける。コイツが騙されやすいタイプで助かったな、と思いながら俺は茶を飲んだ。




明けましておめでとうございます!


素手で鳥を捕まえられる系の赤ちゃん。世間は広いといいますし、そんなことができるアクティブな赤ちゃんもいたり…? と思いつつ書いていました。


野鳥は素手で触ってはいけませんが、レオの鳥はあくまでも人形なので、体内、羽などに菌や寄生虫はいません。よってルークが触っても大丈夫です。ご安心ください。



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