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英雄 31 (三人称)


二人は巣を探しに山を歩いていた。動きにくい服装のため、ライアンは汗だくになりながらも懸命に登る。



「蜘蛛の巣ってどこにあるんだ? 大きい?」


「いや、おそらく見つけにくい。蜘蛛と言えば糸を張り巡らした巣が一般的なイメージだが、基本的に深紅毒虫蜘蛛は巣に糸は使わない。獲物を捕まえる時などに張ることはあるらしいけどな」



てっきり、糸でできた網状の巣を探すものだと思っていたライアンは目を丸くする。



「マジ? じゃあどこを巣にすんの?」


「地面に掘った巣穴などで暮らす。だからお前も連れてきたんだ。人手がある方がいい。貴白の時のようにお前が先に見つける可能性もある」



レオの説明にライアンは、なるほど、と納得した。確かにそれなら一人で探すのは骨が折れそうだ。



「見つけたら?」


「燃やす予定だ」


「そう簡単にいくか…?」


「少し前に行うよりは楽になっていると思うぞ。地面の下に巣をつくっていたのなら、先日降った雨で大分やられているはずだ。あの蜘蛛は泳げないし水に弱いと聞く。患者の数が減ったのも薬のおかげもあるだろうが、大部分が溺れ死んだのだろう」


「へぇ…。あの雨すごい鬱陶しかったんだけど、そう考えるとラッキーだったのか…」



そんな話をした後、二手に別れて探すことになった。「見つけたらこれを飛ばせ」とレオは石を取り出す。



「は? これを投げろってこと? お前の場所も分からないのに?」


「違う。誰がそんな意味のないことをやれと言った。魔法石はこう使うんだ」




ーーーーー傀儡よ。仮初めの姿、仮初めの声をやろう。この石を核とし、姿を現せ。




レオがそう唱えると、石がガタガタと動き出す。そして、石を心臓部にするように骨や肉に似たものがつけられていき、最後には愛らしい小鳥になっていた。


人懐っこい子なのか、レオの手に頭をすり付けている。「今回はコイツに付いていてくれ。できるか?」とレオが頼めば、小鳥は素直に一声鳴いて飛び、ライアンの肩に留まる。


人の言葉を理解しているような行動に、おお、と思わずライアンは感心する声を上げた。



「伝書鳩のようなものだ。飛ばせば俺の元に来る」


「すげぇ…」


「好きに使っていいが、小鳥と戯れることばかりに時間を費やすなよ」



そう忠告して、レオはさっさと歩いていく。一人残されたライアンは、なんとなく肩の小鳥に手を伸ばした。



「お前って、名前あったりすんの? あ、フワフワだ」


「…」


「可愛いな。俺、動物が結構好きなんだよ。飼いたいって言っても母さんが許してくれなくてさ。こんなに賢いんだったら、やっぱり欲しいなぁ」


「…」


「アイツに頼んだら、一匹くらいくれるかな。…ぃてぇ!!」



伸ばしていた手の指を思いっきり噛まれた。それでは止まらず、頭を容赦なくつつかれる。


「何なんだよ?!」と見れば、小鳥と目があった。お前ごときが気安く触るな、小童が、とその目は語っていた。


先程までレオに向けていた態度は何だったのかと思うほど、随分と傲慢な小鳥だ。その姿に既視感があってライアンは苦々しい気持ちになった。



「ペットは飼い主に似るって言うけど…似すぎじゃね?」



自分の主以外には懐くつもりはないのだろう。特にお前は媚を売るには値しない、ということだ。


性悪な飼い主だと動物も生意気になるのか、とライアンが思っていれば、さっさと探せ小僧、と言いたげにまたつつかれた。


小鳥に悪態をつきながら捜索すること二時間ほど。森の中に、地面が一部分だけ少しへこんだものを見つけた。不自然に思って小枝でつつけば、中は円形の穴になっている。


糸をうまく使って、周りのものを材料に蓋を作っていたのだ。



「これは、簡単に見つからないはずだ」



まだ深紅毒虫蜘蛛だと決まった訳ではないが、糸があるから、少なくとも蜘蛛の巣であることには間違いないだろう。


それ以上は刺激するようなことはせずに、すぐに距離を取り、小鳥を飛ばす。十分ほどすればレオがこちらに歩いてきた。



「早いな。近くにいたのか」


「いや? 向こう側の山にいた」


「…俺はもう驚かないからな」



向かう側の山にいてどうやって十分でここに来れるんだ、という質問は飲み込んだ。コイツはそういう奴なんだ。常識の範囲内で考えてはいけない。



「その小鳥。すごい生意気だったんだけど。ちゃんと躾をした方がいいぞ」


「生意気?」



役目を終えた小鳥は、レオの手にのって喉を撫でてもらっている。目を細めて心から懐いている様子だ。その姿は愛くるしい。そう、今の、その姿は。


ライアンの言葉に、レオは不思議そうな顔をする。急にキリッと凛々しい顔立ちになった小鳥を見つめ、「忠実に仕事をこなしていたと思うが。お前には生意気に見えるのか?」と尋ね返してきた。


レオに見えないところで、小鳥が馬鹿にした顔を向けてくる。鳥の顔であるというのに、感情豊かなことだ。



「コイツッ…!! 鳥のくせに!!」


「? まぁいいか。ご苦労だった。戻っていい」



それを合図に、小鳥は石に戻ってしまった。石に文句を言う訳にもいかないので、ライアンは不満を飲み込むしかなかった。


その後、巣穴をレオに見せれば「これだな」と言って、持っていたバッグから手袋を取り出す。他に大きめの瓶と、薬とは違う色の液体が入った小瓶、火をつける魔法式を刻んだ火力石を数個。



「さて、駆除を始めよう」



不敵に笑ってレオはそう言った。




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