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英雄 23 (三人称)


「大丈夫なのか?! おいってば!」



ライアンは脱力したアリスの身体を揺らすが、不快そうに眉をひそめはするものの起きる気配はない。


はっ…として手足を確認すると、ロージーの時と同様に、足に例の生物に噛まれたと思われる跡が残っていた。



「ね、ねぇ…母さんと同じやつなのかな? この子は熱がまだ低いみたいだけど…」



側に近寄ってきたテッドが、アリスの顔を覗き込み心配げな顔をする。


さっきの話だと…テッドの母さんもまだ治療されてないんだよな…。病人が寝かされているであろう奥の部屋に視線をやり、ライアンはそう思って躊躇った。


今のところ、この正体不明の熱を下げられるのはアリスだけだ。ここに来るまでに、症状がどれだけ重くなるのかは嫌と言う程に聞いてきていた。


ならば、無理矢理にでもアリスを起こして、テッドと自分の母だけでも治してもらった方が…。でも、本人もこんなに熱が出てるというのに…。



「起きてちょうだい」



思い悩んでいると、テッドとは違う声がすぐ側で聞こえて、ライアンは現実に引き戻された。


キャシーがアリスの肩を揺すり、何度も呼び掛けていたのだ。



「そこに病人がいるわ。苦しんでいるの。貴方じゃないと治せないのよ」



ねぇ、ねぇ、としつこく呼び掛ける様子に、ライアンは自分もまた起こそうとしていたことも忘れて、彼女とアリスを引き離した。



「…何なんですか」


「それはこちらの台詞よ」


「熱が出ているのが見て分からないんですか?」


「他人の病気が治せるなら、自分のだって治せるでしょう。起こした方が、自分の熱も治させるし、この子のためだわ」



キャシーの言い分にぐっと黙り込む。自分の不調は治せない、とはレオから聞いていない。彼女の主張にも一理ある。


けど、とアリスを見下ろした。



「この力は、そんな簡単に使えるものじゃないって聞いてます。疲労が溜まった状態で…しかも高熱に魘された状態で無闇に使えば、更に体調が悪化する可能性だって高い」


「…やってみないと分からないわ」


「っアンタは何も知らないからそんな簡単に言えるんだ!! ちょっと流れが狂うだけで、死にそうになるんだぞ?!」



気を抜くだけですぐに魔力の流れは狂う。そうなれば待っているのは死を覚悟する程の痛みだ。その苦痛をライアンは身をもって知っている。



「五月蝿いわね。叫ぶことしかできない子供は黙っていてちょうだい」


「いい大人が子供にすがり付いてるだけなんて、最悪に格好悪いな」


「何ですって?!」


「事実じゃないか!」



売り言葉に買い言葉。ライアンとキャシーは睨み合って、思い付く限りの相手を批判する言葉を吐く。テッドはオロオロとして、そんな二人を止めることもできずに見守っているだけだ。


言い争いは徐々に激しいものになり、収拾がつかなくなる…と思われたその時。場違いな、落ち着いたドアを軽く叩く音が響いた。



「夜分遅くに失礼いたします。こちらに子供が一人か二人、お邪魔していませんか?」



ライアンは、さぁ…と自分の血の気が引いていくのを実感した。


妙に丁寧なーーー彼の素の性格を知っている人間からすれば、演技じみていて気持ち悪いーーー口調のその声は、この場で気を失っている少女の兄のものだったからだ。


伝言。上着。伝え忘れ。渡し忘れ。アリス、倒れた。自分のせいかも。…ヤバい、殺される。


右目左目両目をくり貫かれ、手足を潰され、見るも無惨な死体となって野原に放置される、そんな明確な死のビジョンが脳裏に浮かんだ。


凍りつくライアン。首を横に傾げるキャシー。事態を飲み込めないテッド。場が静まり返り、そしてテッドは「えっと? 開けるね?」とドアに向かう。


ライアンは必死に止めようとするものの、あまりの恐怖に上手く声が出ない。蚊の鳴くような音量で「…やめて…俺…生きていたい…」と呟くのが精一杯だった。


そして、残酷にもドアは開かれる。



「あぁ…テッドと言ったか。こっちにアリスが来ていないか? まだ帰っていないらしくてな。ついでに、ライアンも外に出ていると聞いたんだが…」



そこまで言いかけてレオは言葉を切った。


ドアとテッドの身体の隙間から、ライアンと目が合ったからだ。


ひくっ、とライアンの頬が引きつる。レオの視線がライアンから、彼が抱えているアリスへと移った。動物として生まれた時から有している生存本能が、ライアンの身体を突き動かした。



「すみませんでしたァ!! 殺さないでください!!」



その瞬間ライアンは額を床に擦り付け、全身全霊で謝罪した。




上下関係を刷り込まれているライアン君。


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