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英雄 14 (三人称)


その夜のこと。


夕食を食べ終えて、自室でくつろいでいたライアンはふと喉が渇いて一階へと降りた。一階には両親しかおらず、レオたちはどうしたのかと聞けば、「二人だけで話したいことがあるらしいぞ」と言われる。


あの二人は隠し事ばっかりだな、と呆れる。もう慣れたものだ。



「そろそろ夜も深い。子供二人だけがずっと外にいるのもよくないだろう。ライアン、家に入るように呼びに行ってくれるか」


「でも、どこにいるんだよ」


「遠くにはいかないと言っていたぞ? 窓から見えないか」



サイラスがそう言われ、ライアンは窓から身を乗り出し、辺りを見回した。木の下で二人分の人影が見える。あれがそうだろう。


父に了承の言葉を返し、ライアンは家を出た。二人は何やら真剣な顔で話し合っている。今のところライアンには気が付いていないようだ。


そうだ。どうせなら驚かしてやろう。そんな悪戯心が生まれた。


ドアの前で聞き耳を立てていた時はすぐに気付かれたけれど、今は夜で辺りは暗い。余程周りを意識していなければ気付かれるはずがない。すましたレオが腰を抜かしているところなんて見物じゃないか。


ライアンは夜の闇に紛れ、息を殺しながら二人に近付いた。



「胸騒ぎ?」


「うん。何か、までは、分からない」


「ふぅん。なら、貴白は諦めて早く切り上げるべきか? いくら探しても一向に見つからないし」


「…」


「貴白はただ俺が採集したいだけだからな。特に今すぐ必要なものという訳でもないし、そろそろ止めるかとも考えていた」


「…まだ、ここにいる」


「何故、は聞くまでもないか。放っておけ。厄介なものに巻き込まれるだけだぞ」


「嫌。放っておけない。…あ、レオ」


「あぁ、分かってる。懲りない奴だ」



うん? とライアンが首を傾げていると、突然レオの姿が見えなくなった。いつ見失ったのだろうと目を凝らすライアンの肩に、何かが触れる感触がする。


「鼠が一匹」背後から声がした。ライアンは絶叫した。お化けだと思った。お化けではなく、レオだったが。



「二回目だぞ。好奇心は猫をも殺すという言葉を知らないのか」


「なんで! お前らは! こう! 隠れてる俺のことを! 見もしないで分かるんだよ?!」


「「勘?」」


「超能力者か?!」



叫ぶライアン。自分たちにとって当たり前すぎて、何となくとしか言いようがない、と首を横に傾げるアリスとレオ。



「ったく。父さんが家に戻れってさ。子供だけだと危ないだろ。…で、何の話をしてたんだ?」



ライアンがそう尋ねれば、レオたちは顔を見合わした。



「家に帰るか帰らないかで、もめているところだ」


「帰らない」


「置いて行ってもいいんだぞ? 自力で帰ってこい。徒歩で何年後になるか分からんが」


「そしたら、私の、ハンバーグ、食べれないけど、いいの?」


「…じゃあこうしよう」



このままでは平行線だ、埒が明かない。早々に諦めてレオは「貴白を見つけるまでだ」と提案した。



「これだけ探してもまだ見つかっていない。この一日、二日で見つかることもないだろう。胸騒ぎの原因を探したいお前にとっても十分な時間があるはずだ。どうせ山にも登らず暇なのだから、好きに探してみるといい」


「レオは?」


「俺は貴白を血眼になって探すことにしよう。厄介事が起こる前にさっさと退散したいからな」



レオの話を聞き、アリスは暫く考え込んだ後に「分かった」と頷いた。頑張って見つける、と意気込んでいる。



「さ、話はまとまった。戻るか」


「うん」



そんなことを言い合う二人を、ライアンは黙って眺めている。不思議に思ったレオが「どうかしたか?」と声をかけてきた。



「帰るのか…」


「? あぁ。最初から貴白を探しに来たと言っただろう。俺も暇ではないんでな。できる限り早く見つけて帰りたいものだ」


「そうか…そうだよな…」



初めから特訓も、彼らが貴白を見つけて帰るまでという条件だった。ここに滞在する理由がなくなれば、この村を去るに決まっている。そのことに対してライアンが文句をつけることはできない。


でも、と。ライアンは昼のことを思い出した。


レオのおかげでたった数週間で鍛えられたのだ。あの地獄のような特訓も彼らがいなくなったらなくなるのだと思うと、ほっとすると同時に寂しさも感じる。それにアリスともまだ会話はぎこちないし、仲良くなれたとは言えない。


しかし、帰って欲しくない、と言えるほどライアンも素直ではなかった。


二人はあっけらかんとしているし、特にこの場所を去ることに躊躇いはないんだろう。それなのに自分だけが複雑な思いをしているのだと思うと、何だか悔しい気持ちになった。



「…何でもない」



貴白が見つからないければいいのに、とライアンは心の中でそう思った。









「山に登りたい?」



翌朝。いつものように特訓を終えたライアンは、レオに自分も山に連れて行ってくれとねだった。レオは不思議そうな顔をして「何故だ?」と尋ねてくる。普段のライアンならば、特訓の後は暫く動きたくないと言うのでその疑問も当然だろう。



「…別に。お前はこの後も登るんだろ。お前と同じくらい身体を動かせるのか試してみたいだけだ」


「足を引っ張らないなら構わないが。その疲労しきった身体で登るのか? 言っておくが、険しい山道を進むことになるぞ」


「分かってるって」



レオほどではないといっても、ライアンもそれなりに体力はついてきたし、ずっとここで生まれ育ってきたのだから山を歩くのにも慣れている。


少なくともアリスほどお荷物になることはないだろう。そう考えたのか、あっさりとレオはライアンの同伴を許した。


ライアンが山に登りたいと言ったのは、レオが貴白をすぐに見つけやしないかと思ったからだった。


別に邪魔をする気はないけれど、自分の知らないところであっさりと貴白が見つかって、別れの挨拶も言えずに、気付いた時には二人の姿はいなくなっている…なんてことは避けたかったのだ。


こうして、疲れた身体に鞭を打ってライアンは山に登ることになった。



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