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英雄 12 (三人称)


「大丈夫?」



ライアンが目を開けると、アリスが隣に座っていた。眉を下げ心配そうな顔をしている。



「ここは…」


「家。貴方の」



身体が妙に怠かったので、ベッドから身体を起こさずに目だけで辺りを見回す。言われた通り、見慣れた自分の部屋だった。


足音がして、ライアンの視界にレオが入る。彼はライアンを一瞥した後、アリスに視線を向けて「怪我は?」と尋ねた。



「頭は、平気。でも、手は治すの、大変だった。あと、まだ少し、流れ、乱れてる」


「だろうな。あの状態でよくここまで治したものだ」



怪我…? と考えて、記憶が蘇った。自分の身体が自分のものではなくなったような違和感と、耐えがたい痛み。慌てて身体を起こそうとしたライアンに、アリスが「起きないで」と静止するように声をかける。



「一応、全部治した、けど。まだ、起きない方がいい」


「治した…」


「彼女に感謝しておけ。治癒がなければ、確実に後遺症が残っていたからな」



会話から察するに、二人に助けられたらしい。痛みを覚えていた右手に視線を落とす。痛みはなく、外から見た外見も何も変わっていない。


試しに拳を作って開くという動作を繰り返してみても、特に異常はみられなかった。


ライアンは、再び二人を見上げて口を開く。



「…ありがとう」



感謝の言葉を言って、気まずさから目をそらした。魔法を見れたことに感動して、後先考えずに教えてくれと詰め寄ってしまってこの様だ。レオは忠告してくれたのに。


意気消沈するライアンを見て、レオとアリスは顔を見合わせる。



「ライアン、元気、ない? レオのせい?」


「何故俺に責任が押し付けられるんだ。先程説明した通り、コイツに頼まれて教えたんだぞ。魔力操作も体術も」



不服そうにレオは眉を寄せる。「まぁ、大方」と彼は腕を組みライアンを見下ろした。



「今まで自分はできる方と考えていた自信が、なくなってきているのが原因だろう」


「うっ…」


「図星か」



くつくつとレオが笑った。「意地悪、駄目」とアリスがたしなめると、レオは肩をすくめ「…そろそろいいか」と呟いた。そしてライアンに一時間ほど安静にした後に、剣を持って庭に来るように言う。



「少しは練習の成果を実感しないとな」



庭? 何のために? と不思議がるライアンに、レオはそう言った。










「ということで、お前の父親を用意した」


「なんで??」



朝の特訓の続きかと覚悟を決め、まだ気乗りはしないものの体術の練習に励もうと反省しながら、庭に出たライアンは、そこに剣をブンブンとやる気ありげに振り回す父親を見つけた。


ぽかん…と呆けていると、レオが隣に立ち、自分が誘ったのだと言う。



「ちなみに、誘い文句は『最近、大好きな父に剣を教えてもらえてない、と寂しがっていましたよ』だ。おかげでこの通り、張り切っている」


「いや、微塵も寂しがってないんだけど」


「ついでに『子供とのコミュニケーションも大切らしいですよ。放って置き過ぎると、年頃になった時、父親を鬱陶しがる場合もあるとか』と少し脅せば、泣きながら『特訓の後は、何時間でも親子水入らずで語り合おうな』と言っていた。よって、お前の午後の予定は決定した」


「俺に恨みでもあるの??」



父親であるサイラスのことは好きだが、何時間も語り合うとなれば話は別だ。面倒臭いのである。サイラスは話に熱が入りやすく、酷い時は筋肉の素晴らしさについて、十時間以上も話を聞かされる時もある。



「前腕筋とか上腕二頭筋とか大胸筋とか、そんなのを延々と聞かされる…?」



レオの特訓と同程度のストレスがかかる気がする。ライアンは青ざめて口を片手で覆った。何と言うことだ。地獄じゃないか。



「一体、何のために…?」



ただの嫌がらせだろうか。それとも無理矢理、魔力操作のやり方を言わせたことを根に持っているのだろうか。


ライアンは恐る恐るレオの顔を見るが、顔は特に怒っている様子もなく、これから起こるであろうことを面白がるように微笑んでいるだけだ。



「お前には、いつも通り打ち込みをしてもらう。剣を取り上げるなど、戦闘不能の状態にした方が勝ち。お前の場合は少しでも相手に傷をつけられたら勝ちだ。ルールは今まで通りだから、今更説明は必要ないと思うが」


「父さんとやるのか? でも、癖をそのままにやらせるから、父さんの指導方法はあまり上手くないって…」


「今回は目的が別だ。癖が大分直ったことを実感するためだからな」


「別に大して変わってないと思うけど」


「まぁ、やるだけやってみろ」



それだけ言うと、レオはライアンの背中を押す。よろけたライアンは「何なんだ…?」と戸惑いつつもそのまま前へと進み、サイラスに向き直る。



「ライアン! レオ君と秘密の特訓をしていたと聞いたぞ。楽しかったか?」


「あはは…うん。楽しいとはかけ離れてはいたな…」



今までの特訓を思い出し、はは…と苦笑が漏れる。もう一周回って笑うしかない。


レオが審判役を買って出て、こうして二人の勝負は始まった。


深呼吸をして肩から力を抜いてから、剣を構える。そしてライアンは走り出した。サイラスは驚いたのか眉を上げ、少し慌てた様子でその剣を受け止める。



「…ちょっと速くなってないか?」


「じゃないと、容赦がない蹴りがとんでくるからな!」



剣を受け止められたと分かると、後ろに下がって一旦距離をとる。


あ、そっか。蹴られないんだった。レオが相手ならばこの間に二回は蹴られる。この二週間でそれに慣れていたので、何もせずに離れることを許したサイラスに一瞬だけ驚いた。


蹴られないなら、受け身分の体力は削られない。しかもどこもかしこも筋肉痛だった身体は、アリスの治癒のおかげですっかり癒えている。


やりやすい。素直にそう思った。



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