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英雄 11 (三人称)


レオたちがやって来てから二週間が経とうとしていた。


貴白は一向に見つからず、レオによる特訓は毎日のように続き、ライアンはヒィヒィと悲鳴を上げて死にそうになりながらも特訓に食らいついていた。筋肉痛との戦いも日常の一部になりつつある。


しかし、人間の心には限界というものがあった。簡単に言えば、レオとの訓練によってブライドが常にバキバキに折られていった、ライアンは自信を喪失しかけていたのである。



「十分休憩」



その声と同時に、ライアンは地面に崩れ落ちる。差し出された水を飲み、額にかいた汗をぬぐった。



「マジで…キツい…」


「なら止めてもいいんだぞ? 別に強制ではない」


「…やるけど」


「しぶといな。そろそろ嫌気が差してきてもいい頃なんだが」



一週間で音を上げると思っていたんだが、と人の悪い笑みを浮かべ、レオは「意外と骨があるのは予想外だった」と続ける。


そんな彼を睨みつつ、嫌気が差してくる頃という言葉が突き刺さった。強がってはいるものの、彼の言う通りだったからだ。


はっきり言って、キツいだけだし、ちっとも楽しくないし、自分が成長しているという実感は全くない。最後のが特に嫌だった。これだけ頑張っているというのに、未だにレオには簡単に避けられてしまう。


同年代では強い方だ、とレオが来るまではそんな意識があった分、日に日に自信が喪失していき、コンプレックスが生まれてくる。


自分は思っているよりも弱いのではないか、今までは自惚れていただけなのか、と自分を恥ずかしく思うのだ。



「…なぁ。お前って、剣術とか体術以外にも色々できるのか?」


「まぁ、大体のことは」


「じゃあ、今も本気じゃないってことだよな?」


「本気ではないな」



自分は弱いのかもしれない。生まれつつあるそんなコンプレックスが更に刺激される。「う…」と唸り、ライアンは落ち込んだ。



「これ以上ってどんなのなんだよ…」


「体術に関しては、もう一段階ある。ただお前には早すぎるだろう」


「もう一段階?」


「今は基礎技術を身につけるべきだと思うが…」


「ここまで話されたら、逆に気になって集中できないって!」



ライアンが叫ぶと、「アリスのは既に見られたからな。面倒だし、特に隠す気はない」とレオは言い、近くの岩を指差した。ライアンたちの腰ほどもある大きさで、見るからに固そうだ。



「あれが割れる。簡単に」


「あれが割れる?! 簡単に?!」



驚いておうむ返ししてしまった。しかし、すぐに石とレオを見比べ、石と人間の骨はどちらかが固いかを考える。普通に考えれば石の方が固い。



「え…? 骨が折れるだけじゃ…?」


「普通はな」



見ていろ、と言ってレオはスタスタと歩いていく。石の前に立つと、とんとんっと片足で地面を蹴り、そして軽く足を振り上げた。足が石に当たる。


身体の軸がぶれていないお手本のような蹴りだが、明らかに力がほとんど入っていないーーーーと思ったところで、大きな破壊音が鳴った。一瞬にして石に亀裂が入り、欠片が四方に飛び散る。こちらにまで欠片が飛んできて、ライアンは思わず目をつぶった。


次に目を開けた時に見えたのは、完全に破壊された石だ。レオは怪我をした風もなく、何てことがないというように立っている。



「へ…?」


「こうなる」



たった一言でこの状況を片付けたレオに、ライアンが再び詰め寄ることになったのは言うまでもない。


アリスが魔法を使うところを見たため、彼女の兄であるレオが魔法を使えると言っても、ライアンはすんなりと受け入れられた。そりゃあそうだろうなと。いや、普通は使えないんだったとすぐに思い出したけども。


今の蹴りはただの怪力ではなく、その魔法を出す際に使うエネルギーを利用したものらしい。



「魔力で骨をコーティングしたり、筋力を上げる。コントロールできるまで練習が必要だが、慣れれば、人間の身体でもああいったことができるようになる」


「すごい!! それができれば、特訓なんていらないじゃないか!! その魔力操作ってのは俺もできるのか?!」



ライアンが興奮したようにそう言えば、レオは呆れたように溜め息をついた。



「だからお前には早いと言ったんだ。まず体術の基礎さえできていない内から、魔力操作にまで手を出すのは馬鹿のやることだぞ」


「でもっ! せっかくそんなものがあるんなら、使いたいに決まってるだろ?!」


「魔力はそう易々と扱える代物じゃない。少しでも流れが狂えば、死が目の前だ」



冷たくあしらわれて、ライアンは頬を膨らませる。



「…自分が特別でいたいからか? だから、教えたくないんだろ?!」


「お前な…」


「話が違う! 勝負に勝てば強くなる秘訣を教えてくれるって言ったじゃないか!! 体術とか地味なものばっかりで、そんな強い力を教えてくれないなんてズルだ!!」




自分だって魔法を使ってみたい。手っ取り早く強くなりたい。そんなライアンにとって、魔法を教えずに体術ばかり指導してくるレオの行動は、特別な力を勿体ぶって教えない意地悪からのものに見えた。


そう反論すれば、レオは目を伏せて「下手したら、手足が使い物にならなくなるぞ。習得には痛みも伴う」と言う。「強くなるのに必要なことなんだろ? なら平気だ!」とライアンが返せば、「忠告はしたからな」と手が差し出される。



「魔力を流す。流れの感覚を覚えたら、俺の魔力ごとでいいから、その感覚を手に集めるように意識しろ。このやり方が一番学びやすいはずだ」



ライアンは頷いて、自分の手をその手に重ねた。あたたかい何かが身体の中に流れてくるのが分かる。これが魔力なのかと感動した。


えっと…これを集める…。手に意識を向けて、息を吐きながら集中する。次第に手のひらが熱くなってきた。きっとこれが魔力なのだ。


自分にもできたぞと、ライアンは嬉しくなってレオに言い返そうと顔を上げる。



「おい…気を散らすな」



鋭い非難の声が飛んできた。


何を怒って…と言いかけて、心臓に痛みを覚えた。内臓が押し潰されるように痛み、魔力を集めていた手に異様に熱が集まっていく。手を内側から焼かれているみたいだった。


耐えがたい痛みにライアンは手を振り払い、腹を抱えて地面を転げ回った。痛かった。今までに経験したことがないほどの痛みを味わう。



「はぁ…だから言ったのに。年長者からの助言だ。人生で選択肢を与えられたら、楽な道を選ばない方がいいぞ。大体のものが、破滅へと続く道か、最終的に回り道になるものかの二つだからな」


「い"っ…だず…でっ…」


「少し眠るといい。意識を失った方が楽だろう」



「悪いが、眠り薬は使えない。手荒にやるぞ」という声と同時に、がんっと頭に衝撃が走った。視界が真っ暗になった。




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