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魔王と聖女の転生日記 11


「それをどうするの?」


「お前はここでは魔法があまり発達していないと言っただろう?それで調べてみた。例えば炊事をする時、主婦たちは一々火をつける。それには時間と手間がかかり、誰でも面倒だと思うものだ。間違いないな?」



人間の暮らしは俺が知っている魔族の暮らしとは全く違う。アリスたちの話を聞いてそう分かると、すぐに書物でこの世界での人間の暮らしぶりを調べた。そのせいで魔法石を利用した魔法を作るだけのことに随分と時間がかかってしまったが、大体のことは知ることができた。


俺は、取り敢えずその学んだ本の知識の一つをアリスに尋ねる。本の中のものが全て正しいとは限らない。その為、きちんとその目で現実を見たことのある者が必要だったのだ。



「うん。火をつけるのは面倒。火付け石で何度も叩く。それから、やっとできた火種を大きくする。時間がかかる」



こうやって、とアリスは火付け石を叩くように手を動かした。やはり、面倒そうだなとアリスの動きを見ながら改めて思う。



「それでも火魔法を使おうとは思わない。魔族ならばすぐに魔法を使おうとするのにな。人間たちはその便利さを知らないんだ。だから、こんなものがあったら欲しいとは思うんじゃないか?」



俺は自分の魔力を込めた魔法石に、幾つかの魔法式を刻む。石の表面に刻まれた式は光を放ち、そして石の中へと沈んでいった。


これで完成だ。後は…。


俺は机の上に置いていた紙くずをとり、石をそれに近づける。そして、今度は魔力を流さないように注意しながら(火をつけよ)と念じた。


ボウッ…と石から小さな炎が現れ、紙くずに燃え移る。白い紙がどんどん焼け焦げていく。



「火が…」


「この魔法石に俺の魔力と魔法式を封じ込めた。使用者が火をつけよと念じれば、この魔法石に込められた魔力が流れ、式の通りに火をつける」



紙が確かに燃えたことを確認すると、俺はあらかじめ近くに置いていたグラスを取り、その中の水をかけて火を消した。



「この大きさの石に込められる魔力はせいぜい十回分ほどか。この石にもう一回魔力を込めれば再度使えるようになるが」


「凄い…けど、平民は魔力を込めれない。魔力操作は難しい」


「だから商売になる。平民が魔力を入れる必要はない。俺がするからな。消耗品だから日常的に客は買うようになるだろう。空になった魔法石をまた使えるようにするには、魔力の扱いに長けた者がまた入れなければならない。空になった魔法石を持ってこさせて、魔力分だけ金を取るんだ」



魔法の便利さを知ってしまえば、もう火付け石で毎度毎度叩くことが馬鹿らしくなってくるはずだ。


魔法石は機器。魔力はエネルギー。どれだけ品質の良い機器でもエネルギーがなければ使えない。魔法石を安く売り、エネルギー分で金を稼ぐ。それが俺の考えたこの魔法石の商売の仕方だ。



(金は必要だ。今世は確かに恵まれていて、身分も貴族。両親を見ても金で困っている様子はない。が、金はどれ程あっても困ることはないだろう)



簡単に言ってしまえば、金も力ということだ。



「あとは…この魔法石に俺以外の魔力を入れられないようにすれば、他の貴族に金が入ることもない」



これは魔力さえ操れる者ならば誰でもエネルギーを入れることができる。元々難しい仕組みのものでもないからな。しかし、そんなことをされれば俺の懐に入る金が減る。


俺は、更にもう一つ魔法式を加えた。"レオ・アクイラの魔力しか受け付けない"という意味の魔法式だ。これでこの商品にエネルギーを入れることができるのは世界で俺のみだということになる。



「さて、あとは父様にでも頼んでどこかの店で販売してもらえるようにするか」


「売れる?」


「さぁ…こればかりは賭けだな」



俺は手の中の魔法石を見つめた。



「まぁ、便利だと分かっているものを欲するのは、魔族も人間も変わらないんじゃないか?」




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