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魔王と聖女の転生日記 10


「そう。前世でもそうだった。普通の人間は魔法を使わないし、作れない。だから、すべて魔法なしでやる。それにこっちの世界の方が魔法が遅れてる」



魔法が遅れている?俺は思わず、野菜を収穫していた手を止めてアリスの方を見る。どういうことだ。



「転生してから、少しこっちのことを調べた。王族、貴族、平民と区別はある。技術もそれなりに発達してる。でも魔法だけが遅れてるの」



社会の仕組みは前の世界と良く似ているが、魔法技術の歩みが遅いのだとアリスは言った。



「父様は?」


「だから魔法を使うだけ、じゃなくて、作れる父様は学者。有名な」



つまり、魔法が使えないことが普通で、使えるだけでも才能がある。そして、作ることもできる父様は国でも名の知れた学者だと。


俺は父様の畑を改めて見た。気候に左右されずに安定して作物が育てられる畑。前の世界でも価値があるだろうに、魔法が遅れているこちらでは一体どれ程の価値がつくのか。


…父様はその価値を家庭菜園くらいにしか思っていないようだが。



「なら、魔族がいないのか?」


「分からない。でも私はこの生でまだ見てない」



五年も生きているアリスが目にしたことがないと言うのならば、魔族はいない、いたとしてもその数は少数か、この国から大分離れた場所で暮らしているのだろう。


魔族が近くにいないのならば、それほど魔法が発達していないことも頷ける。元々人間に比べれば魔力の高い魔族はそれを使って何かできないかと考えるが、魔力をほとんど持たない人間はそれを利用しようとするまでには時間がかかる。人間だけでは一向に魔法技術の進歩が訪れないのは当たり前だ。


魔力の中に潜在する可能性に気が付いていないのだ。



「だから、父様の魔法も珍しい」


「そうか…」



この状況は何かに利用できないだろうか。



「どうしたんだ、レオ?アリス?手が止まっているね」



声をかけてきた父様に俺は頼んだ。



「父様、少し欲しいものがあるのですが…」















「レオ?何やってるの?」



庭から屋敷へと戻り、父様に頼んだものを受け取って俺はすぐに自室へとこもった。何も説明をせずに帰ったので父様たちは首を傾げていたが、まぁレオがしたいならとあっさりと許してくれた。我が両親は寛大だ。


数時間ほど経って、部屋の扉をノックする音がした。声を聞けばアリスだと分かったので、大丈夫だろうと入室の許可を出す。ちょうど前の世界の記憶を持った彼女の意見も聞きたかったところだ。



「今日のアリスと父様の話を聞いて少し思い付いたことがあってな。その思い付きが上手くいくかの実験中だ」


「これ、昼に頼んでたもの?」



部屋に入ってきたアリスは、俺の机の上にある、多くの式が書かれた紙と虹色に光る透明な石を見つめる。そして、その石を指差して尋ねた。



「そうだ。父様に頼んでないのならば自分で調達しに行こうかと考えていたけれど、父様の部屋にあったのは運が良かったな。流石に昨日記憶が戻ったばかりのこの筋肉のない身体で、探し回るのは骨が折れる」



流石は学者。父様の部屋には書物の山が積み上げられていて、魔法学的に価値のある貴重そうな薬草や宝石などが置かれていた。その中には俺が欲しいと思った石もあった。



「綺麗…」


「魔法石を見るのは初めてか?」


「うん」


「この石は便利だ。剣の装飾にすれば攻撃力が上がり、他にも占いや呪いにも用いられる。父様の話によるとどうやらこの世界の人間たちは自然界の魔力が少しずつ溜まった魔法石しか知らないようだが…」



魔法石。光を当てると虹色に光輝く石だ。外見も美しく装飾としても用いられるが、本来の用途は魔法への利用。


俺は机の上にある魔法石の欠片を掴み、そして、その石の中へと自分の魔力を流した。魔法石が紫色にぼんやりと光る。アリスは、ほう…と感嘆の息を吐いた。



「こんな風に自分の魔力を封じ込めることができる」



自然界で十分に魔力が溜まった魔法石はなかなか見つけることはできない。ゆっくりと時間をかけて、水や大気、土の魔力が魔法石の中に染み込んでいくため、魔力を溜めるのに数百年を要するからだ。











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