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ミサンガ

作者: Lalapai

ほぼ実話です。



1.結び


恋愛偏差値と言うものが存在している。受験と同じようにその人が持つステータスによって成就したりしなかったりと。生憎、おれにはそれが不足しているらしい。別に顔はそこまで悪いわけではない。性格もそこまでひねくれてもいない。どちらかと言うと明るい方だ。だが話はそこからだ。

出来たといえど百発百中とはいかなかったものの、おれはふつうに好きな人と付き合うことも出来た。勿論そこには別れがあった。理由は違えどあの日までは納得はしていた。その理由は、話があまり合わなかったり、なかなか勉強や部活会う機会が無く自然に別れたりと、はっきりと結論が出せた理由だ。その度にある程度は落ち込みはしたものの、次の人が現れると信じて過ごしてきた。それが俺の中学3年生を終えた頃の話だ。


高校に入ってからは考え方が違っていた。中学生までは喋っていて楽しい、今一緒にいたいと言ったほぼ直感的な考えで行動していた。しかし次第に将来がうっすらと見えてきた。おれが入った高校は進学校。将来どの学校に行って、どんな仕事に就いて、どんな風に暮らして。。。よく悩まされる。そこで恋愛について考えた時に見えてきたのは結婚。ただ付き合うだけじゃダメだ。そうおれは思った。付き合うなら結婚して死ぬまで愛すことができて気があって趣味が同じながいい。そう結論付けた。強欲だと言われてもいい。それがおれが楽しく付き合える条件だ。


おれはアニメやゲームが好きだ。ただ好きと言っても人よりは知識のある所謂オタクに近い存在だ。だが、おれの健康に焼けた肌と高い身体能力、そして不良のような目つき。そこからオタクということは周りからは想像できないらしい。

確かに色黒の肌と運動神経は小学校6年間習っていた野球と水泳と中学校ではバレーボールと、培ってきたものだ。勿論友達と外に出て遊ぶことも多かった。だが、今も運動部に入ってはいるもののアニメとゲームに出会ってからは断然インドア派となった。遊ぶ時はほとんどゲーム、1人の時はアニメ鑑賞。まあほとんど引きこもりに近いと言っても過言ではないかもしれない。顔付きは言われても仕方ない。生まれつきなのだから。


話は戻って、これはおれの偏見になるかもしれないが、女というものは大抵アニメに興味がない方に顔が可愛い人が多い。おれと同じようなアニメ好きにはあまり可愛いと思える人はいない。性格抜きでどちらかと問われればおれは可愛い人と付き合いたい。だが付き合ったところで話は合わずまたすぐに別れてしまう。そんなのは御免だ。

だから探すは可愛くて気の合う趣味が同じな人。それ以外は付き合わない。そう決めた高校1年の夏だった。。。




「これあげる」


夏休み、小学生の妹からおれにくれたのは一本のミサンガだ。どうやら祭の景品でたくさんもらったらしい。もらったはいいもののこんな洒落たものは付けたことがない。一応妹の機嫌を取るためその場ではつけず自分の部屋に持ち帰った。

ミサンガ。これを願いを込めて身体のどこかに結ぶ。そしてそのミサンガが切れた時願いが叶うと言われている。ただし注意しないといけないのが途中で故意で切る事だ。そうなると願いは叶わず、何処かへと消えてしまうらしい。これくらいの事は装飾品をあまり好まないおれでも知っている事だ。


さて、このミサンガを付けるか否か。せっかくもらったがどうも気がひける。だがつけなかった場合、この肌着が薄くなる夏の時期はおれがミサンガを付けているのかどうか妹にバレてしまう。困ったものだ。少し考えた結果、おれは付けることにした。二つを天秤にかけた時損が生じるのは妹が悲しむ方だからだ。ただ付けるだけではただの紐だ。どうせなら願い事でも託してみるか。おれは特に思いつかず結局恋愛の事にした。


《相手を幸せにできますように》


今は彼女はいないもののいずれ出会うであろうその人に幸せになって貰いたい。ただそれだけの意味だ。人に聞かれたら恥ずかしいが心の中で唱えて右足首に結ぶだけ、だがおれの頬は少し赤くなっていた。

翌朝、足にミサンガを付けたおれの姿を見た妹が嬉しそうな顔で朝食の準備をする母に伝えた。


「お兄ちゃん付けてる!私が昨日あげた祭のミサンガ」


妹が笑顔を見れてミサンガを付けてよかった。そう思った。しかし、おれは肝心な事を忘れていた。それに気づいたのは朝食を食べている時に母がその言葉を口にするまでだった。


「なんの願い事をしたの?」


完全に忘れていた。さあこれをどう対処すべきか。本当の事を言いでもしたら完全に馬鹿にされる。だがおれはいい言い訳を用意していない。

ああそうだ。おれはとっさに逃げ道を確保する。


「ね、願い事は口に出さない方が叶うらしいから言わないでおく」


『なにそれー』


母と妹が声を揃えておれの見事な逃げ方に残念がる。そもそも人の願い事に胸を膨らませすぎだ。まあこんな小さな日常の会話で家族だなあと時折思う。この日常に埋もれていたい。おれはどうやら反抗期というのはまだ来ていないらしい。そうはいっても喧嘩はたまにはするが次の日にはけろりだ。それはご飯が上手いから、どんなに落ち込んでも怒っていても結局ご飯さえ食べれば頬が緩む。


中学までは思えなかったことが高校生になってからは気づくようになってきた。考え方や感じ方が変わってきたからか、理由はわからないがこの時期におれ以外にも多くの人が自然と気付くものだろう。そう考えていたおれだが、人生においてまだ全然気づけていない。


それに気付かされたのは日差しの暖かさが心地よく感じられる3月の頃だった。

おれは1人の女性に恋をした。


2.綻び


気付いたらおれは虜になっていた。なぜあの人の魅力に気づかなかったのだろうか。

新しい高校生活はあっという間で気付けば新学年が始まる直前まで来ていた。おれは部活にストレスを感じ、途中で辞めた。まあただ辞めても内申点とやらに影響が出てしまう。それは避けたいと生徒会に入るか否かを悩んでいた頃だった。


放課後。帰りの用意をしていた時だった。隣で聞こえるのは聞き覚えのある心地よい歌声と歌詞。

この歌は…

思わず口ずさんでしまった。なかなかにマニヤックなおれのお気に入りの歌を家以外で聞けると思わなかった。ふと、歌声を辿ると隣の席に座っていた同じクラスの女子。今までおれはその人とは中学校も同じだったのだが同じクラスにならなかったせいでほとんど接点を持たなかった。綺麗な顔立ちをしており気品のある雰囲気だ。そんな彼女がなぜそんな歌を知っているのか気になった。

その彼女の人柄を近しい人に尋ねてみた。そして驚いたことに俺と同じオタクだった。そこからかいつしか気になっていた。

それから出来る限り悟られない程度に話をしたりLINEを交換したりとそれなりに短い時間で仲良くなった。久し振りに恋しているような気もしたが中学生までのドキドキ感とは少し違った。

それから日は経ち、思い切ってLINEで2人っきりのカラオケに誘ってみた。返事はOKだった。その返信を見ると嬉しくてスマホを思わず投げ出してしまいそうだった。気づけばそれほど興味を持っていた。

また日は経ち、カラオケ当日になった。天気は曇り日は見えずとも雨の予報ではなかった。とりあえず安心した。あとはうまくエスコートするだけだ。集合場所には十分前に着いた。彼女も思ったより早くに来てくれた。その姿は普段の制服とは想像のつかない私服のギャップといつもくくっていた髪も下ろしていた。特別な彼女の姿を見れている気がしておれは優越感に浸る。

その後は楽しく歌った。やはり彼女はオタクが盛り上がることの出来る歌を歌ってくれた。普段の男友達で行くカラオケで歌っても理解してくれない曲も彼女は理解してくれた。そして楽しそうな顔が脳裏に焼きつく。その時、脳が悲鳴をあげていた。早く手に入れたいと。だが口は思うように言葉を告げてくれない。やっと言葉を発したと思えばただ話を盛り上げるだけで告白ムードが消えていき一向にチャンスが見えてこない。結果は口にできずに解散してしまった。

そしておれはLINEで告白する事にした。直接伝えたい気持ちはやまやまだが、あの時言っていればどんな顔をしたのだろう。相手の表情が怖かった。おれにはそれを乗り越える勇気がなかった。気づけば文字は綴られ送信した。


[貴方様のことが好きです。本当は直接伝えようと思ったのですが勇気が出なくてですね…(笑)

よければ、私めとお付き合いしていただけないでせうか?]


いつものLINEの口調で綴った。変にかしこまるよりも、もし相手が拒否する時断りやすそうな軽さを醸し出した文章だ。

送ってからはずっと右手にはスマホが。真っ黒な画面に変化がないにもかかわらず何度も見てしまう。そして光った時、瞬時に画面をみた。返事は…


[よろしい。これからよろしくお願いしますね(笑)]


おれはなんども読み直した。これほど一文字一文字丁寧に読み返した事は生まれて初めてだ。


それからの生活は楽しかった。心にサポーターが付いているようで何も怖くなかった。どんなに辛いことがあっても頑張れた。

一緒に遊びにも行った。ご飯にも食べに行った。そんな楽しい時間はあっという間に経ち気づけば2年生になっていた。


「なんの委員会にするの?」


「んー楽なのがいいな(笑)」


おれと同じく部活に入っていない彼女は偶然にも生徒会に入ろうとしていた。生徒会には色んな委員会がある。そんな中、おれは出来れば彼女と一緒に仕事をしたいと思っていた。そんな妄想は何十回としたか。噂によると風紀委員の仕事が楽らしい。そして2人で風紀委員になろうと軽く約束した。


委員会役員決め当日。一つの教室に集められた立候補した生徒たち。予想以上に人数が多かった。例年なら2年生と1年生でちょうどぴったりか足りないといった人数なのに2年生だけで十分な数が揃っていた。異例の人数に1年生は補佐という形で仕事を回す事になった。

そして、もう一つ衝撃を受けた。他の委員会は委員長、副委員長という形をとっているにもかかわらず風紀委員会は委員長の枠しかなかった。おれには1人で仕事ができる能力はあいにく持ち合わせていない。残念だが彼女とは同じ委員会は難しい。

こうしてなんだかんだで委員会決めが始まる。おれは保健委員会に入る事にした。これも仕事が楽らしい。おれはその委員会名が呼ばれるのを待った。


「じゃあ次、風紀委員会」


先に呼ばれたのは風紀委員会だった。彼女1人が手を挙げていた。少し悪い気になった。謝りたかったが話すことができるような席ではなかった。

こうしておれは結局、保健委員会副委員長を務める事になった。

そこからは慌ただしい生活だった。生徒会の仕事をしたり、もう時期ある中間テストの勉強だったりと。ふと思えばあまり彼女に連絡はたまにとってはいるものの直接話す事は無くなっていた。でも、おれは今忙しい。用事が済んだら死ぬくらい話そう。前、アニメイトで買った彼女が好きなアニメのグッズをプレゼントしよう。そう思った。


だがその日は突然訪れた。おれがずっと見ないといけないと思っていたアニメを1話から鑑賞しながら課題をせっせと進めていた昼下がりの時だった。


ピコンという音がおれの部屋全体に高く響いた。何か嫌な予感はした。かなり大きな音で流していたアニメの音をかき消しているかのように聞こえた。おれは恐る恐る光った画面を見た。その瞬間、体に熱が走る。何も考えることができなかった。映し出された文字にはこう書かれていた。


[急になんだけど、最近考え方とか違うかったり、話してて楽しいけど友達と喋ってる感じがする。ごめんだけど別れて欲しい。]


何の言葉も涙も出なかった。ただ感じられたのはおれの心の中の何かがすっぽりと空いてしまった感覚だけだ。盛り上がるアニメの音もその時は全く聞こえてこなかった。おれはそのあと彼女の言葉に承諾の返信と、まだ好きだということを伝えた。そこから返信は来なくたさなった。

この日、おれはあの人の事しか考えれなくなった。別れて悲しい。今までにない悲しみの大きさだ。なのに涙が出ない。何故だ。風呂に入りシャワー浴びながら自問自答を繰り返す。


おれはなぜ涙が出ない。


歳をとって感情のコントロールができるようになったからか?


違う。この前アニメで自然と泣けた。



事が急だったからか?


違う。時間なんて関係ない。



なら、、、


彼女を本気で愛していなかったからか?


違う。本気で愛していた!



何で泣けないんだ!おれはこんなにも彼女を愛しているというのに!



おれは必死に心の中で叫んだ。悲しみ、苦しみ、怒りが体中を高速で乱れ舞う。だがやはり涙が出てこない。そんなおれに嫌気がさしてきた。

おれは頭から被るシャワーの水を涙に見立て泣いた。頭がぼーっとする。そして目の前に見えたのは切れかかっているがまだしっかりと繋がった右足首につけたミサンガだった。

相手を幸せにできていないって言いてえのか…くそっ!

ミサンガまでもがおれを嘲笑う。もうだめだ。現実から逃げようとまたLINEを見るが案の定変わっていない。次第にこう読み取れた。


[私のタイプじゃない。私の前から消えて]


そう見えて仕方がない。


おれは色々考えているうちにそれから体調を崩した。


もういい。恋はしない。


おれはそう誓った。



3.きれないミサンガ


ミサンガを切ろうと思った。ミサンガが憎くて憎くて仕方ない。


《相手を幸せにできますように》


何が願い事だ。端から神様なんていない。あてにしたおれが悪かったんだ。

しかし、おれはミサンガをきれなかった。本当に願いが叶わなくなりそうで。。おかしな話だ。信じたくないのにどこか心の中で信じきっているおれがいる。もし、本当にミサンガに神秘的な何かが存在し願い事が叶うのならなぜ切れていないのだろう。おれが付き合って相手が幸せならその時点で切れていた。仮にそうでなければ別れた今切れるべきだろう。なのに何で少し紐が切れているもののしっかりと繋がっているのか。考えても仕方がない。そんな事は分かりきっているのにどうしても気になってしまう。まるで呪いのアイテムを装備しているかのようだ。その呪いのアイテムのせいでいつもは美味しく感じられる食事も面倒に変わり食欲さえも失せてしまった。恋は病気だなんてよく言ったものだ。治療法が欲しい。


おれはこんなことを考えてばかりでは鬱になってしまう。そう悟った。心の中で彼女のことを忘れると誓った。そして家に置いてあった彼女の好きなアニメのグッズ。自分でも使えるのだがどうしてもそれを見るたび頭に彼女との短く長い思い出がよぎる。とりあえず家には置いておきたくない。せめてこれは彼女にあげて全て終わりにしよう。

おれは既読のつかないLINEに


[前買ったメイトのやついつかわたす]


別に彼女に送ったつもりではない。自分の意思表示みたいなものだ。


それから彼女とは一切話さなかった。なんなら目を合わせることすら出来なかった。生徒会室で会う度、目を合わせる直前で彼女だと認識しておれは目を逸らしてしまう。こんな調子じゃいつまでたっても渡せやしないか。思えばレベルの高い事をしようとしていた。こんな事をするならLINEで告白なんて真似はしない。そんな生徒会で毎日会うのに目も合わせず変に意識して近くに来ると避けてしまうテンプレート化した日は早く進みジメジメとした6月、生徒会主体で行われる文化祭が近づいてきた。


毎日おれは彼女のことを忘れるため勉強に精を出していた。普段しっかりとしていないことをしているととても辛いものがある。日に日に体力が削られ限界が見えてきた。いつも夜勉強をしていると気づけば寝ている。そして朝は起きれば家を出る時間。食欲が湧かず食事もろくに取れていない。そんな慌ただしい毎日におれは家族とのコミュニケーションも取れていなかった。そろそろ休みたい。だが休んでしまうと生きている意味を分からなくなりそうで怖かった。そんな限界に近い生活を続けていた文化祭リハーサルの時だった。今日も雨。

休んでも死ぬ。休まなくても死んでしまう。そう思いながら機材を運んでいた時、俺の様子のおかしさに声を掛けてくれたのは現保健委員会の女の先輩だった。

うちの生徒会は文化祭を終えるとともに世代交代する。そしてまだ文化祭前の俺は仕事を学びながら手伝っていたのだ。

その優しい先輩に俺は機材を運び終えた後、全てを打ち明けた。正直泣きそうだった。今までの悲しみを口に出してみると意外にも自分の背負っていたものの大きさに気づく。その悲しみを一緒に背負ってくれた先輩のおかげでだいぶ軽くなった。本当に感謝している。だが、驚きの言葉を浴びせられた。


「やっぱり君もその悩みなんか。もう一度付き合えばいいのに…」


君も。

続けて先輩は話してくれた。話によるとあの子も先輩に相談していたらしい。その内容と言うのがあまりにもショックだった。

あの子は泣きながら相談したらしい。どうすれば俺に謝れるか、と。どうやら別れたことを後悔していたらしい。一時の感情で行動してしまった自分が許せないし、何より俺に友達ですらいてもらえなくなっていたことを心の底から悔やんでいたのだと言う。

俺は目が覚めた。今まで勝手に妄想を膨らまし、勝手に傷ついて相手までもを傷つけてしまっていた。そんな自分を許せようか。俺にはあの子の泣いた表情が想像できない。知らぬ間に俺の頬を伝って涙がシャワーのように零れ落ちていた。


「会って話してきます。ありがとうございました。」


俺は溢れる涙を拭い。1人で仕事をして生徒会室にいるであろうあの子の元に走った。近づくにつれてだんだんと足が重くなってくる。今会って何が伝えられるだろうか。ごめんなさいの謝罪の言葉か?いきなり会ってごめんなさいと言われても相手は困る。じゃあ何を言えばいいんだ。そんな気持ちに反して足は止まらない。あの子の元へと心も飛んでいく。ついてこないのは気持ちだけ。

そうして知らぬ間に戸の閉まった生徒会室の前に立っていた。硬く拳を握りしめる。頭によぎる葛藤を抑え閉まった戸に手を当てたその時だった。


後ろに黙って立っているあの子が居る。ただ居るだけではない。俺のカッターの裾を強く握っている。いつの間にいたんだ?気付かなかった。

しばらく沈黙が続いた俺は振り返る事が出来なかった。伝えたい事があり過ぎて先ずは何から伝えるべきなのかわからないでいた。だが今、思いを言葉にしないでいつするのか。

俺は裾を握るあの子の手を手に取り振り返って片膝を地面につけた。


「俺と本気で付き合ってください!」


初めてあの子の目を見て本当の言葉を言えた気がした。あの子の目には涙が見える。俺はその涙が溢れないよう言葉を続けた。


「俺はまだちゃんとした告白をしていない。だから!まだ付き合ってすらない!ここから始めさせてくれ!」


最低なことを言っている気がする。だがこれが俺の本心だ。

返事が返ってこない。相手の目にはもう涙が溢れかえっていた。これ以上俺が喋ってきしまうと俺は声を出して泣いてしまう。高ぶる感情を必死に抑えた。短い期間だが見てきたあの子の表情。こんな顔は見た事がない。そしてついにあの子の口が開く。


「…っす、は…私もLINEで言っただけだから別れてないよね、、、」


細く力のないノイズの混じる声は確かに聞こえた。俺は溜まる涙が溢れないようゆっくり頷く。


「私もっ…貴方が、、、好きです」


俺はその返事を聞いて彼女に飛びついた。そしてあの子がなくなってしまうくらい抱きついた。今までの悲しみが全て消えていった。それは誰かが背負うわけではなく跡形も残さずに。その悲しみが出て行くとともに涙が溢れでた。


「ごめん…ね」


「いいけど、、、苦しい」


笑いと涙が混じった声で訴えたその声に慌てて手を外す。だがあの子の手は握っていた。あの子がまた何処かに行ってしまいそうで。


それから落ち着いて話をした。勿論先輩には事情も話した。少しの間なら代わりをしてくれると言ってくれた。本当に情のある先輩だ。

そして今回の件を俺は結論付けた。


「これからは大事なことはちゃんと目を見て言おうな。」


問題は文字で気持ちが全て伝わると思っていたことだ。俺だって告白はLINEでなんかでしてしまった。相手がどう受け取るか以前に直接されたいものでもある。そしてあの子もまた文字で別れを告げた。受け取る側からしたら被害妄想を膨らませてしまう。

こうしてお互いはまたいつものように、いや、いつも以上に話すようになった。しっかり目を見て。このお互いの幸せがいつまでも続きますように。


大事な事は口に出そう。せっかく人間には表情というものがある。使わずして感情を伝えようなんて横着しすぎだ。ちゃんと目を口を頬を体を、、、あらゆる人間の気持ちを伝える手段を使おうではないか。文字はそのアシストに過ぎない。



え?オレのミサンガはどうなったかって?


俺のミサンガはその後すぐに切れたんじゃないかな。

だけど、おれのミサンガは未だに綻ぶ様子も千切れていく様子も見せてくれない。理由は分かりきっている。ろくに気持ちを言葉にせず未だに想いを、たらればの妄想をまた文字に綴って逃げているだけだからだ。

読んでくださりありがとうございました!

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[良い点] ほとんど実話というところがいいですね。 人生で誰でも経験しそうな恋愛のお話という気がします。 文章構成は上手いと思います ただ個人的には二人の会話がもう少し多いといいな、と思います。 [気…
[良い点] 青春らしくいろいろブレブレでめんどくさいヒロインと高校生の癖に妙に将来を見越して考えている主人公のリアル感が良かったです
2019/06/27 14:40 退会済み
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