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7's   作者: 小真希
交わりは終わりへ
9/13

略奪

辻褄合わなくなってます。後日編集します!肉付けも間に合っておりません!

 鳴り止まない雨音。

 耳をくすぐるような鈴の音が近づいてくる。


『『みつけた』』


 それは二人の女性の声。


『だ…れ…?』


 その問いは虚しく消えた。





 目を覚まし、見渡すものの、部屋には誰もいない。

 夢とは違い、しっかりと意識はあった。金縛りのようなものだろうか。

 窓の外を覗くと、雨は上がっていたが、今にも降り出しそうな厚い雨雲が空を覆っている。




 やがて東の空が白む。

 誰もいない貸切の大浴場で汗を流し、温泉へと浸かる。朝から温泉とは、贅沢この上ない。

 高級な旅館と聞いていたものの、娯楽施設は一切ない。

 異世界なのだから仕方ないとはいえ、卓球台くらいはおいても良いのではないだろうか。もっとも、一人では遊べないのだが。

 風呂を出た俺は着替えの為に部屋へと戻った。





 また降らないうちに下見だけはしておくべきだろうと、城の裏手にある山へと向かう。

 目指すは東の社。

 階段を上った先に三つ目の鳥居が存在し、お札のようなものがいくつも貼られていた。

 手入れされずに廃れた小さな神社のような建物が鳥居の先に見える。

 鳥居の先には進めず、見えない壁のようなものが存在していて、その壁はどうやら社を中心に半円状に展開されていた。上空部分は未確認だが、おそらくドーム型の結界のようなものだろう。

 場所と状態は確認できたが、問題は二匹の猫又の存在。

 社の中が確認できない以上、これ以上は調べようがない。





 諦めて帰ろうとしたその時だった。

 




 突如背後で聞こえた鈴の音に驚き慌てて振り返る。

 そこにいたのは黒い毛並みの猫と白い毛並みの猫の二匹。

 二本に分かれた特徴的な尻尾は見覚えがある。

  タケさんと同じ、猫又だ。



『人間?』


『………』


 明らかに敵意を持ち、こちらを睨むような鋭い白猫の眼光が突き刺さる。


『あ…初めまして…俺はウルスラ。人間だよ』


 睨む白猫を無視して話しかける。


『君達がシロとクロ?』


『そうだよ』


 一応答えてはくれる黒猫。対して白猫は完全に敵意を見せている。

 

『………』


『…それはタカコがつけた名前』


 喋ってはくれた白猫だが、相変わらず敵意のある視線を向けてくる。


『そうなんだ…それで、ここに居たらマズイのか?そもそもこれ以上そっちに進めないけど…』


 そう言って見えない壁に触れる。

 通れはしない。が、俺の魔法を使えば穴を開けることは出来そうな気がする。


『私達は人であって人ではない。妖怪であって妖怪ではない』


『…?人だとか人じゃないとか、よくわからない。俺は異世界人だから、もっとわかりやすく教えてくれないか?』


 先程まで感じていた威圧感のようなものが消え、何かを相談し合うかのようにクロとシロが見つめ合う。


『異世界人?タカコの知り合い?』


『知り合いというか、話せば長くなるんだが、構わないか?』


 かいつまんでここまでの経緯を説明し、シロとクロの話も聞かせてもらった。


 妖怪は人を喰らう事から、人間から忌み嫌われ、恐れられている存在。しかし、一部の妖怪は人間に化けて、人里で暮らしたという。やがてその者は男と恋に落ち、子を授かる。しかし生まれた子達は強い妖力と魔力の両方を宿しており、その子達が半妖怪だとわかるや否や、男は掌を返すように、妻と子を殺そうとした。二人の母は二人の子を連れて妖怪の住まう隠れ里へと帰る。

 しかし、妖怪の里は二人を迎え入れなかった。シロとクロは捨てられ、タカコさんと出会い、ここへ封印されたのだと言う。


 何故二人を封印したのか。

 女神と謳われた人物ですら恐れていたのか、あるいは他に意図があったのか、それはわからない。

 二人が人を嫌う気持ちもわかったが、悪い奴ばかりではない事を知って欲しい。

 今のこの国なら二人も普通に暮らせるのではないかと思う。獣人や亜人がいるのだから、半妖怪がいてもさほど目立たないだろう。


 しかし封印されたという事は何か理由があるのだろう。

 ヨミやタケさんに話を聞いてみるか。


『今日はありがとう。また来るよ』


 それだけ言って俺はその場を後にした。





 ―――


『変わった人』


『そうだね。不思議な人』


『私は…嫌いじゃない』


『素直じゃないなー。あ、タカコの言ってた事覚えてる?』


『うん。たぶんあの人の事』

 

『あたしもそう思う。…これからどうする?』


『また来るって言ってた』


『そうだったね。待ってよっか』




 





 ―アイリス―


 バルトロス。もともとは獣人達の隠れ里だった場所に、アルストから流れた者たちが村をつくり、街をつくった。そして女神と謳われた異世界人。タカコ・環によってひとつの国へと変わった。

 バルトロスとアルストは言わば姉妹国と呼べるだろう。

 タカコの死後、ヨミと呼ばれる九尾の妖狐が女王として祭り上げられた。

 地を駆ける四足獣の中で最も幻術の魔法を得意とし、人を化かす事に関して右に出る者はいないと言われる妖怪。しかしヨミはまだ幼く、純粋故に扱いやすい。

 近年はネフェルとも取引があるようで、食糧品や嗜好品、刀等の独自の武器も輸出している。

 北の国ネフェルと敵対関係にあるアルストとしては、看過できないものだが、バルトロスは中立を貫いているため、下手に口を出せない。



 バルトロスへと着いた馬車は門を抜け、大通りの手前で止まる。

 広場には露店などが立ち並び、その日によって店の数は異なるが、多いときは大通りにまで広がる事があり、馬車が通ると通行人の邪魔になるため、大通りは馬車が通行禁止にされている。

 徒歩で広場を真っ直ぐに抜け、城の前の通りへとでたところで、たまたま前を通りかかった一人の男を呼び止めた。


『そこの者、止まるのじゃ!』


『ん?俺の事か?』


『お主以外、他に誰がおるんじゃ?』


『…君の後ろにいるじゃん』


 男の言葉に振り返るとそこにはヨミがいた。


『ぬわぁ!!!って、ヨミではないか!脅かすでない!』


『ご、ごめんなさい。アイリスちゃんが見えたから…』


 ヨミめ!思わず声を荒げてしまったではないか!

 いつものオドオドとした国主らしからぬ態度にため息をつく。

 こやつはいつも辛気臭いのう。

 不意に視界に入ったヨミの抱える生き物に目が行く。 

 …は?ドラゴン?…って、何故ヨミがルイーナの子を!?


『なんだ、二人は知り合いだったのか?』


『は、はい。それより、ウルスラさんはどうしてここに?』


 何ィィ!?ウルスラ…?この男が!?!?


『あーいや、俺はその…散歩かなー?』


 フフ、フヒッ

 よもや探し物が二つも同時に現れるとはな。妾は運が良いのう。


『じゃあ俺用事があるから、じゃ!』


 あれが異世界人のウルスラか。

 立ち去る背を見つめ、これまで感じたことのない高揚感を覚えていた。

 アレがいれば、神を殺せる。



 母上、必ずや神を根絶やしにしてみせます…。






 ―――


 宿へと戻った俺は、朝食をとっていたティティ達と合流する。


『朝からどこいってたの?みんな探してたんだからね!?』


『ごめんごめん。露店の見学ついでに散歩してた』


『ウル様ずるい!ボクも連れてってくれればよかったのに!』


 普段と変わらないようなやりとりに心が少し洗われる。

 アイリス、その名は南の国アルストの魔王の名。

 まさかこんな形で遭遇するとは思わなかった。


『ヨミとリルはまだ寝てるの?』


 エイミーに問いかけるフラウの言葉を聞いて俺は勢いよく立ち上がった。

 リルを狙っていた盗賊はアイリスの指示で動いていた…!

 アイリスの目的は不明だが、リルを殺すために


『ティティ、説明はあとでするから今すぐに来い!命令だ!』


 フラウの言葉を無視して一目散に宿を飛び出し、焦りを察したティティが後を追う。

 城の中には誰も居らず、広場に出たとは考えにくい。人の目を避けるとすれば裏山しかない。






 一つ目の鳥居の前に切断され上半身だけになったタケの無残な姿が転がっていた。


『お婆ちゃんっ!!!…やだよ、なんで…』


『…先に行く』


 泣き崩れるティティを後にし、俺は一気に階段を駆けあがる。


 境内にある三つ目の鳥居の更に奥。そこには傷だらけになった小さな狐姿のヨミがリルを庇いながらもアイリスと対峙していた。

 つい先ほどまであった社は倒壊し、見えない壁も消えていた。


『主では妾に勝てぬ。諦めてドラゴンを差し出せ』


『ダメ…です!リルちゃんは渡せません!』


 ヨミの九つの尻尾から暗紫色の魔力がうねるように現れ、尾と同化するように動きだす。


『分からず屋じゃの。まぁ、ドラゴンでなくともそこの者さえ手に入れば事は済むのじゃがな』


 アイリスの視線が俺に向けられる。

 リルか俺、どちらでも良いというのはどういうことだ?コイツの目的はいったいなんだ?


『どういう意味か聞かせてもらえるか?』


『ふむ。良かろう』


 大気中のマナを介してピリピリと伝わってくる魔力。小柄な体だが、保有する魔力は膨大。さすがは魔王と言わざるを得ない。

 見た目は幼いものの、高圧的に感じさせる口調や態度は支配者そのもの。


『妾が望むは破壊と再生。母を殺し、世界の調停者となった者を殺す事。異世界人の魔法を使えば神界への門が開けるのじゃ』


 神を殺す、その言葉には強い復讐心を感じ、揺るがない眼光の奥には悲しみと憎しみに満ちていた。

 神の存在は資料にも載っていた。五百年程前の神魔大戦。しかしそれ以上の情報はなかった。

 元々この世界の歴史には興味もなかったし、ただこの世界を見てみたい、それだけだった。


 復讐、か。ミリアをクドレアに殺された時は俺も同じ気持ちを抱いた。

 しかしそれは精神支配の魔法の影響だった。ティティのおかげでようやく我を取り戻せたが、胸に小さな傷が残っている。アイリスの復讐心は理解できる気がする。

 かと言って他人の復讐には興味がない。巻き込まないでほしい。

 それに、腑に落ちない点はいくつかある。


『異世界人じゃなくてもドラゴンでも良いって言ったよな?アルストにはドラゴンがいると聞いたが、そいつではダメなのか?』


『なかなか良い質問じゃな。じゃが、それは今答えられん。そうじゃな…妾と共に来ればお主の問いに全て答えよう。無論、客人として扱う事も約束する』


 悪くはない条件、しかし明らかに罠だろう。

 それに、タケを殺し、ヨミと敵対しておいて信頼できるはずがない。


『ウル様、クー様がこっちに向かってるから、ボク達は逃げよう』


 後を追ってきたティティの声。

 隣に並び立ち視線を交わす。ふと頭にウサギの耳を生やしている事に気づく。

 やはり、獣人だったのか。

 しかし、今はそんな事どうでも良い。

 リルとヨミを連れて離れなければ…。


『炎魔を呼んだか。判断としては間違っていないが、先に王手をかけるのは妾じゃ』


 言うが早いか、アイリスの身体が放電し始めた。


『ウルスラさんっ!』


 ヨミの悲痛な叫びが耳に聞こえ、同時にふわりと意識が遠のいていく感覚に襲われる。

 身体が痺れ、そのまま地面へと倒れこむ。


『ゆっくり休め』


 耳元に囁きかけられるアイリスの言葉を最後に、意識が途絶えた。








 ―――


『リルちゃんとウルスラさんを連れて早く逃げてください!私がアイリスちゃんを止めます!』


 ヨミの提案に従い、ティティは倒れてるリルの元へと走る。


『…遅いのじゃ』


 後ろから周りこんでリルの前へと現れたアイリスに動揺するも、勢いを殺さずにそのまま突進。

 それは、瞬きした瞬間――僅か一瞬、閉じた瞼が視界を遮り、再び開けた視界、その視線の先にはリルの前に立っていたアイリスが眼前まで移動していた。


『何っ…!』


 視界に映るのは身体を回転させたアイリス。伸びた足が視界を塞ぐかの如く横薙ぎに迫ってくる。

 左脚で自身にブレーキをかけ、後方へと上体を逸らし、右脚へ重心を移動させる。

 アイリスの回し蹴りを交差させた腕が防御する。しかし、その威力はティティの想像を遥かに超えていた。咄嗟の判断で後ろへと飛ぶことに成功し、ダメージを軽減させたが、衝撃を殺せずティティを遥か後方へと吹き飛ばされ、木々を抜けて森の中を転がった。




 背後から奇襲を考えるヨミに対し、ウルスラを守るかのように割って入るアイリス。しかしその位置ではウルスラを巻き込みかねない、そう判断したヨミは魔力槍を解いた。


『…ウルスラさんをどうする気なのです?』


『妾の目的に変わりはない。こやつの呪いを解いて、口説くだけじゃ』


『そうは…させませんっ!私はクドレア様からソレの監視、制御、護衛を任されているのです!ソレを返してもらいます!』


 木々の中に吹き飛ばされたティティが起き上がり、まるで糸の切れた人形のような足取りで歩きだす。

 先ほどまでの綺麗だったメイド服は土や草が付着し、枝で切り裂かれてボロボロになっていた。


『ほう、まだやるのか?力量差もわからぬとはな!』


 再びアイリスは身体から青白い電撃を纏うように放電させる。それに呼応するかのようにティティは地面に這い蹲るかの如く、上体を低くする。

 両脚で力強く大地を蹴り、弾丸のような速度でアイリスへと迫る。

 拳でフェイントをかけ、やや無理な体勢からの振り抜いた蹴りが空を斬る。


『お主では妾には勝てぬ』


 右斜め前方に捉えていたはずのアイリス。しかし、声がした左後方にアイリスは立っていた。


『幻影、じゃない!?速すぎる…』


『ふむ。一応合格じゃが…お主には興味がないので………む?』





 ――シャリンシャリン。

 突如聞こえた鈴の音にその場にいたものが警戒する。


『うるさい』


『静かだよ?』


『…うるさい』


 蜃気楼のように影を揺らめかせ現れた黒髪の少女と銀髪の少女の登場に、その場にいた者の視線は収束した。

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