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7's   作者: 小真希
交わりは終わりへ
7/13

魔王

ようやくウルくんが!の巻


 東の国、バルトロスへは街道を真っ直ぐに進む。

 歩きはじめてどれくらいが経ったのか、日が沈み始めた頃、ようやく小さな村が見えてきた。


『あの村で一泊出来ないか聞いてみよう』


 さすがにいつもの明るい表情はなく、疲れきった表情を浮かべるティティ。

 村に入ると、異変に気づいた。

 民家のような作りだが、文明レベルはネフェルにはるかに劣る。今にも倒壊しそうな脆い造りの小屋のようなものが立ち並んでいた。

 地図を広げてみるがこの村の存在は記載されていない。もともと大雑把な地図であるため、あまり期待はしていなかったが、酷いものだ。

 辺りを見回すが人の気配はない。


『ウル様〜』


 ティティに呼ばれていった先には小さなドラゴンが傷を負って倒れていた。


『ドラゴンか…』


 辛うじて息がある事を確認したティティはすぐさま治癒≪ヒール≫をかける。

 すかさずティティの治癒≪ヒール≫を強化≪ブースト≫し、精度を高める。


 なんとか傷は回復したものの、衰弱した身体までは治せない。

 出立する際、野宿を想定していたため、サラさんが持たせてくれた赤と青の魔水晶を用いて、火を起こし、水を生み出す。

 味を見ながら簡単なスープを作り、二人と一匹が火を囲む。


『あ、食べたよウル様!』


 ティティの腕の中でスープを舐める子供ドラゴンの姿に安堵する。

 空腹を満たし、眠りに落ちた子供ドラゴンを優しく撫でるティティは普段の無邪気な表情はなく、母が子供の寝顔を見つめるように優しげな笑みを浮かべていた。




『名前は考えたのか?』


『えへへ。やっぱりウル様には分かっちゃうんだね!"リル"ってのはどうかな?』


『可愛いね、リル。良いんじゃない?』





 翌日、すっかり元気を取り戻したリルはパタパタと飛び回れるくらいにまで回復していた。


『クァックァ〜』


 リルの言葉はわからないが、感謝している気持ちは、顔を擦り合わせてくる仕草から伝わってきたような気がする。


『ウル様、リルも連れてって良い?』


『旅は道連れって言うし、ネフェルまで引き返すのも面倒だし、リルが嫌がらなければ良いんじゃないか?』


 喜ぶティティをよそに、手早く出立の準備を整える。





 街道を歩き始めると、馬車が一台ゆっくりと追い抜いて行く。


『お兄ちゃん達どこへ行くの?』


 荷台の幕から少女が顔をだして声をかけてきた。


『バルトロスだよ』


『わー!一緒だね!なら乗ってかない?』


『エイミー!盗賊だったらどうするの!』


 エイミーと呼ばれた少女の後ろから顔をだした女性によって会話を遮られる。

 渡りに船だったが、考えてみれば当然の事だ。同じ立場なら俺だって同じ判断をするだろう。

 しばらくすると馬車が止まり、荷台から少女が降りてくる。

 どうやら先ほどの女性を説得したようで、馬車に乗せてもらえる事になったらしい。正直、有難い話だ。

 エイミー達は旅芸人の一座で、村や街を回っているとの事だった。


『まさかドラゴンの子供だなんて、驚いたわ…。それで、ウルスラ達は何をしに行くの?』


 先ほどエイミーを叱っていた女性はフラウ。俺達と歳も変わらないくらいだが、大人っぽく、かなりしっかりとした女性のようだ。話をしてみると共感できる部分が多く、どうやら俺と境遇が似ている。


『観光と、東の社にいる、猫に会うためだよ』


『ふーん。徒歩で向かうなんて珍しいわね』


『そうなのか?ネフェルから出るのは初めてだからね。それに、二人共御者の経験ないしさ、仕方ないんだよ』


 クドレアに運んでもらう事も考えてみたけど、どうせまた雑に扱われるし、自分の足で歩いてみたかったのだ。


『ところで、ティティさんは何なの?どうみてもメイドよね?もしかしてウルスラは貴族とか王族だったりするの?』


『まさか。俺は一般人だよ。ティティはクドレアに仕えるメイド見習いだよ』


『えっ!?魔王クドレア様の!?』


 クドレアの名前を聞いて慌てふためくフラウ。

 やはりクドレアの知名度、悪名は轟いているようだ。実際は噂に尾ひれがついたもので、クドレアの普段の行動を見ている俺にはギャップが面白い。


『まぁね。でも俺は一般人だから、あまり警戒しないでくれ。ティティもあんな感じで悪い奴じゃないから』


 ティティとエイミーがリルのファッションショーを始めて、それを見たフラウも吹っ切れたように笑いだす。


『ふふふ。いいわ、貴方達を信じる。でも馬車に乗せた恩は忘れないでね?』


 ちゃっかりしてるな。

 けど恩返しねぇ。金なんてないぞ。


『フラウの器の大きさに期待してるよ』


『言うわね!まぁいいわ。リルは客受け良さそうだし、場合によっては借りるかもしれないわよ?』


 金がかからないならと笑顔で頷いた。

 フラウもそうだが、拾ったドラゴンを笑顔で差し出す俺もなかなかだろうか。


 



 馬を休ませる為に馬車を止め、木陰で昼食をとる。


『バルトロスって獣人や亜人以外はいないんですか?』


『あんまり見ねぇな。もともと獣人達の隠れ里だった場所を国にしたって話だからなぁ』


 座長のダインは何度かバルトロスを訪れているとの事でいろいろ聞いてみたが、事前に調べた情報と変わりはなかった。




 再び馬車を走らせ、日が暮れる前に予定してた集落へと到着した。

 俺とティティは川で水を汲み、馬車へと運ぶ。子供達がぞろぞろ集まり、それを見た人達が次々と馬車の周りへ集まりだした。


『ウル様見て見て!エイミー達可愛いよ!』


 ティティの指し示した先には踊り子の衣装に着替えたフラウとエイミーがいた。ダインさんはピエロのような格好で、アコーディオンを弾く。

 音楽に合わせて滑らかな動きで舞うように踊るフラウとエイミー。

 笑顔で楽しそうに踊る二人に、観客の反応も良く、曲に合わせて体を揺らしたり、手拍子して盛り上げていた。


『こ、こら、ダメだってリル』


 リルも二人に魅かれたのか、パタパタとエイミーの周りを飛び回る。

 観客がリルを見て一瞬どよめいたものの、エイミーがアドリブですぐ様フォローに入る。フラウもエイミーに合わせるように踊り、いつの間にかリルが中心となっていた。

 曲が終わると大歓声と、惜しみない拍手と称賛が二人に注がれた。

 大盛況である。





『お疲れ様。ごめん二人とも、リルが勝手に…』


『ごめんなさい…』


『気にしないで。みんな喜んでいたし、私達もすごく気持ちよく踊れたわ』


『うんうん、あんなの初めてだったよ!まだフワフワしてるよ〜』


 二人とも笑って許してくれて、それどころか上機嫌なようで安心した。結果オーライだが、全てはエイミーとフラウの起点のおかげだ。


『ありがとう。綺麗だったよ二人とも。すごく魅力的だった』


『二人とも可愛かったよ〜!』


『ありがとう。二人にそう言ってもらえると嬉しいわ!』


 


  二人を労い、夕食の支度を始めると二人の村人がやってきた。


『先ほどは素晴らしい演奏と踊りをありがとうございました。この村では娯楽はありませんので、村の者も大変喜んでおりました。大した持て成しはできませんが、もし宜しければ、私共の宿に泊まっていって下さい。もちろん、お代はいただきませんので』


『ありがとうございます。皆に伝えておきます』


『馬車はウチの小屋に入れてくれ。それとな、最近近くの村が盗賊に襲われているらしいからな、あんたらも気をつけておくれよ』

 



 着替えを終えたダインに確認を取り、エイミーとフラウにも声をかける。

 宿はお世話にも豪華とは言えないものの、それでも人の温かさのようなものを感じていた。

 座長のダインさんは宿の店主と酒を交わし、いつのまにか意気投合していた。

 ティティとエイミーの二人はリルと一緒に楽しそうに食事を取り、フラウはそれを見守っていた。


『お疲れ様。もう食べないのか?』


 フラウの隣に腰掛け、空いたグラスにジュースを注ぐ。


『ありがと。お腹いっぱい』


 先程まで店主とダインさんに付き合って飲まされていたフラウは少し顔が赤い。

 お酒は結構強いのだろう。二人と違い、受け答えもしっかりできている。


『寝る前にフラウとティティに話があるんだけど、時間作ってくれないか?場所はティティの部屋だ』


『…わかったわ』


 フラウは俺の声のトーンと表情から察して、直ぐに了承してくれた。

 各々が部屋に戻るのを確認し、俺はティティの元へと向かう。


『どしたのウル様?』


『少し相談したい、フラウも呼んである』


 遅れてフラウが部屋へやってくる。

 エイミーは後から伝えればいいし、ダインさんは飲みすぎだから除外した結果この人選となった。


『盗賊について話した事だ。とりあえず、俺の推測を聞いてくれ』


 黙ったまま頷く二人を確認し、初めから説明する。

 まずはリルを助けた経緯からおさらいし、地図を広げてポイントにバツ印でマークしていく。

 今滞在しているこの村を中心に南東寄りに二ヶ所が盗賊の被害に遭った村。リルを拾ったこの村の北側にあたる村はそれ以前に滅んでいたであろう事から除外する。


『リルがあの場にいたのは何かから逃げる為だった、と仮定して、北側の村は除外する。南東では魔物と盗賊、どちらも存在し、目と鼻の先のこの村はいずれ標的となる。リルを追って北上しているとするなら近い内にこの村も襲われる』


『…それで、ウル様はどうするの?』


『ここで待ち伏せて一気に叩こうと思う』


『えっ!?相手の人数もわからなし、魔物だってどれほどのものかわからないじゃない!』


 ごもっともな意見だ。普通はそうだ。


『俺達はバルトロスへ向かってるんだ。遭遇戦、夜間に襲われる可能性も否めない。ならば地形を活かす事ができ、人員も確保できるここは絶好のポイントだと思う』


 考え込む二人に反対する理由はない。

 敵がどこに潜んでいるかわからない状況で、フラウ達も迂闊に動きたくはないだろうし、ティティは俺の護衛だ。

 戦力として俺は除外されるだろうし、使える魔法は強化ブーストしかない。俺は後方支援に回らざるを得ない。

 結局は他力本願の提案なのだ。


『…わかったわ。私達は荷物になるでしょうけど、それでもできうる限りの事をするわ』


『ボクはウル様を守るためにいるからね!任せておいて』


『ありがとう二人とも』




 部屋を出ようとして、ふと自分の中に湧き上がるようなものを感じる。戦闘に対する恐怖か、高揚感かはわからない。頭の中に渦を巻くようなイメージが湧くが何を意味するのかわからない。


 カンカンカンカン。

 突如響き渡る鐘の音に慌てて窓の外を確認すると、村の片隅で火の柱が上がる。


『逃げろー!盗賊だー!』


 一人の男性が叫び走るその背に一本の矢が突き刺さり、その場に倒れた。

 呆気なく倒れた男性に思わず足が竦む。

 叫んでいた男性の顔は見えないが、この村の住人だろう。黙って見過ごせはしない。

 正義感なんてものじゃない。しかし、やらねばやられるのは自分たちだ。



 ふと、頭の中に魔法のイメージが過る。


『ティティ、行くぞ!』


 頭の中のイメージをしっかりと把握する。

 黒い渦が対象を取り込むようなイメージ。

 気付くと身体全体から溢れ出すように黒い魔力が漏れ出していた。


『なんだこれっ!?』


『うおおおおおお!?ウル様カッコイイ!!!』


『ちょっ、何よそれ!?』


 俺が聞きたいよ!でも確かにカッコいいかも?

 って、そんな事してる場合じゃない。みんなを助けないと!



『俺とティティは外で足止め、フラウはみんなを誘導してくれ!』 

 

 二人に指示をだし、村の広場へと向かう。

 身体が勝手に動くかのように、普段の俺とは全く逆の違う行動に戸惑いを感じるも、敵を視界に捉えると同時にその余裕もなくなった。

 頭の中がクリアになる。これなら…。




『一応聞いておく。お前達は何の為にこの村を狙う?最近近くの村を襲ったのもお前達か?』


 月明かりと燃え上がる民家の火が盗賊達を照らし出す。

 数は目視できる限りで九人。

 口元を隠すようにバンダナのようなものを巻いた男女混合のグループのようだ。


『この村にドラゴンの子供はいるか?そいつを差し出せば命だけは取らないと約束しよう』

 

 こちらの質問に答えず、自分達の要求を押し付けようとしてくる。


 やはりリルが狙いか!と心の中で呟くが、内心はまさかの予想的中に驚きだ。

 リルが狙いという事はつまり俺達が標的か。この街は関係ない。




『ティティ、援護を頼んでいいか?』


『え!?ウル様が突っ込むの?ボクなら10秒あれば終わるよ?』


 え!?まじで???

 さっそく新しい魔法を試そうと思っていたのだが、ティティの予想外の発言。


『じゃあ任せるよ!10秒数えておくからよろしくね。いーち…』


『ずるいっ!それ早いよ!!!』


 慌てて飛び出したティティに強化≪ブースト≫でアシスト。俺が魔法を行使すれば多分ティティより早いだろう。頭の中のイメージはまるで全てを飲み込むブラックホールのようなものだった。しかし周りの建物なども巻き込んでしまう恐れがあり、躊躇はしていたのだ。

 本音ではないが、言い訳は用意しておくべきだろう。




 ティティは武器を持たず、今までにみた格闘技の中でもかなり特殊で、全身を武器のように使い舞うように攻撃する。

 まるアクション映画でも見てるような動きに目を奪われる。

 踏み込みと同時に放つ右のストレート。パワー重視の攻撃。

 斬撃を交わしつつ相手の懐に飛び込み屈みこんだ状態から相手の顎を突き上げるように放つ掌底。

 跳躍し、相手を踏みつけ背後へと周り、薙ぎ払う。

 流れるような無駄のない動作で草を掻き分けるかのように進むティティ。

 


 ふと、視界に影が落ちたような気がして上を見上げる。

 眼前に迫る短刀を構えて落下してくる女の盗賊。


『ウル様っ!!!』


 先にこちらに気付いたティティが悲鳴のような叫びを上げた。

 問題ない。自らも強化≪ブースト≫しているため、身体の反応は早い。


『…』

 

 左足を一歩引き、右に半回転。

 落下と共に振り下ろした短刀が空を切る。


『何っ!?』


 目を見開き、理解できないとばかりに顔を上げた盗賊の女の顔に、そのまま横薙ぎに強化≪ブースト≫された回し蹴りが決まり、まるで空き缶のように吹き飛ぶ。


『ヤバイ!やりすぎた!?』


 そう思うのも一瞬だけ。そういえば弱肉強食な異世界でしたね、ここ。

 罪悪感を全く感じない訳ではない。が、命を狙われてるのに躊躇してはいられない。

 今は自分のモットーなど捨て去る。


 再び頭の中に魔法のイメージが湧き上がる。

 屋根の上を走る盗賊へと、視線を向け、穴を開けるようなイメージで走る相手に重ねる。

 




 違和感を感じた盗賊は方向を変えてフラウ達のいる方へと走る。


『行かせないっ!』


 空間ごとねじ曲がり、ねじれるように渦を巻く。

 慌てて逃げようとするが、視界内にいる限りはどこまでも追える。

 翳した掌、その指先の禍々しい黒炎が掌へと一気に凝縮される。


『なんっ…ウェェェ』

 

 手首を捻るように黒炎を握りつぶすと、空間の歪みは一気に拡大して盗賊の一人を吞みこんで消えた。

 その光景を見ていた盗賊のリーダーらしき男が悲鳴を上げ、腰を抜かす。


『ウル様すごーい!!何今の!?初めてみたよ〜』


 盗賊のリーダーに背後から近づいたティティが脚を振り上げ、男の後頭部めがけて落とした。


『ッ!?』


 ティティのスカートの中が一瞬見えそうになり、すぐに視線を逸らしてしまった自分に後悔する。

 

『…10秒以上かかってるじゃん』





 盗賊達を縄で縛って拘束し、すぐさま燃える民家の消火へと当たる。

 負傷者は出たが、幸い死者は出なかった。


 翌朝、盗賊の処分を話し合う村長を含めた村の大人達をよそに、ティティとリルを連れて盗賊達に話を聞く。

 どうやら金で雇われただけで、詳しい理由まではわからなかったが、アイリスという南方の国を束ねる魔王へと繋がっている事がわかった。


『南の魔王、アイリスか…』

一座の登場は完全なるイレギュラー。

リルも当初は水の精霊だったし、どこでどう間違ったらドラゴンになるのか。。。

でもそんな事はどうでもいいのです。

先生がきっとウルくんの挿絵をさらっと描いてくださると信じております!

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