闇への誘い
何にもチェックしてません!また後日編集修正すると思いますが、とりあえず投稿!そして次話へ!
水の染み込んだシャツを丸めて、千切るような勢いで絞り出す。
乾かないシャツを再び纏い、肌に張り付く不快感はあるものの、裸でいるよりはマシなので我慢する。
『アンタはなんであんなとこにいたんだ?』
目の前の少女は同い年くらいだろうか。
ダークグリーンのロングヘアー、少し日に焼けた肌が健康的で、顔立ちは良いのだが、少しつり目で、気が強そうな少女。
『あたしがどこで何しようとあたしの勝手でしょ?それより貴方、助けを求めた美少女を見捨てて逃げるなんて、とんだクズね!』
『確かにそれには同意だ。だが、あの状況じゃ逃げるしかないだろ?』
『まあ、そうね。美少女って事は認めるのね?』
『は?ちょっと可愛いからって自分を美少女とかいう神経が理解できないだけだよ!』
『ふん!…あたしは、ミリア・クラージュよ。貴方名前は?』
『また唐突だな。俺は…ウルスラだ』
『ウルスラ、ね。ところで、ウルスラは魔王の関係者かしら?』
まぁ、こんなところにいたら普通はそう思うよな。
『俺は旅人だ。たまたま洞窟を見つけて、入ったら迷ってしまってな』
普通?いや違う。この女は俺の顔を知らないのか。
街の全ての者が知っているわけではないだろうが、俺の顔を知らないとなると、余所者の可能性が高い。
まあ、ここにくる以上余所者以外に考えられないのだが。
『ふーん。ウルスラは何か特技とかないの?旅人って言うからには、護身術くらいはできるわよね?』
『ないな。護身術も皆無だ。魔法は修行中で、剣とかそっちはからっきしなんだ。出会ったら逃げろが俺のモットーだからな』
『…アハハハハ!そんなの始めて聞いたわよ?』
『笑う事ないだろ、失礼だなアンタ』
出会ったら逃げろは紛れもない事実。
そしてそれはこの女にも適応される。
『ごめんごめん。あ、あと、アンタじゃなくて、ミリアって呼んでちょうだい』
『…ああ、わかった』
よく見るとミリアの着ているシャツが濡れた事で下着まで透けて見える。シャツが張り付いて身体のラインも浮き上がっている。
『ねぇウルスラ』
ッ!?
『…何?』
必死に動揺を押し殺し、平静を装う。
『ウルスラって噂の異世界人の名前よね?もしかして貴方がそうなの?』
『な、何言ってんだアンタ。そんなわけないだろ?』
『ミ・リ・ア!わかった?』
『はい』
少しムッとした表情をしたものの、ミリアから敵意は怒りは感じない。
『あたしは貴方を連れてくるように言われてるのよ』
誰に?なんて、聞いても答えないだろうな。
それに、"異世界人"をどこかは知らないが"連れていく"ってことは、この国の人間ではないのか?
魔王城の迷宮に侵入するくらいだし、余所者と言われた方が納得できる。
『そ、そうだ!俺用事あったんだ!先に行くわ』
『え!?ちょ、ちょっと!どこへ行くの?』
『…』
今俺がとるべき行動は、この女の存在をどうにかしてクドレアに伝える事だ。
『ちょっと待って!…痛っ!』
声に振り返ると脚を抱えて倒れこむミリアの姿。
『お、おい、大丈夫か?…捻ったのか』
『ええ。たぶん落下する前ね』
そういえば、あの時、ミリアが落とし穴のスイッチを踏まなければ俺は死んでいた。
いろいろと思うところがあるが、命の恩人といっても過言ではない。
『仕方ないな、ほれ』
『ちょ、ちょっと!?』
俺はミリアを背負い、洞窟を進みだす。
落とし穴の先の洞窟は地上へと繋がる道のはず。先日クドレアの開いていた図面を思い出しながらとにかく上を目指して歩くのみだ。
『怪我人を放っておけないだろう』
『…優しいのね、貴方』
『困ったときはお互い様だからな』
『ありがと…』
後ろから抱きしめられるように回された腕。
耳元にかかる吐息に身体を震わせる。
『ッ!?お、おい!耳やめろって!』
『ふふふ、可愛い』
『ったく…次やったら置いてくぞ?』
『ふふふ。肩に歯を立てられたくなかったら我慢しなさい!』
『理不尽だ!』
馬鹿話をしながら地上を目指して緩やかな斜面を登っていく。
いつの間にか打ち解けて徐々に縮まる距離に俺は安らぎと高揚感を感じていた。
差し込む夕日が洞窟の入り口を照らす。
『ようやく外だな』
紅く燃えるような空、少し冷えた風が頬を撫でる。
『ありがとう、もう大丈夫よ』
『無理はするなよ、医者のいるとこまで送っていくよ』
『ううん、もう治ったから大丈夫。治癒魔法使ったから!』
あー、そういえばそんな便利なものもありましたね…。
自分じゃ使えないからすっかり失念していた。
『ねぇ、ウル、あたしと一緒に来ない?』
『また唐突だな。…気持ちは嬉しいけど、遠慮するよ』
『そう…、魔王のところへ戻るの?』
やはり気づいていたか。
まあ、あの場に俺がいる時点でなんとなく想像はつくか。
『ああ』
『貴方は魔王に利用されてるだけよ?あいつらは目的の為なら手段を選ばない。貴方も殺されるかもしれないわ。それでも戻るの!?』
『他の魔王がどうかは知らないけれど、俺はクドレアが悪いやつだとは思わないよ』
『でも、魔王なのよ?』
『魔王だって人間だよ。強者であることに変わりはないが、同じ人間だ。勝手に決めつけるのは良くない!』
『ずいぶんと魔王の肩を持つのね』
少し沈んだ顔を見せるミリアの頭をそっと撫でる。
『魔王が、というより、クドレアは信頼できると俺は思ってるよ』
『………』
『悪い奴もいれば、良い奴もいる。無理に信じろとは言わないけど』
『…そうね。ウルがそう言うなら、一方的に決めつけるのはやめるわ。…でも、何度も言うようだけど、"魔王"には気を付けて………また、会えるわよね?』
『ああ、きっと』
僅かな時間の中だったが、俺はミリアという女性に魅かれていた。
友人とも恋人とも違う、曖昧な関係。
一緒にいると安心できて、些細な事も新鮮で、輝いて見えた不思議な時間。
箱を閉じるように俺は自分の想いにそっと蓋をした。
――ミリア――
『どうじゃ?』
まるで見ていたかのようなタイミングの念話に肩を揺らして驚く。
念話を飛ばしてくる相手は一人しかいない。
立ち去るウルスラの背中を見つめながら念話へと意識を移す。
『はい。結果から申しますと、失敗です。申し訳ありません』
『ほう。という事は何かしらの収穫はあったのか?』
『はい。対象との接触に成功し、魔王による精神支配、および幻術の類は見受けられず、本人の意思で魔王の所にいると判断しました。精神干渉系の魔法は一通り試しましたが、効果がなかった事から、何らかの無効化スキルを所持している可能性があります』
私が得意とする精神支配系の魔法は対人向けで、それを無効化するにはレジストするか、何らかのスキルを持つ者でなければ、現状では対抗手段がない。そしてそのスキルにもレベルがあり、最低でも上位のスキルでないと防げない。
『ふむ。…では消すのじゃ』
『…はっ?しかし、強引に連れて行けば問題ないのでは…』
殺す?当初の目的は保護になっていた。それが、なぜ殺さねばならないの?
『上位まで無効化するスキルを持つ者など、今後どんな脅威になるかわからん。確実に始末するのじゃ!』
『…わかりました』
私には最初から選択の権利はない。
彼を説得、または強引にでも、王都ヴィルランまで連れて行く事が私の任務だった。
彼と接触していた事実が魔王クドレアの耳に入れば、間違いなく私を排除しにくるだろう。そして王都ヴィルランにも被害が及ぶ可能性がある。
説得に失敗した今、彼を殺す意外に手は残されていない。
強引に連れて行くのも手ではあるが、アイリス様は消すという判断をされた。
それはおそらくクドレアや他の魔王達を危険視した結果なのだろう。
もともと私自身、こういった密偵、暗殺には向いていない。本来私が赴くべきは戦場。一対一であれば魔王にも勝てる自信はある。
『ウル…貴方は騙されてるのよ。どうしてわかってくれないの…?』
小さくなるウルスラの背中に向けた言葉は拡散され、何も残らない。
もっと違う出会い方をしてれば、貴方が魔王に騙されていなければ、私達は………。
貴方は私をどう思っているの?
『私は…』
左手には光の弓、右手には光の矢を構える。
貴方を魔王なんかに渡さない。
耳に残る彼の声、優しげな眼差し、温かな手。
溢れだす涙を拭わず、弓を握る手に力を込める。
『すぐに、貴方の傍にいくから…』
…
静かに矢を引いた。
放たれた光の矢は空を切り裂きウルスラへ向かう。
しかしそれは赤い閃光によってガラスのように砕かれた。
『なにっ!?』
炎が空から地上めがけて薙ぎ払ったように見えた。
目の前に現れたのは紅蓮の炎を纏った女性。魔王クドレア・ダーム。
『いい度胸をしているな小娘。アレは我の器だぞ』
その視線は冷徹でまるでゴミを見るような目をしていながらも、瞳の奥では怒りの炎が揺らめいている。
『…彼を利用するのなら、誰であろうと殺す!』
戦場の空気を察知した身体が勝手に戦闘態勢へと移行し、頭の中もクリアになっていく。
『ほう。ウルスラに惚れたか。』
嘲笑うかのような表情で図星を突いてくるが、もはや隠す必要はない。
けれど、この女に彼の名を呼ばれるのは許せない。腸が煮えくり返るような思いだ。
この怒りが嫉妬であるのは理解しているが、それでも自分を抑えきれない。
『だったらなんだと言うの!』
水の精霊と契約を交わし、与えられた水を操る能力。
斬撃と水の力を合わせ、切断することに特化した私の切り札。不本意ではあるが最強の攻撃手段。
刀身へ水を這わせ、纏わせる。
レイピアは刺突武器だが、斬撃を飛ばせるのであれば関係ない。
コイツさえ倒してしまえば、ウルスラを殺さなくて済む。
そうだ。全てこの女が悪い。
『貴方にウルスラは渡さないっ!』
一閃。
横薙ぎに振るったレイピアから放たれた水の斬撃はクドレアを一刀両断した。
…はずだった。
『…ほう、なかなか面白いな』
『ッ!?』
斬撃は確かにクドレアを切り裂いたはず。なのに何故!?
『何を驚いておる?次はこちらの番だな』
パチンとクドレアが指を鳴らす。
すると突如身体の中に燃えるような熱さが広がった。
瞬時に身体の異変を感じ、理解した。
『まさか、体内を燃やして…!?』
内臓が破裂し、吐血するも止まらず、身体が熱で膨張する。
視界にクドレアの邪悪な笑みが映る。
刹那――ミリアの体は風船のように破裂し。肉片が飛び散った。
………
……
…