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王に呼び出され、決断を迫られる

王国に来てから早数週間。

ロス達は用意された客室でゆったりした時間を過ごしていた。モンスターのロスと三人が入っても狭くないように、普通の客室の倍は広さがある。

ピカ、ユウ、メツは椅子に座って紅茶を飲みながら雑談し、ロスは床で横になっていた。

ロスはソファやベッドを使う様に勧められたが、自分の身体で傷付くと使い物にならなくなると、頑なに応じなかったのだ。

ピカ達もロスの頑固な一面をしっているため、長くは説得しないことにした。 


「交渉がうまくいってよかったですね」

「ありがとうなのじゃ。お前たちのおかげじゃよ」

「ユウ達、一緒にいただけ」

「わかっとらんのお、それがどれだけありがたいことか」


あの後、メツは人王を説得し、無事人間とモンスターの和平条約は締結された。これによりモンスターが人を襲うことはなくなったのだと言う。


だが当然それをよく思わない者いるわけで――


「モンスター討伐を生業にしていた冒険者たちからは、条約の破棄を要求する声も上がっている。他にもいつモンスターがまた襲ってくるかわからないからと、一方的に虐殺する事態も出て来た。それのせいでモンスターの中にも不満を持っているものもいる」

「なかなかきれいにまとまらないものですね」

「むしろ条約の締結自体が奇跡みたいなものじゃ。あの人王は裏で何を考えているのやら」


メツは人王が苦手だった。

こちらの全てを見透かすような鋭い眼光。王でありながら護衛もつけず、王室で一人座り込んでいる余裕。

何を考えているかわからない狸じじいと内心思っていた。


そんな時、部屋のドアがノックされた。ピカが返事をし、ドアを開けて対応する。

そこにいたのは、癖毛の強い茶長髪の少女。フリルが多く付いたピンクのドレスを着ており、まるで物語に出てくる姫のように愛らしかった。


「どなたですか?」

「こんにちわあ、私はヨウと言いますう。人王様の命令でえ、迎えに来ましたあ」


間の抜けたゆっくりした喋り方にピカは脱力する。

見た目同様に頭の中もお花畑な人物だという印象を持った。


「人王は何の用があると?」

「さあ? 私は聞いていませんよお。私が知っているのはあ、人王様が貴方達に用があると言うことだけですう」


ずいぶん適当な物言いにピカは肩を下げると、準備するから部屋前で待つようヨウに伝えた。



玉座にたどり着いたロス達。

人王はいつも通り鋭い眼光で彼らを迎えた。


「ご苦労だった。下がっていいぞ」

「はあい、それではみなさん御機嫌よう」


 ヨウはロスの背中を軽く叩き、その場を後にした。

 

「お前たちをここに呼んだのは他でもない。ロスよ、お前に勇者になってもらいたい」

「え?」

 

 突然のことにロスが呆けた声を出す。


「どういうことじゃ? 勇者とは魔王を討つべき存在。和平条約が締結した今、不要な存在でじゃろ?」

「最後まで聞け、確かにお前を討つ理由はなくなった。だが今度は旧魔王復活と言う危機が迫っている、ならば我らを導く新しい英雄が必要なのだ」


 --勇者。


 ロスは私利私欲の権化と化した嘗ての友の姿を思い浮かべる。


「人でありながらモンスターとなったロスが勇者となれば、人間とモンスターの絆の証としてふさわしいのではないだろうか?」


 確かに人王の言うことも一理ある。だがそれを受け入れてしまえば、もう旅に戻れない気がした。

 ロスはピカとユウを見る。二人と一緒の旅は、苦労の連続だったがとても楽しいものだった。

旅で出会った人たちとも安住の地で再会を約束している。


 ロスは決心が付かなかった


「――急いで答える必要はない。だが考えておいてはくれないか?」

「わかりました……」


 ロス達は足早にその場を後にした。


 人王はそれを見てため息をつく。

 玉座からのびる影が僅かに揺れていた。


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