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4/12

トレジャーハンターと出会い、遺跡に向かう

空を舞い、安住の地を目指すロス達一行。

襲い掛かるモンスターは叩き落し、軽口を交えながら今日も見知らぬ土地を進んでいた。

 

「にいに、そろそろ休憩しない?」


抱き抱えられていたユウが提案する。

もう空を飛び始めて数時間が経っていた。ロスの疲れを心配しての言葉だろう。ピカも同じなのかロスの背中をばしばし叩いた。


「あそこに町が見えます。近くに降りなさい」


 ロスは人目に付かないように近くの森に降りる。ピカとユウはすぐに戻ると町へ駆け出した。

 今のロスはモンスターなので、どうしても騒ぎになってしまう。なのでピカ達がこのように食料を買い出しにいくように決めたのだ。

 ロスは木を背もたれ替わりにして一休みすることにした。目をつむり、風の音に耳を傾ける。木々が静かに揺れる音、程よい温度はロスを眠りに誘うには十分なものだった。



「――ス。ロス起きなさい!」

「にいに起きて」


 どれくらい寝ていたのか、昼間だったはずなのに夕陽が見える。ロスは思っていた以上に眠ってしまったようだ。


「ごめん。寝ちゃってた」

「まったく、私たちに感謝しなさい」

「ただ起こしただけ。感謝求めるの間違っている」


 ピカとユウの手元には袋に入った大量の食糧やポーションがあった。小さな二人がこれだけの量を運ぶのは、どれほど大変だっただろうか。

 ロスはせめてものお礼と二人の頭を撫でる。


「あ~蕩けそうです」

「ここまでの疲労消滅。むしろ回復」


 二人は十分満足したようだ。

 このまま夜に移動すれば何が起こるかわからない。ロスはこの辺りで野宿することに決めた。


 袋から食料を取り出し、三人で食べる。自分がモンスターの姿だから、二人を宿に止めることすら出来ないことにロスは申し訳なさを感じていた。


「そのような表情しないでください。私たちが困っているとでも言ったのですか?」

「にいにとずっと一緒にいたいから。野宿余裕」


 二人に感謝しながら、ロスはおにぎりを銜える。このままではいけないと思いつつもどうすればいいのかわからなかった。


 ぐーぎゅるるるる。


静寂の森に、誰かの腹の音が鳴り響く。ロスは交互に二人を見るが、どちらも首を横に振る。


 ――ということは近くに誰かいる?


 そう判断するや否や、警戒を強め辺りに集中する。すると近くの茂みが少し揺れた。

 恐る恐る近づき、音の主を確認すると、


「あへー、もうダメ、お腹減って動けない」

 

 女性が目を回しながら倒れていた。

 山登りするときのような厚い服装に、茶色の帽子をかぶった橙色の短髪。大きめのリュックを背負っているが、中身は古いガラクタばかりだ。

 どう見ても不審者だ。だがこのまま見捨てるというのも忍びない。ロスはとりあえず声を掛けることにした。


「大丈夫ですか? ご飯食べますか?」

「いただきます」


 倒れていたのが嘘のように、女性はロスの持っていたおにぎりをかっさらい、豪快に食べ始めた。唖然とするロス達を後目に、おにぎりだけでなく、買ってきた食料全てを平らげてしまった。

 

「ふうーご馳走様でした。この御恩は一生――ってモンスター⁉ 命だけはお助けええええ!」


 ロス事情説明中。


「へー君があのロスなんだ。始めまして私はスミカ。トレジャーハンターやっています!」

「それはまた……食事に困りそうな仕事だね」

「ごもっともで」


 宝を求め、未開の地を目指すトレジャーハンター。だがモンスターが至るところにいるため、生存率も低く、日々の生活すらままならないのが現状だ。

 だが、あるトレジャーハンターが伝説の剣マスターを持ち帰り、王国から一生遊んで暮らせる富が与えられたという前例がある。そのため数は少なくとも無くなってはいない。


「今の私は有り金すらなく、御三人方に返せるものは何一つございません。ええ、これっぽちも。ですがご安心を! この近くにある遺跡から宝を手に入れ、必ずや何倍もの返礼をさせていただきます!」


 要するに「タダ飯ありがとうございます。出世払いします」ということだ。

 食い逃げ同然の行動にピカとユウは納得するはずがなく、協力してスミカにブレーンバスターをかます。


「んぎゃ! なんと殺生な……」

「計画性もまるでないのに、その自信はどこからくるのですか⁉」

「食べ物の恨みは恐ろしい。監視する」

「なんとご無体な!」


 頭を押さえながらスミカが涙目で許しを請う。

 ロスとしては許してあげたかったが――とても言い出せなかった、


「で、でしたら遺跡に一緒に行くというのはどうでしょう? 私、実は冒険の方が好きで宝にはさほど興味がないんです! ですから宝があれば皆さんに差し上げます!」


 スミカのカバンには遺跡から集めたとみられるガラクタが大量に入っていたので、宝物に興味がないというのはまったくの嘘だろう。あと、さりげなく宝物がある確証がないと自白していた。

 そもそもロス達が付いていくメリットがない。


「なら、なら! これはあくまで同業に聞いた話で信憑性に欠けるのですが――実はその遺跡には旧魔王の遺品が残されているらしいのです」

「旧魔王?」


 旧魔王とは昔この世界に存在した魔王のこと。その力は絶大だったらしいが現魔王に滅ぼされたとされている。


「そうなんです! そのような物が残っていれば危ないじゃないですか! ですからこれは調査というものです! もし見つけたら破壊しなければいけませんしね!」


 スミカ必死に腕を動かし、遺跡の危険性を説明する。 


「意見が二転三転しています。これ以上は聞くだけ無駄でしょう。必要以上に食べた分は町で働いてもらいましょうか」


 ピカはこれ以上の問答は無駄だと、スミカを縛り上げようとする。それをロスが止めた。


「ロス?」

「わかった。その遺跡に連れて行って」

「ハイ、喜んで! さすがロス様! 寛大なお方です!」


 スミカは万歳するほど大喜び。ピカとユウは納得いかないといった表情だ。


「食料の件ならまだ貯金があるし何とかなるよ。それよりそんな遺跡が放置されているのが心配だ。何もないのが一番だけど……」


 噂に過ぎないことなのだが、いやな予感がする。ロスは自分の直感を信じることにした。



 そびえ立つ山に隠れるように遺跡はあった。レンガを積み重ねた円柱型の塔になっており、モンスターを模した壁画や朽ち果てた像がいくつもある。この地に一定水準以上の文明が栄えていたことは一目瞭然だ。

 とりあえず入り口を探すため塔の周りを一周するがそれらしきものは見当たらない。


「だいたい遺跡の入り口は隠されています。どこかに仕掛けがあるはずですが」

「あれ見て」


 ユウが指さした先には塔に引っ付いたレバーがあった。その上では巨大な岩が柵に引っかかっている。


「スミカ動かしてきなさい」

「ちょっと待ってください! 私に死ねというのですか⁉」

「私たちのために死ぬのは当然でしょう」

「そんな馬鹿な」


 さすがに殺すのはあんまりなので、ロスが代わりにレバーを動かす。案の定、柵は外れ岩が落ちてきたが、ロスは雷魔法で粉々に粉砕した。


「これがロスの力……すごい」


 スミカは素直に感心していた。魔法を使える人間はそれなりにいるが、ここまでの使い手はそういない。女神の力とやらでパワーアップしているとしても、それをコントロールするのは至難の技だ。

 

(彼の力があれば――)


 スミカがそんなことを考えていると地面が大きく揺れ始める。見てみると塔が競りあがり、巨大な入り口が出現していた。

 遺跡の入り口は下り階段になっており、下の方は暗くて見えない。ロス達のこれからを暗喩しているようだった。


「では宝探しと参りましょうか!」


 そう言ってスミカはロスの背中に隠れ、びしばしと叩く。


「一番手はお任せします。私は後ろでキミをサポートしますよ」

「貴方が最初に行きなさい!」

 

 ピカのドロップキックをくらい、スミカはガンと音を出しながら階段を転がり落ちて行った。


「勢いのまま落としてしまいました」

「打ちどころ悪ければ命の危機」

「急いで追いかけよう!」


 ロス達はスミカの安否を確認するため、後を追う。

 スミカは階段を降りた先の通路まで転がり落ちていたが、ケガ一つなくぴんぴんしていた。


「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」

「ハハハ。この程度では傷一つ付きませんよ。頑丈さだけが取り柄なんです」

「一応ポーションを使っておいて」


 ロスからポーションを受け取ったスミカは、それをカバンに入れると、自分のことは気にせず先に進むことを促す。

 通路は横に狭く、縦に広い。真っ暗で先が見えず、スミカが持っていたランプが唯一の光源だ。そのためスミカが先頭を歩き、その後ろにロス、ピカ、ユウが続く。


「この狭さだと、何かあれば身動きが取れませんね……」

「安心して、僕がフォローするよ」

「ハイ! 頼りにしています!」


 スミカが振り返り笑顔を見せる。

 その時、スミカの足元でカチッと音がした。冷汗を流しながら見てみると、赤いスイッチをきれいに踏んでいた。

 上から大量の矢が降り注いでくる。ロスは上空で風魔法を展開し、矢をしのいだ。


「早く進んで!」

「は、ハイいいぃぃ!」


 通路を急いで抜けると、広間のような場所に躍り出る。もう矢は振ってこなかった。一安心し、部屋を見渡すと古びたドアと様々な形をした大量の置物がある。その横の壁には、物を入れるような握りこぶしぐらいのくぼみがあった。


「正しい物をはめ込めと言うことでしょうか? この中から探すのは骨が折れますね」

「ユウ、がんばる」


 ピカ達が探す間、ロスは壁を背に座ろうとする。その横でスミカも座ろうとしたが、バランスを崩しロスに倒れ掛かってしまった。

 ロスはスミカを受け止めるが、勢いのまま壁に激突。


「いたた……ん?」


ロスの背でカチッと音がすると部屋全体が揺れ始めた。


「今度は何⁉ あれ?」


 見ると古びたドアが開き、次の部屋へが見えていた。


「……どういうことかな?」

「どうやらロスが正しいスイッチを押したみたいで」

「じゃあユウ達がしてたことは?」

「ただのフェイクだったようで」

「なんですとー⁉」


 ピカは納得いかないと地団太を踏むが、結果的には先に進めたのですぐ収まった。



 その後、ロス達は数々の罠を潜り抜け――ついに最深部へ到着する。


 最深部は今までと構造が大きく変わった。一言でいえば余りにも近未来的だった。石など自然なものは消え失せ、全てが機械で出来ており、ドーム一個分ほどの広さがある。ロス達からすれば、まさに未知の空間だった。

 意を決し中に入ると、部屋自体は円柱状になっており、天井では高さが三メートルはある球体がつるされていた。


「何もないのでしょうか?」


 ピカが球体を見ながらつぶやいていると、突然下からカプセルが出現し閉じ込められてしまった。


「な……なんですとー⁉」

「ピカ!」


 ロスが全力で殴るがびくともしない。どうやら物理衝撃を吸収する素材らしい。魔法で壊すことはできそうだが、そうすれば中のピカにもダメージが入ってしまう。どうすることもできず、ピカに落ちつくよう声を掛けるしかなかった。


『クフフフ……よくここまで来てくれた。礼を言おう』


 雑音の混じった、不快な声が部屋中に響く。それと同時に繋がれていた球体が外れ、ゆっくりとカプセルの横に静止した。


「何者?」


 ユウが警戒を強めながら訪ねる。

白く丸かっただけの球体にひびが入り、口のように開閉しながら返答した。


『私はショワンウー。魔王様に生み出された人工知能。魔王様を再びこの世に呼び戻す時が来た』

「旧魔王の遺品と言うわけか」

『如何にも。魔王様は自身が滅びることを見越し、人工知能を生み出していたのだ。私の計算では、魔王様が復活するには後数百年ほどかかる見込みだったが――』


 ショワンウーが口を閉じると、カプセル内に電流が走る。


「きゃああああああッ!」


 ピカはカプセルにもたれるように倒れ込んでしまった。

 どうやら、ピカの力が無理やり吸い取られているらしい。


「ピカ!」

『このような存在に出会えるとは思わなかった。これのおかげで、魔王様の復活は予定より遥かに早まる』

「お前!」


 ロスは魔法で攻撃しようとするが、ショワンウーは素早くカプセルの背後に回り、口を歪ませる。


『これの命は私が握っている。変な動きをすれば即座に殺してやろう』

「ああぁぁぁッ!」

「く……」


 再びピカの力が吸い取られていく。

手出しできず、ロスとユウは眺めることしかできなかった。


『全てお前のおかげだ。感謝するよ――スミカ』

「え?」


 いつのまにか、スミカはショワンウーの後ろに移動していた。その顔はまるで機械のように無表情だった。


「どういうことスミカ?」

『スミカは最初から私の仲間、ガイノイド――ようするに生命体ではない』

「そんな、だってあれだけ、ご飯も食べていたのに……」


 ユウがすがるようにスミカを見る。


『食料を燃料に変えるよう調整しておいた。その方が人間らしいだろう? スミカ、証拠を見せてやれ』


 スミカは頷くと、上着の裾をまくる。

 その上腕は皮膚ではなく、銀色の金属で覆われていた。


『お前たちがこの近くを訪れた際、これから莫大な力を感じた。魔王様の復活に仕えると考えた私は、なるべく親しみやすい人格を計算し、スミカを作り上げた。そしてお前たちの場所へ向かわせたというわけだ』

「僕たちをここに連れてくることが狙いだったのか……」

 

 スミカの真実にショックが隠せないロスとユウ。その間にも着々とピカの力は失われつつあった。

ピカの身体が少しずつ透け始める。元々別世界の女神であるピカは、実体を保つことにも力を使っている。その力が急激に失われたため、存在を保てなくなってきたのだ。


「ピカ! お願い止めて! 何でもするから!」


 ユウは涙を流しながら懇願する。

 ピカはユウにとって大切な友達。普段はそっけない態度を取っていても、心の中では強く信頼していた。


『ならばそこで見ているがいい。これの消滅と、魔王様の復活をな! クハハハハッ!』


 このままピカは消え、旧魔王が復活しようとしていたその時――


「今です!」


 突然スミカがショワンウーの巨体を横に蹴り飛ばした。そして、カプセルに付いていたスイッチを押し、ピカを解放する。


『何ィーッ⁉ 貴様何をしている⁉』

「申し訳ありませんショワンウー様。私は貴方の理想に賛同できません」


 スミカは、ロス達のもとでピカを寝かせるとカバンに入っていたポーションを振りかける。透けていたピカの身体は元に戻り、ユウが泣きながら抱き着いた。


「よかった……よかった」

「……心配かけましたね。ありがとうございます」


 その様子を見ていたスミカは申し訳なさそうに頭を下げる。


「スミカお前は――」

「私は今日生まれたばかりだけど、ショワンウーの願いがいいこととは思えなかった。だから君たちにあいつを倒してもらおうと思ったんだ――危険な目にあわせて、利用してごめん」

『なるほど、どうやら人格形成時にバグがあったようだな。許さんぞスミカ。私の悲願を邪魔した報いを受けよ!』


 ロス達が言葉を交わすより先にショワンウーが、大口を開きスミカを飲み込もうとした。

 だがロスは風魔法でそれを防ぎ、逆に弾き飛ばす。ショワンウーは壁に激突し、口のひびが大きく広がった。


「ロス」

「話は後だ。協力してあいつを倒すぞ」

「――うん! さっきの蹴り見てくれたと思うけど、肉弾戦には自信があるんだ」


 ロスとスミカは並び立ち、ふらふらと宙に浮くショワンウーを見据える。その後ろではユウがピカを背負い、離れた場所に移動していた。


『ああ、目の前の餌に釣られた私が馬鹿だったようだ。やはり時間をかけて魔王様の復活をお待ちしよう――だが貴様らはここで始末する』

 

 ショワンウーの言葉が終わると、遺跡全体が揺れ始め、床に大きな亀裂が走る。亀裂を砕き、這い上がりながら現れたのは、巨大な機械亀。ロス達が見上げる程の大きさがあり、尻尾にあたる部分からは、機械で出来た蛇が生えていた。

 その甲羅の中心には窪みがあり、球体であるショワンウーが装着される。


『地獄の苦しみを味わいながら、息絶えるがいい!』


 ショワンウーが咆哮し、部屋全体が揺れる。ロスとスミカは左右に分かれ、各所からの攻撃を試みることした。


「せやああああ!」


 右側からスミカが飛び上がり、甲羅に拳を叩きこむ。だが傷一つ入らず、びくともしない。


「これは、さっきのカプセルと同じ素材! うわ!」


 一瞬の隙を付き、機械の蛇がスミカの体を弾き飛ばす。スミカは壁に激突するがすぐに壁を駆けだし、追撃の噛みつき攻撃を躱した。


 左側で移動しながら見ていたロスは、甲羅めがけて雷魔法を放つ。するとショワンウーの左腕が盾に変形し、魔法攻撃を打ち消してしまった。


『無駄だ! 私には物理攻撃も魔法攻撃も通用しない!』


 ショワンウーは口から光線の放ち、じりじりとロスを端に追い込んでいく。

 スミカは伸縮自在の機械蛇の動きに翻弄され、ショワンウー本体への攻撃ができずにいた。幾ら殴ろうとしても、未来が見えているかのように全て躱されてしまうのだ。だが敵もこちらに攻撃を全て当てられているわけではない。スミカを仕留められないのがその証拠だ。


(あいつはショワンウーの意志ではなく、自立した思考でこちらを追いかけて来ている。ならば――)

 

 スミカは攻撃を止め、蛇に背を向け走り出した。蛇はスミカを追いかけるようにその首を伸ばす。スミカのスピードは先ほどよりも早く、蛇を苛立たせる。だがスミカとて限界はある。このまま走り続けていれば、先に力尽きるのは目に見えていた。蛇はスミカの隙を見逃さないように追い続けることにした。

やがて、壁前でスミカが動きをぴたりと止めた。好機と言わんばかりに、蛇が大口開けかみ砕こうとするが――


「⁉」


 蛇は体を伸ばそうとしても今以上に動くことができなかった。後ろに振り向くと、首が根元から絡まってしまっていた。


「深追い禁物!」


 逆にスミカがその隙をつくように後頭部を拳で貫く。甲羅とは別の素材らしく、蛇の頭部はあっけなく砕け散った。

 だがスミカもエネルギー切れ寸前のため膝をつく。ここまで戦えたのもロス達の食料を食べていたからだろう。そのことで自分に返せるものは何もないと言ったが、ここで踏ん張ることで少しでも償いとしよう。

 スミカは悲鳴を上げる体を押しながら立ち上がる。体はオーバーヒートを起こし、エネルギーも少ない。――だがやれることはあるとスミカはロスの場所へと駆けた。

 

 ロスは光線を放つショワンウーに苦戦を強いられていた。光線の当たった場所は融解しており、くらえばひとたまりもない。魔法で反撃しても盾に阻まれてしまい、決定打にはならない。

 そこにスミカが突っ込んできた。これによりショワンウーはスミカに標的を変え、光線を放つ。光線でスミカの左手が蒸発するが。勢いは留まらず、右手の拳が盾に一撃を加える。盾にはひびが入り粉々になったが、ここでスミカも力尽き、地面に頭から落下する。

 ロスは無防備となったショワンウーに全力の風魔法をぶつけた。嵐になすすべもなく、ショワンウーの体は宙を浮き、天井を突き破りながら遺跡屋上に到達する。


「これで止めだ!」


 ロスの雷魔法がショワンウーを貫いた。


『ば……馬鹿な。魔王様……お許しを……』


 ショワンウーの身体は大爆発を起こし、砕け散った。こうして旧魔王の遺品であるショワンウーは破壊されたのだった。



「皆さん、お元気で」

「本当に行くのか?」


 遺跡近くの草原で、ロス達とスミカは向かい合っていた。

 ショワンウーが倒れ、主を追う様に遺跡が崩落を始めたのだが、ロスが魔法で全部ぶっ飛ばしたため何も問題なかった。動かなくなっていたスミカはおにぎりを強引にねじ込むと動き出した。左腕は元に戻らなかったが、スミカは気にせず笑っていた。

 別室に避難していたピカとユウも無事で、喧嘩し合ういつもどおりの関係に戻っていた。だがロスには前より近くにいることが多いように見えた。

  

「はい。今は一人でじっくり世界を見てみたいんです。それが終わったら――君たちのいる場所へ行ってもいいですか?」

「もちろんです。いつでもきなさい」

「ユウ達、スミカ待ってる」

「いつか、また会えるさ」

「はい! では最後に――」


 ちゅっ


「なんですとー⁉」

「スミカ、殺すべし」


 再会を約束し、別の道を行く。だが交わる場所は一緒だと、みんなわかっていた。


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