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魔法使いは旅に出る

 パイフーは立ったまま動かないロスに容赦なく斬撃を浴びせていく。


「覚悟無き者は脆く、壊れやすい。容易く切り裂け、容易に折れる。故に英雄が守らねばならない。だが英雄もまた、守るべきものがなければ砕けるのは一瞬‼」


 パイフーは高笑いを上げながら何度も剣を振る。翼や尻尾、鎧など、モンスターとしての身体は切り裂かれ、血が止めどなくあふれ出た。

 だがロスは倒れない。意識があるかさえわからないが、ピカを守るという執念だけで立っていた。

 

「もうやめてロス!」


 ピカが近づこうとしても風魔法で吹き飛ばされてしまう。誰も近づかせないと言う思いからか、その魔法は消えることはなかった。


(このままじゃロスが死んでしまう! この手しかない!)

 

 ピカは全ての力をロスに与えるため力を込める。

だが、それはピカの消滅を意味していた。

 みんなを守れるなら消えてしまっても惜しくはない。ロスと出会い、失敗ばかりで傲慢だった自分は変わった。

 愛する人のため、ピカの女神の力が放たれようとしていた。


「待って!」


 ピカの足を血まみれのユウが掴む。

 ボロボロの身体を限界まで動かし、息も絶え絶えの様子だった。


「ゆ、ユウその体で……」

「ピカ、ダメ。それだけは、止める」

「ですがロスが‼」

「にいに、ピカがいなくなったら、一生後悔する」


 ユウも必死だった。ロスとピカ、どちらにもいなくなってほしくない。

 だからこそ――


「困ったら、頼って! 信じて‼ 一人では、何もできない……」


 ユウはそこで意識を失ったのか、手を放す。

 ピカが確認すると息はあるが出血がひどい。


(このままでは、ロスもユウも! 誰か――)


「助けて……!」


 ピカの涙が足元に落ちる。

 するとその部分が光りはじめ、一面に広がりはじめた。


「な、な⁉」


 パイフーは突然の出来事に動きを止めた。

輝きは闇を消し去り、怪物が苦痛の声を上げながら消滅していく。王国は再び光を取り戻した。


「私の闇が消えただと⁉ 何故だ⁉」


「貴様の闇をピカ殿の輝きが上回った。ただそれだけのこと‼」


 突然の声にパイフーは剣を構える。だがそれよりも早くパイフーの胸部が切り裂かれた。


「ぐ、オオオ! これは、この力は⁉」


 パイフーは後退し、声の主を確認しようとする。だがその瞬間後頭部に衝撃が走り、吹き飛ばされた。

 パイフーが空中で体制を立て直すと、そこに二人の姿を見た。


 一人は緑の長髪を後ろで結んでいる女剣士。もう一人は茶色の帽子をかぶった橙色の短髪のトレジャーハンターだった。


「トワ! スミカ!」


 嘗て旅で出会った二人がピカ達を庇う様に突然現れたのだ。


「どうして、ここに?」

「ピカさんの声を聞いたら光に包まれて、気づけばここにいたんですよ」

「助太刀させてもらう」


 再会に涙が出そうになるのをピカはこらえる。

 今はそれどころではない、ロス達を助けなければならないと体を奮い立たせた。


「ここは私たちが食い止める。その間に皆の治療を!」

「任せなさい!」

「させるとお思いか⁉」


 パイフーが剣を掲げると、鎧の黒い横縞が生き物のように動き始め、地面に移動する。横縞は影となり、その数だけ再び怪物を出現させた。


「光ある限り闇はあり、英雄の輝きに照らされようと我が闇は不滅! さあ覚悟なされよ、落命の時は近いですぞ!」

 

 怪物たちは数に物を言わせ、トワたちに襲いかかって来た。

 そこに戦術は存在せず、ただ敵を殺すと言う本能しか感じられない。


「確かに数が多ければ有利だが――」


 トワは一匹ずつ確実に首を切り飛ばしていく。だが怪物たちは何度切られようが再生する。

 スミカが砕こうが同じことだった。

 

 だが、その隙にピカはロスのもとにたどり着くことができた。


「ロス! しっかり!」


 ロスは立ったまま動かなかった。

 すでに目から光を失い、生きているかもわからなかった。

 

「そんな……間に合わなかったの……?」


 ピカは涙を流しながら膝を折る。

 その心はロスを死なせてしまったという絶望に支配されていた。


「あきらめないで! ロスくんはまだ生きてるよ!」


 ピカの背後からマチが怪物を射抜きながら駆けつけてくる。

見てみるとメツのもとではヨウが、ユウのもとではマムシが応急的な処置をしていた。


「ロスはまだ死んでいないのですか?」

「ええ、私も魔法を使えるから僅かな力を捉えることができるの。まだロスくんからは微かだけど力を感じる。だけど悩んでいるみたいね」


 ピカはロスの言葉を思い出す。

 どうすればいいのかわからず悩んでおり、そのため魔法にいつものきれがなかったように感じた。

 ピカはロスの背中に額を当て、小さな声で言葉を紡ぎ始めた。


「私と同じようにロスも一人で悩んでいたのですね。私たちはそういうところが似ていると思います。ですから貴方の決断を私は否定しません。幾ら周りから非難されようと私は絶対に味方ですから、立ち上がってください。大好きな貴方に……また会いたいです」 


 その時ロスの身体が輝き始めた。

 鎧にひびが入っていき、砕け散る。


「あ……」


 そこに立っていたのは、ピカが初めて会った際の、ローブを身にまとった人間姿のロスだった。

 暴走していた女神の力を制御し、ロスは本来の自分を取り戻したのだ。


 ピカは感極まってロスに抱き着く。

 涙と鼻水で顔はぐじゃぐじゃだった。


「ごめん、遅くなった」

「……まったくです、死んでしまったかと……思いました」


 ロスはピカの頭を優しくなで、微笑む。そしてパイフーに顔を向けた。

 

「この輝き、貴公は英雄となったのか⁉ それでこそ我が相手に相応しい! 貴公を討ち、世界を絶望に与えてやろうぞ! それこそが魔王様の望む世界なのですから!」


 パイフーは剣を構え、自身の喜びを表現する。


「僕は助けられ、助け合いながら生きている一人の人間だ。英雄でも、勇者でもない!」


 ロスは決意した。

 守りたい人を、守り通すと。

 自分のしたいことを貫き通すと。


 ロスはピカをマチに託し、頷く。マチもそれを見て静かに頷いた。

 

「ロス、やってしまいなさい!」

「ああ!」


 ロスは風魔法で一気に加速し、パイフーに迫る。


「失望させてくれるなよ? 十字暗黒斬!」


 暗黒斬が二つ重なり、十字の斬撃となってロスに迫る。

 先ほどは相殺すらできなかった技の強化版だが、ロスは雷魔法で難なくそれを焼き尽くした。

 接近したロスは、杖から炎魔法を放ち直撃させる。パイフーはもがきながら炎をかき消し、身体を震わせた。


「やはり、覚悟を決めた者の力は違う! そうも簡単に我が剣技を切り抜けるとは!」


 暗黒斬が通じないとみると、パイフーは剣を左手に持ち直し、もう一本の剣を取り出した。

 それはロスにも見覚えのある神剣だった。


「マスターだと? 何故お前がそれを」

「先ほど影を城中に放った真の狙いこれです。厳重な警備を掻い潜らせ、強奪するのに少々手間がかかりました」


 パイフーはマスターを軽く振り、感触を確かめていた。


「さあ、共に踊りましょう。この世界と言う舞台で、我らが舞う姿を魔王様に堪能していただきます!」


 パイフーは踊るような剣技でロスを翻弄した。軽やかな動きかと思えば激しい斬撃が飛び、遅く動いたかと思えば素早く斬撃が迫る。

 成すすべなくロスは端まで追い詰められてしまった。城の頂から落ちれば命はない。


「終幕の時ですな。貴公は死に、民たちは絶望に涙を流す!」


 パイフーはすでに勝利を確信しているようだった。

 とどめを刺すべくマスターを振り上げる。


「貴公との戦いは楽しかった。あの世でも、また殺し合いましょうぞ!」

「断る!」


 ロスはすれすれで振り下ろされたマスターを回避し、そのまま球状に圧縮した風魔法を胸部に叩き込んだ。


「ぐふ! だがその程度ならば――がッ⁉」

 

 パイフーは先ほどトワに受けた傷が胸に残っていた。その傷から内側を抉るように嵐がが入っていく。


「こ、これは……! 体の内側から私を、破壊する気ですか⁉」


 パイフーは身体が大きく揺れ始め、ぐちゃぐちゃと音を立てながら血が噴き出る。

 体の中に嵐が入っている苦痛にパイフーは立つこともできなくなった。


「英雄でなければ、私は倒せない……貴公の輝きが私を上回ったか……誇るがいい! 貴公はまごうことなき英雄だ!」


 パイフーはマスターを落とし、両手を天に掲げる。


「申し訳ありません魔王様! 貴方様以外の輝きに魅入られた私をお許しください!」


 パイフーの身体は破裂し、肉片と砕けた骨が辺りに散らばる。それと同時に影の怪物も消滅した。


「やりましたねロス!」

 

 ピカが笑顔で正面から抱き着いて来る。

 この笑顔を守れてよかった。ロスは心からそう思った。


 

 パイフーとの戦いから一夜明け、王国は復興作業に入っていた。

 人間もモンスターも協力し、助け合っていた。


「本当に断るのだな?」

「はい」


 人王はため息をつき、目をつぶる。

 ロスは勇者の任命を断った。

 人間とモンスターを導く存在ではなく、すぐに手を取り合えない双方が協力し合えるように橋渡しがしたいと思ったのだ。

 そのためにピカ達との旅を再開することに決めた。

 旧魔王について調べたり、やりたいことはいっぱいあった。


「いつでも戻ってきていいからね。お姉ちゃん待ってるから」

「自分のしたいことを貫くたあ、さすがはおれっちの見込んだ男だ。がんばれよ」

「折角会えたのにい、もうお別れなんて寂しいわあ」

「何かあればいつでも駆けつけますよ!」


 マチ、マムシ、ヨウ、リカが王城前に見送りに来ていた。

 ロス達は軽く挨拶を済ますと、旅立つ。



 トワとスミカは戦いの後、すぐに光になって消えてしまった。おそらく元の場所に戻ったので、後でお礼を言いに行く事に決めた。


「それにしてもロスが人間に戻ってしまうとはのお。人間とモンスターの結婚になってしまうが、それもいいものじゃな」

「ちょっと待ってください。何故、結婚前提で話をしているのですか!? ロスは私と結婚するのです」

「それも違う、にいに、ユウの旦那様」


 ピカ、ユウ、メツはロスを巡って再び喧嘩を始めてしまった。


 だがそれは人間もモンスターも神も平等なものだった。


(僕が君たちを守って見せるよ)

 

 ロスはそう決意を固め、再び歩き出す。

 その後ろを三人が必死で付いて来ていた。


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