表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/12

女神と出会い、モンスターになる

「お前はパーティに必要ない。出ていけ」


 魔法使いであるロスは、旅先の宿で勇者からそう告げられた。

 魔王を倒すため旅に出て、もう数年たつ。決して短い付き合いではない親友にそう告げられロスは混乱した。

 まだ早朝であるので寝ぼけていると思いたかった。


「どういうこと?」

「気づいたんだ。俺のパーティに男はいらない。かわいい女の子だけでいいんだよ」


 勇者の後ろには戦士、僧侶、魔法使いが立っている。いずれも見劣りしない絶世の美女であり、頼もしい仲間だった。

 だが誰も勇者を止めようとしていない。むしろ勇者と同じようにロスを「邪魔者」のように見ていた。


「……本当に僕を追い出すのかい? 友よ」


 ロスは目をつぶり、勇者の言葉を待つ。

 冗談であってほしいと願ったが、勇者からは肯定の言葉が返ってきただけだった。

 

「わかった。今まで世話になった。ありがとう。さよなら」


 ロスは荷物を纏め、早々に宿を飛び出した。

 今の顔は誰にも見られたくなかった。



 暗い森の中にロスは一人いた。

 荷物を地面に叩き付け、勢いのまま木を殴っている。骨が折れ、血まみれになろうと感情のまま殴り続けた。


 勇者パーティに入れたことはロスの誇りだった。足を引っ張らないようにと、必死で努力しパーティに貢献していたつもりだった。 

 勇者のことは心を許せる親友だと思っており、彼のためなら命を投げ出す覚悟だった。

 だが男だからと言う理由だけで簡単に捨てられてしまった。彼からは使い捨ての駒のようにしか思われていなかったのだろう。それが悔しくて、ムカついて、腹が立って――悲しかった。


 ロスは着ていたローブで涙を拭き、血まみれになった腕に持っていた最後のポーションをかけ回復させる。

 あんな奴とはもう二度と関わりたくない。あいつのいない地でひっそりと暮らしていこうと決意し、あても何もないが勇者のいない地を目指し歩き始めた。


「誰か助けてー!」


 その時、森の奥から女性の悲鳴を聞いた。困っている人を見捨てることができない性格のロスは、悲鳴の場所へと一目散に駆け出す。


 森の奥では少女が三匹のゴブリンに襲われていた。少女を囲う様にじりじりと追い詰め、一匹のゴブリンが棍棒を振り上げる。


「ひい!」


 少女は頭を押さえ、かがみこむ。だがドサッと音がしただけで衝撃が襲ってこない。恐る恐る目を開けると黒いローブの男がゴブリンと対峙しているのが目に入った。

 ロスは間一髪間に合ったのだ。

 

 棍棒を振り上げたゴブリンは、背後から雷魔法で心臓を貫かれ即死。もう一匹のゴブリンは炎に焼かれ、炭になっていた。

 最後の一匹はロスから目を離さず、棍棒を構える。だがロスが風の魔法を唱えるとその首が宙を舞った。


「これで片付いたか、大丈夫かい?」


 ロスは少女の方に目をやる。金髪碧眼の十歳にも見たそうな少女で、白いワンピースを着ていた。

 ――何故こんな町から離れた場所に少女が?

 疑問はあるが、少女の安全を確保する方が先だ。


「遅い! 助けるならもっと早くきなさい!」


 何故か助けた少女から罵倒されるロス。本日二度目の大混乱だ。


「え、えーっと」

「言い訳無用です。まったく、この世界の人間はレベルが低いですね。私が襲われていたらすぐ助けるのなんてあたりまえでしょうが」


 ロスの頭に青筋ができる。子どもの戯言とはいえ、ムカつくものは仕方がない。少女の頭に拳骨を落とす。


「痛い! 何するんですか!?」

「口の悪い子供に対する教育だよ」

「こ……子供⁉ 私は女神です! 子供じゃありません!」


 少女は聞いてもいないのに自分のことをべらべらと話し始めた。

 曰く、自分はこことは別の世界で女神だったが、失敗を繰り返しこの世界に追放され、これからどうしようと悩んでいたころをモンスターに襲われたとのこと。

 ロスは女神に自身の境遇を重ねた。そのためか自己紹介をして、つい先ほどの出来事を話してしまった。


「ワハハハ! そんな理由で追放されるとかありえません! 素直に出て行った貴方も大馬鹿野郎です!」


 女神は腹を抱えて転げ笑った。

 こいつに同情なんてしなければよかったとロスは立ち去ろうとする。


「お待ちなさい。何だかんだ貴方には助けられたので、この女神ピカ様が恩恵を与えましょう。貴方には過ぎた力ですが、最強の女神パワーをほんの少し分けてあげます」


 いらないと即答するがピカは無視して、ロスに力を与え始める。

ロスの身体が光に包まれ急速に力が集まってきた。


「ふっふっふ。これで貴方も――あれ? おかしいですね。力が集まり過ぎています。まさか!」


 次の瞬間ロスの体が大爆発を起こし、爆風でピカの体が吹き飛ぶ。

 立ちこめていた煙が晴れると、変わり果てたロスの姿があった。


 顔は悪魔のように変化し、頭からは二本の角が生えている。体は漆黒の鎧に包まれており、背部からは翼と尻尾を覗かせていた。 

 

「ど……どうなっているの?」

「女神の力を入れすぎた結果、貴方の身体がモンスターに変化しちゃいました――すまんね」

「ふざけんな! 元に戻せ!」

「一度与えた恩恵を取り消すことはできません。力の代償に犠牲は付きものでーす」

「クソッ! 僕はこれからどうやって生きて行けばいいんだよ!?」


 ロスが地団太を踏むだけで森が揺れ、鳥たちが飛び立つ。


 その光景を見て、本当にモンスターになってしまったとロスは悲観した。

 モンスターは人間の敵だ。襲われることは目に見えている。

 

「もう隠居するしかない。ひっそりと暮らしながら元に戻る方法を探そう」


 きっと何か方法があるはずだとロスは自分を奮い立たせ、ふらふらとした足取りでこの場を去ろうとする。

 すると背中に何かが捕まった感触があった。見てみるとピカが背中にしがみついている。


「安心しなさい! このピカ様が元に戻れるまで付いて行ってあげます!」

「いや、付いてくんな」

「照れないでください」


 怒鳴り散らそうとしてロスはふと気づいた。言動とは裏腹に、彼女の瞳が申し訳なさと不安を覗かせていたのだ。

 背中を握る手にも力が入っている。付いて来ようとするのも、彼女なりに責任を感じているのと一人になりたくないという思いからだろうか。

 子供が虚勢を張っているだけだと思えば、怒鳴るのも馬鹿らしくなった。

 

「はあ、好きにしろ。どうなっても僕は知らない」

「わかりました! では誰も知らない地を目指してレッツゴーです!」

  

 ピカは笑い、ロスもそれに釣られて微かに笑ってしまった。

 ロスはピカを背負い、空に飛び立つ。そして飛び方がわからず墜落した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ