【彼女】は今何処に?
―――私が複数の化学物質を複雑に組み合わせて出来た生命体に過ぎないのなら、私の本質は元素にあるのだろうか?それとも、私を構築するこの体にあるのだろうか?或いは、もっと高次元的な何かなのだろうか―――
先人が築いた過去の遺物
朽ち果てさせるのは忍びない
その想いは人々を動かし
【船】の修理は行われた
永き時を身に刻み
歴史を見続けた【彼女】は
劣化と修復のいたちごっこに
己を委ねる事となる
パーツはいずれ朽ち果てる
最初は一部、やがて全部
壊れた部分をひたすら修理
当初のパーツは全て破棄され
【彼女】の体は一新された
数多の細胞が生まれ
数多の細胞が死に逝く
熱力学的崩壊の
逃れられ得ぬ新陳代謝
生まれたその瞬間から
死に逝く魂の容れ物
劣化と修復のいたちごっこに
疲れた体はいつか死ぬ
細胞はいずれ朽ち果てる
最初は一部、やがて全部
壊れた部分をひたすら修理
体の部品は全て入れ替わり
【君】の体は一新された
物体の本質とは何なのだろう?
2000年以上前に作られた【船】と
今展示されている【彼女】は同一なのか?
まだ言葉も覚えていなかった昔の【君】と
小難しい法則や言語を操る【君】は
どちらも等しく【君】なのだろうか?
出生時の細胞は残っておらず
考え方や価値観も移ろいで
齢を重ねる毎に姿も変化する
もしそれでも【君】は【君】のままなら
【君】は一体何処にいるのだろう?
それは『魂』と言う、曖昧模糊なものか?
それは『記憶』と言う、純生理学的なものか?
それは『名前』と言う、後付的な付加価値なのか?
それとも、『君の歩んできた人生』が【君】そのものなのか?
昔の【彼女】は今何処にいるのだろうか?
今の君の礎である【君】は一体何なのだろうか?