(名無し)、4歳、♀ / マドレーヌ、3歳、♀
―――『A』と『B』という二つの存在があると仮定しよう。一方は『畜生』として生き、もう一方は『人間』として生きた。さて、何が畜生を『畜生』たらしめるのだろうか?何が人間を『人間』たらしめるのだろうか?―――
『A』は単なる受精の産物。
母は痩せこけ、乳は無し
哀れな一家に父は無し
兄弟ひもじく、泣き喚き
空腹に負けて、死んでいく
『B』は祝福されし子で
『母』は優しく、愛多し
『父』は事業家、金多し
『一人娘』は贅沢で
腹の皮張りゃ目の皮緩む
幼い筈のその体
宛ら翁のみてくれで
浮き彫りになった肋骨は
小さき体の大きな悲鳴
幼いながらもその体
貫禄のある肥えようで
丸みを帯びた腹回り
豊かな生活の賜物か
親の力などあてにならず
生きるためならゴミ漁り
それで駄目なら泣き寝入り
しかしそれすら天は許さず
容赦無き雨は無慈悲に襲う
地獄に等しき猛暑の熱さ
拷問に等しき真冬の寒さ
いつしか『A』の体から
命の輝きが消えていた
『親』の寵愛受けながら
生きる事に何苦労せず
好きな時に惰眠を貪る
「神に祝福された」と人はいい
慈愛の雨をその身に受けた
冷房あれば夏涼し
暖房あれば冬温し
常に『B』の体からは
生きる喜びが溢れていた
名も無き『A』のその墓は
更地の一角の、そのまた一角
草木も生えぬその場所に
哀れな『子供』がまた一人
幸せ知らずに死んでいく
『マドレーヌ』と書かれた石碑
そこに捧ぐは、無数の花束
そして首輪が、ぽつんと一つ
幸せに生きた『犬』の死に
今日も誰かが悼み哀しむ