第2話『初めが肝心』
「おかしいだろォォォォォ!?」
GAME OVERという文字が脳裏に浮かんだと思えば次にはこの世界の自宅のベッドで目が覚めた
と共に先程遭った理不尽な結末に思わず全力の突っ込みを入れつつ飛び起きた
「え、何いきなり。神ちょっとビビった」
神はと言うと「I'm God」とデカデカ書かれたシャツを着てベッドの近くの椅子にだらけるようにもたれかけスマホを弄っていた
世界観に合わせる気が微塵も無いってある意味凄いね。
「おかしいだろ!?普通スタート地点のすぐってスライムとかそういう弱いモンスターから来て段々強くなってくもんだろ!?」
「何言ってるのお前。敵がお前のレベルに合わせた奴しか来ないとか流石にいくらなんでもご都合展開にも程があるだろ?ちょっとは現実見よ?」
「うんそうだね!でも初手からラスボス最終形態はやりすぎじゃないかな!?」
「……いいか、ヨシヒロ?お前はまだ若い。きっとまだまだわからない事の方が多いだろう、時には傷付く事もあるだろう。しかしな、人間の強さというのは倒れる度に立ち上がり何度でも立ち向かってやがて困難を乗り越」
「パワーバランスなんとかしろっつってんだろ。一撃で即死する戦力差だぞ、序盤から」
何やら偉そうな御託を真顔で語り無理矢理片付けようとする神を言葉を遮るように要点を述べる
「チッめんどくせー。わーったよ、スライム出しゃあいいんだろスライム出しゃあ。ったくよー、すーぐチート使いたがるんだから最近のやつは」
露骨に嫌そうな態度で何やら空中でキーボードを叩くような動作を始める神
端的に言えばプログラムの書き換えのような事でもしているのだろう。ツクール感覚か。
そこまで出来るんならいっそそれで魔王消せばいいのでは、とか思ったが流石に野暮だろうか
というかなんで俺がゴネて自分の都合のいいように改変させたみたいな言い分になってるんだ、納得いかない
「ほい、出来たぞ」
などと考えてる内にタンッと音はしないもののエンターキーを叩くような動作の後に神が告げる
思ったより早かったな
「あとお詫びと言ってはなんだが特別にお前に特殊な能力を与えておいた。今度こそ頑張ってくれ」
マジか、いわゆる異世界転生チート俺TUEEEEEEってやつか?
初戦から魔王第3形態はやりすぎって言っただけでそこまで求めてはいなかったのだが……
「ちなみにどんな能力?」
「えっとね、例えばさ、朝起きるじゃん?」
「ああ」
「カーテン開けなきゃ、でもくっそ寒いし布団から出たくなーいって時、あるじゃない?」
「あるね。それが?」
「そんな時に重宝するのがこの能力!"カーテンを手使わなくてもシャーッて全開に出来る能力"!!」
「ほーほー成る程?そりゃ便利だなー」
「って要るかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
1拍置いて神をジャーマンスープレックス
パリーンと豪快に窓をぶち破って神が外へ飛んでいくがこの際そんな事はどうでもいい
「もうちょっとマシな能力無かったの!?なんだよカーテンシャーッて全開に出来る能力って!!!カーテンくらい自分で開けるわ!!!戦闘の何の役に立つんだよカーテンシャーッて開ける能力!!」
「んー?わかんないっ☆」
先程投げ飛ばした神がガラスを払いながら割れた窓を更に蹴破り窓だった四角い穴から入って媚を売るような表情でしれっと答える
お前みたいなのがやっても可愛くねーんだよ腹立つ。というか割れてるからって人の家の窓蹴破るな。
「まあ多分戦闘にはクソの役にも立たないと思うけど案外どっかで使うかも知れんし貰っとけ。キャンセルきかないし」
しかもこのクソみたいな能力返品出来ねーのかよなんてこった
「とりあえずー、さっきのでスライムが魔王第3形態の代わりに出るようになったし行ってみ?」
という事で再びノドカの街からすぐの平原へ脚を運ぶ
武器は相変わらず武器屋が仕事しない仕様なのでその辺で拾った木の棒を手に持っている。村人のジョロキア対応も修正してもらうべきだった
まあスライム程度なら木の棒でもいけるかな……
そう思った矢先、近くの草むらがガサリと音を立て何かが躍り出る
さあ戦闘開始だ!!
「…………」
[スライムが現れた]
おお、ちゃんとスライムだ
某竜捜しの冒険ではごく当たり前だがここまでが散々だったのもありようやく施された普通の対応にちょっとした謎の感動さえある
ともかくまずは一手!
[ヨシヒロの攻撃!]
[スライムに0のダメージ!]
「……はい?」
いくらその辺の木の棒とはいえ武器として振るう以上ダメージはある筈
そう思い手に持っている棒を見る
短い。明らかに短い。
勿論それなりに太く長い棒を持ってきた筈だし折れた訳でもなく短い。
というかスライムに触れた箇所から液状になってる
「嘘っ……溶けてる!?」
思わずこの手の話のサービスシーンでよくある服を溶かされ始めた事に気付いたヒロインみたいなセリフを口走ってしまったが事態は至って深刻だ
[スライムの攻撃!]
[スライムはのしかかった]
ジュウッ
「ぐわ熱っ!?」
少し触れただけで木の棒が一瞬にして溶け落ちる溶液で構成されているスライムが覆い被さるようにのしかかったのだ
当然ただでは済まない
高熱の鉄板を押し付けられたような痛みの後、傷口を針でつつかれたような痛みが全身を襲う
察する通りヨシヒロも木の棒と同じように溶かされているのだ
筋肉まで溶けたのだろう、ピクリとも動けなくなった事を自覚すると共に混濁していた意識は闇の中へ消えていった……
GAME OVER