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吸血鬼の館に居候  作者: つらみあるつらら
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プロローグ 

初めて投稿します。至らない点や筆の遅さなど多々ありますが、時折思い出したように読んでいただけると幸いです。

周囲をうっそうとした森に囲まれた大きな洋館、その館の前に腕組みをした少女が一人、その周りに従者らしき一組の男女、そしてその前に私はいた。


「お願いします!ここで働かせてください!」


額を地面にこすり付けて私は懇願していた。こうなった経緯は遡ること一週間前のことである。


ーーーーーーーーーー


「吸血鬼に弟子入りする?」

「ああ、ここまで健康的に暮らしてきた。血は綺麗な自信があるし何より水や日の光を防ぐ土魔法をここまで磨いてきたんだ。絶対にいける」

「それは弟子入りではなく従属じゃないのか? 眷属というか」

「どっちでもいいんだ」

「お前……吸血鬼の気難しさを分かったうえで行くつもりか?」


私の相手をしているのはハリード、魔法学校で同じクラスで卒業まで助け合ってきた仲間だ。彼は魔法学校にも関わらず魔法だけでのし上がったのではない。もとより剣や槍を使って生きてきた戦士だった。だが彼のパーティはある一つの敵に惨敗し彼を残して壊滅した。その相手とはヒュージスライム、巨大なスライムだった。不意打ちで魔法使いを失った彼のパーティは成すすべなく敗走し、幸運にも、いや運悪く彼だけが生き残ってしまった。ここで大体はその経験がトラウマとなり冒険者を廃業して普通の職に就くものが多い。しかし彼はならば戦えるようにすればよいと、魔法学校へと学びに来た。すごい精神力である。目の前で味方が消化されるところをみているはずなのに。


「一度だけ吸血鬼を遠目で見たがこっちを見られただけで震えが止まらなかった。武者震いなんて格好のいいもんじゃないぞ? 正真正銘捕食される側の恐怖で身がすくみ上ったんだ」

彼は三十一歳、私が二十五歳なので歳の差は六だが私が学業だけでここまで来たのに対して彼は入学するまでの二十五年間、いや戦えるようになったのは八歳からと言っていたから十七年間、戦って生きてきたというのだ。


「一瞬で距離を詰められて目の前でなんて言ったと思う?『おまえはまずそうだし今は満腹だ。見逃してやろう、だがその娘は置いていけ』とな、その時の護衛対象だった娘を差し出さなきゃいけなかったぐらいだ」

「は? 護衛対象だったら渡したらだめなんじゃないのか?」

「人間目の前の恐怖には首を縦に振るしかないんだよ。事実その娘もすでに【魅了】にかかってたみたいだしな。しなだれかかるようにして吸血鬼に連れさられていったよ」

「うらやましい」

「意味わからん」

両手を肩の高さまで上げやれやれといった様子のハリード。私からすれば相手から攫ってくれるのだからいくらでもチャンスはあるだろうと思う、食われたらそこまでではあるけど。

「とにかく行動だ行動、話はそれからだよ」

「その行動力を魔術に生かせばもっと上にいけるんじゃないのか?」

「魔術を極めるぐらいになれば確かに色々と融通は利くけど上に使い捨てられるのが目に見えてるよ。冒険者なんてそんな風にしか見られていない」


冒険者と言えば恰好はつくがその実は根無し草と変わりない。ギルドに所属すればある程度は保障されるがよほど優秀か狡猾でなければ使い潰しの働き蟻と変わりないだろう。危険と隣り合わせ故に死ぬも生きるも自己責任であり、国が補償するわけでもない。

「もう止めはせんよ、言っても無駄だろうしな」

「よくわかってるじゃないか」

「達者でな」

「あっさりだな」

「なんだ、湿っぽいのが好みか?」

「まさか」

「上手くやれよ」

「言われずもがな」


ーーーーーーーー


「ふむ……人間にしては魔力量は高いですね……血を絞り出せば多少は有益でしょう」

「この人間の血をお嬢様に飲ませるとでも? 冗談、お嬢様の初吸血は処女がふさわしいわ、控えなさいジェス」

「お嬢様にならまだしもお前に指図される筋合いはない。アルテナ」


目の前で執事服とメイド服の吸血鬼が何やら言い争っているような声が聞こえるがなにせ見えないので状況が分からない。


「人間」


三人目の声が聞こえて二人の争いの声が止んだ。そして私にその目線が降り注いでいるのがわかる。


「私の声が聞こえるか? 発言を許す、頭を上げろ」

「はっ」

「ここで働きたいといったな、何が目的だ」


淡々と、それでいて冷たく突き刺さるような少女の高い声が耳元に残る。


「私の目的のため」

「ほう? 聞かせよ」


失言でもすればそのまま殺されるだろう。でもここでごまかしてもいずれぼろがでる。ならそのまま言うしかない。


「魔術の高みを目指すため」

「魔術……?ああ、魔法の真似事か、そんなものを高めて何になる。それにここである必要もないだろう」

腕組みを解かずに少女がこちらへと疑問を投げかける。


「魔術のためではなく、私のため」

「ふむ」

「魔術の域を超え、魔法ですら届かなかった領域に、私はたどり着きたい。そのためには人の社会では到底達成できない」

「そのために私たちを利用すると? 働かせてくださいと言った割には随分と傲慢な理由だな」

メイド服の女性から殺気がにじみ出るのを感じる。その女性を首の仕草で少女は止めたようだった。


「あなた方を利用すると言えば利用するのでしょう。しかし私はあなた方人の理を外れた者から自ら鍛錬して磨き上げたい。しかしそれには一人では限りなく難しく、到底達成しうるとは思っていない」

「つまりは、お前の目的のために住処を貸せ、その代わりできることはなんでもやるといったところか?」

今度は執事服の男性が値踏みをするような目でこちらを見透かす。冷たくもこちらの内側までも見られているかのような寒気のするような感覚が体中に立ち込める。


「試用期間だな……」

「は?」

「お嬢様まさか」


腕組みを解き、指を鳴らすと黒いローブを纏った人物が一陣の風を巻き上げて少女の後ろに立っていた。


「ジオ」

「はっ」


ジオと呼ばれたローブの人物の声は高い。どうも女性のような気がする


「物置部屋を空けておけ、空部屋にしたあとでこの男を住まわせてもいい」

「! では」

「まずは試用期間だ。私の役に立つか見極める。それまでは屋敷の離れの小屋で過ごすがいい。ジオ、案内してやれ」


こうしてなんとか居候?にこぎつけることができた。この先どうなるかはこれからだろう。表情は変えずとも私のその心は躍動していた。


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