自分との戦い?
な、何だ、今の叫び声!? そんな魔物ここら辺にいたか!? もしや前みたいに空から―――ん? ちょっと待て、今の叫び声、何か聞き覚えなかったか……? 何だっけなー…………あ! 僕じゃん!
ってことは、マンド――あ、そっか! そういや2つに分断されてたんだった! 今の今まですっかり頭から抜け落ちてたわ……。
で、そうなると気になるのは、そいつが友好的かどうかなんだよなあ。友好的だと思って近付いたら落とし穴とかつくられてボッシュート、なんてことは避けたいからな。叫び声からして敵対する可能性のが高いけど……まあ、少しでも可能性があるならそれを確かめたほうがいいよな。さっきの叫び声は僕を呼ぶためだっていう可能性もあるし。
……実のところその叫び聞いたおかげで地味に体しびれてんだけどね。どう考えても麻痺付加ですわ。だめだこりゃ。
まっ、考えてても仕方ないし、あっちに向かうか。
えっと、聞こえたのはここら辺か? 向かってる時もちょくちょく叫び声が聞こえたから、わかりやすかったわ。でも、その中で「麻痺耐性」と「即死耐性」を獲得したとかどうとか言ってたから、叫び声がわかりやすいだけで済んでマジで良かったけど。
で、あいつは…………おお、いたいた。気付かれたら何されるかわかんないし、遠目に観察しとこう。あ、でも、それだと確かめられんな……
うーん……この際思い切って正面切って行こうか……いや、正面からじゃなくて背後からでいいや。
でもって、多分あいつは僕と同じスキルしか持ってないと思うんだよねー。まああくまで予想だけど。だって、同じ体から分裂した僕よりスキルが充実してたらおかしいし。新しく手に入れてたとしても、この短時間じゃ多くても1つか2つだろ。
ってことで、いっきまーす!
――こちら、コードネーム・マンドラ。只今対象の背後に接近中、作戦名βを遂行する。指令どうぞ。
……
…………応答無し。
でしょうね。というかあったら逆に困る。というより怖い。
いや、こういう隠密行動的なのはやる機会なんてそんな無いしね。一度はこういうのやってみたくなるんだよ。
【スキル:気配遮断のレベルが2から3に上昇しました】
おお、久々だなこのスキル。思わぬ収穫だ。おふざけの途中でスキルが手に入るなんて、ありがたやー。
まあ、茶番は置いといて。
さて、こっからどうやって接触するか。ちょっと声かけてみる? …うん、そうするか。じゃ、もしもの時のために、ちょっと準備するか……
よし……「エ゛い、ヴー!」
……「ヘイ、ユー」って言おうとしたつもりなんだけど、まあやっぱそうなるわな。
いや、それはどうでもいい。あちらさんの反応――
「ギャあア゛アああア゛あア゛あ゛ああアあ゛ッ!!!!」
うわぉっ! まあそうなりますよねー! 知ってた。
【スキル:即死耐性のレベルが2から3に上昇しました】
あ、これ即死攻撃だったんだ? 危なかったー。まあ今までも大丈夫だったし心配はあんましてなかったんだけど。
でも、これでわかったことがあるな。
即死は格上、同格相手には効果は薄い。まああいつが僕より強くないっていう仮定の上でだけど。
あいつはおそらくあまり知性がない。あればこっちに不意討ちかけるなりしただろ、そっちのが確実だし。
でもって――まあ、これはもうほとんど確実だったけど――あいつは敵だ。自分と同じ姿のやつを殺すってのも気が引けるが……仕方ないわな。やるか。
まず、あちらさんがどんな攻撃してくるかを把握しよう。麻痺と即死、あと何かあるか?
「ガあア゛アあああ゛あ゛アあア゛アあ゛ああ゛アアっ!!」
うお、また叫んでくるか。体全体が正座ずっとした後みたいに痺れてるから、これは麻痺か。即死は効かない、ってことくらいは学習したみたいだな。
まあ、麻痺もそんなに効くわけじゃないんだけどね! 『貫け』ぇ!!
「あガッ!?」サッ!
ズオッ!
なっ、避けた!? 反応速度速っ!? 知性あんまないくせに、やるなこいつ……。意外と手強そうだ。
で、こいつには何か決め手になるスキルがあるのか、それが問題だよな。
こいつのスキルは僕のコピーなのか、それともマンドラゴラの基本スキルだけがあるのか……それで随分違ってくる。
まあ、あったとしてもやられないに越したことはないだろ。だから……先に斬る!
ダッシュで接近すると、下半身のやつは……どうする?
「あ゛ア!?『ヴあがア』ッ!」
やっぱりか、あいつ魔法使ってきやがった! ……だが。
「――!?『ヴあがア』!『がアア゛』ッ!! ……!?」
……よし、計画通りだ! こっちに影響は来ない! 下半身のやつ、何が起こったんかわからず戸惑ってやがる!
――もう鎌のリーチ内! そうやって魔法にだけ頼ってるんじゃ隙だらけだ、アホウ!
今更我に返ったか……でも避けようとしてももう遅い!
斜め上から……ぶった斬るッ!
「だリャア゛アああ゛アああ゛ああアあッ!!」
ズバァッ!
「ガふッ……あア゛……がッ……」
息の根は止められなかったか……でも傷は深い、一気に決めるが吉だ!
覚悟しろよ、元下半身! 輪切りにしてやらあ!
その時。
「ぐ……オオ゛オ゛おおオっ!! 『ヴあがア』あアアああ!!」
――!? そうだった、まずい、ここは――
その瞬間僕は、横跳びに避けた、が……
グサッ
「グあっ……アあ゛あア゛ア!!」
ぐああああっ!! 畜生、やられたッ……最後の最後で油断しやがって、僕のアホ……カマキリの一件で学習しなかったのかよ……!?
左脚と左脇腹のあたりがやられた……これじゃ立てねえ……
……だが、あいつもこれが最後の悪あがきのはず……今のうちに、やってやる……!
さっきお前ができなかった魔法、お返しだ……!!
傷付いた体に鞭打って、僕は魔法を唱えた――
「ぎッ……『貫け』えッ!!」
ズブリッ――
【50の経験値を獲得しました】
【個体:マンドラゴラのレベルが6から8に上昇しました】
【実績:映し身殺しを獲得しました。それにより、**が1段階上昇しました】
【実績:同族殺しを獲得しました。それにより、スキル:同族特攻を獲得しました】
――もう何時間か経ったかな? いやー、自己再生って凄いな、もう半分くらいは治ってきてるわ。
……勝っても爽快感無いな……何でだ? ……やっぱり最後油断してやられたから?
それにしても何であそこで油断するかなー、マジで。あの時も思ったけど、学習能力無いんかよ僕は……
……まあ、それはこの先に生かすしかないわな。
それにしても、安全策が功を奏したな。
あの時あいつが魔法を使えなかった理由――それは、戦う前に地面の一部を魔法で押し固めておいたから。
柔らかい土じゃないと、地魔法は使いにくい。効果が及ぶ一部――表面とか――だけが固くても、だ。
だから、戦う範囲をあらかじめ予想して、その地面を僕が魔法を使えないくらいに固めておいた。僕とあいつが使える魔法は同じくらいだと思うからな。そのせいで魔力がスッカラカンになったし、広くは固められなかったけど。
でも、あの時の僕はその範囲を忘れて不用意にあっちに行ったから、最後の最後であんなヘマやった。全く、何やってんだか……。
……まあ、後悔したって何が変わるわけでもないわな。
あ、最後に僕が魔法撃てたのもその範囲外だったからだ。固めるのに使いきってた魔力も、あの時には重傷の相手くらいは倒せるくらいにはなってたから、本当ラッキーだったと思うわ。
で、レベル上がったな。なんか嫌な実績と…………何とかが上昇とかいう謎なアナウンス。今までは実績は取って困るもんじゃないと思ってたけど、認識を改める必要があるかもな……。
何か、異世界転生モノの小説だと、こういう謎ステータスのせいで色々と世界の命運やら何やらに関わってくることが良くあるけど……嫌だぞ? 第三者の立場で見てる分には憧れるけど、いざ自分がとなると嫌なもんだな……。折角二回目の人生送れるんだし、のんびり過ごしたいんだよ僕は。
まあでも、今は回復を待つか。自己再生があるっつっても、まだ全快したわけじゃないからな。これの確認やら何やらはそれからだ。
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名前:無し 種族:マンドラゴラ 系統:植物系
Lv.8 体力:34/58 魔力:68/107
攻撃:69 魔攻:79
守備:39 魔守:91
速度:39 養分:521
状態:通常 +1
スキル:算術Lv3 混乱付加Lv13 集中Lv6 感知Lv7 瞑想Lv2 混乱耐性Lv4
魔力操作Lv6 気配遮断Lv3 光合成Lv8 工作Lv1 罠隠蔽Lv1 勇気Lv4
痛覚軽減Lv8 身体操作Lv6 乱撃Lv7 麻痺付加Lv4 絶叫Lv2 即死Lv4
地属性魔法Lv7 風属性魔法Lv4 自己再生Lv4 斬撃Lv1 麻痺耐性Lv3
即死耐性Lv3 同族特攻Lv1
実績:数学者 物忘れ 孤独 間抜け 魔導師見習い 変質者 不動 栄養豊富 発明家
三日坊主 罠師 柔能制剛 奇跡 一騎当千 魔導師 哲学者 黄泉還り 戦士
自傷 映し身殺し 同族殺し
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ちなみに、元下半身が唱えてたのは
『ヴあがア』→主人公がよく使う『貫け』と同じようなもの 『がアア゛』→落とし穴
ですね。だからどうしたって感じのことですが。




