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プレ・ドライブ 異星船捕獲作戦  作者: 凍龍
第二部 高重力下の死闘
22/63

第二十一話 アクシデント

プレ・ドライブ第二シリーズの第一話になります。

お楽しみ下さい。

感想もお待ちしております。


 太陽系第五惑星、木星。大赤斑の直上。

 向かい合った二隻の巨大なサルベージ船が不規則にスラスターをひらめかせ、今、まさにドッキングを果たそうとしていた。

 まるで双子の兄弟のようにそっくりな二隻の外観は、長さが二百メートルにも及ぶ金属はしごをコの字型に組み合わせた巨大な構造体という表現がもっともそれらしい。

 船体の屈曲部と先端には巨大な四基のエンジンノズルがほとんどむき出しのまま木星方向に突き出され、トラスキールには各部のスラスターや燃料タンク、複雑なパイピングまでもがほとんどむき出しのまま無骨に配置されている。

 そこにあるのは徹底した実用本位の設計思想だけであり、美意識はそのかけらすらもない。

 だが、一方でその潔いまでの無骨さは、夕闇に浮かぶ重化学コンビナートのような重厚な機能美を見る者に感じさせる。

 放射線防除カバーリングが施されているのは巨大な船に不釣り合いにちょこんと設けられた小さなコクピット部分のみで、コンテナヤードに林立する巨大クレーンの操作室のような印象さえ受ける。

 巨大なガス惑星を背景にして浮かぶ異形の二隻は、コの字の開口部を向かい合わせるようにじりじりと接近し、まるで熱帯魚を思わせる、流れるような外観の巨大異星船をその内懐に囲い込もうとしていた。

『ドッキング十秒前、五、四、三…結合、アルファ確認!』

『サルベージ・ベータ、こちらも確認!』

 二隻のコクピットからそれぞれ発せられた報告は、はるか上方で状況を確認していた母船に即座に伝えられる。

『ほーい、金魚すくい一丁上がり』

 母船から見て右舷にあたるサルベージ船ベータからは、若い男性オペレーターの軽口が弾むように母船ブリッジに響く。

『ほらみろ、あんな社会不適合の亜人類(ミュータント)共に頼らなくても確保できたじゃないか』

「サルベージ・ベータ、おまえ、口が悪すぎるぞ」

 だが、そう返す作業主任の声にも先ほどまでの緊張はない。

『その通りだろ、ドロップアウトした変人設計士に冷血コンピュータ少女。どっちもまともな人間じゃねえ』

「…会社の説明(プロパガンダ)をそのまま信じない方がいいと思う。仮にそれが事実だとして、どちらもスペースノイドとしては貴重なスキルじゃないか。むしろちょっとうらやましいぞ」

『そうかあ、あんな奴らに憧れるおまえも少し変なんじゃねえの? まあ、俺は敵が強いほど燃えるからいいんだけど』

「敵って言うか。しかし、あの二人、今ごろどうしてるんだろうな?」

『さあな。太陽圏で俺達(ヤトゥーガ)に逆らってまっとうに暮らせるはずなんかない。どっかで細々とやってるんだろ?』

「まあいい、それよりそろそろ仕上げだ、ワイヤーの巻き上げを開始するぞ」

『お、じゃあ俺は黙るわ。後はよろしく!』

 すでにすべての担当業務を終え、弛緩しきったベータからの声はそれきり途絶える。

 一方、ドッキング後の統合オペレーションも担当するサルベージ・アルファの声はもう少し緊張していた。

『オートテンショナー作動。リフトアップ作業開始』

 硬い声と共に、コの字型のフレームに縦横に張られた何本もの引き上げワイヤーがゆっくりと巻き上げられていく。異星船をすくい上げるように次第に張り詰めていく特殊金属の極太ワイヤーが太陽の光を受けて鈍く輝く。

『巻き上げ完了。テンションフル!』

「よーし、メインエンジン噴射開始。一気に持ち上げろ!」

 だが、余裕があったのはそこまでだった。

『なんだこいつ! 猛烈に重い! 事前の測定結果と違う』

 アルファからの報告には焦りの色が滲んでいる。

「どうした!」

『やばいぞ!まったく、ピクリとも動こうともしない!』

 すでにサルベージ・アルファ、ベータ共に、すべてのリフトアップ用エンジンが全力噴射の状態だった。

『ほら、駄々こねてないで上がってこい!』

 その瞬間、異星船の重心が突然変動し、船首側とおぼしき部分がぐっと沈み込んだ。

『あ、バカ! 出力が追いつかない!』

 船首側を担当するサルベージ・アルファから悲鳴が上がる。異常なテンションを感知したワイヤーテンショナーはロッククラッチを開放し、戒めを解かれた異星船の船首がさらに勢いよく沈み込む。

『やばい! 沈む!』

「ワイヤー切り離し!船体を立て直せ!」

 指示は間に合わなかった。

 異常な張力に負けたサルベージ・アルファは、大赤斑に吸い込まれるように沈む異星船に引きずられ、まるで木星の表面に直立するように大きく姿勢を崩した。ドッキング部分が折り取られるように引きちぎられ、あおりを食ってサルベージ・ベータもまた弾かれるように姿勢を崩す。

『駄目だ! ワイヤースプールが外れない! 巻き込まれる!』

「緊急脱出! 二人とも船を捨てろ!」

 作業主任の悲鳴じみた叫び声が響く。

 だが、異星船と共に大赤斑に姿を消したサルベージ船から、返事はついに帰らなかった。


---To be continued---

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