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終わりゆく世界に花は咲く  作者: 霜月 式
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「で、どういうことなんだ?勇者」

 魔王の問いに勇者は無表情に答える。

「魔王、あなたは僕の能力を知っているかい?」

「?」

 疑問符を浮かべる魔王に変わって神が答える。

「“現身”ですね。一対象の保有する力をコピーし、自分も同じだけ保有出来るという。ですがその能力では…」

その能力では、世界を消滅など出来はしない。理由は簡単だ、この世界において最も大きな力を持っているのは神であり、しかし神でさえ、この世界を破壊など出来はしない。

「出来るよ。僕の能力があれば」

 シランの言葉に神が眉を顰め、再びシランの能力について思考する。

(勇者の能力とは、自らが認識した一対象の力のコピー、だがそれではこの世界を完全には破壊できない。この世界にそれほど巨大で、高度な力の結晶なのだ。)

 しかし、神はそこで違和を感じる。

「まさか、貴方は」

 神のその言葉に、シランは静かに笑みを作る。

「どういうことだ?」

 一人ついていけない魔王が促すように訊ねる。

「あるのです。この世界において私をも上回り、この世界を破壊するに力を持つ存在が」

「?」

 まだ疑問符を浮かべる魔王に神は言う。

「『目には目を歯には歯を』」

「!なるほど、じゃあこの力の元は」

 その言葉を持っていたかのようにシランが続ける。

「そう、僕がコピーしている力の源はこの世界そのものだ」

「だけど、おかしくねぇか?そんな力なら俺が押さえつけたりなんて出来るはずねぇぞ」

「そうだね。実は僕の能力は、一瞬で相手の力をコピー出来るわけじゃないんだ。相手の力は徐々に僕の中に溜まっていくって感じなんだ。とはいっても、大概の相手は一瞬と相違ない時間でコピーできるんだけど、流石にあなた達、神や魔王ともなるとコピーし切るには多少時間はかかるしそれが世界ともなればね」

「なるほど、それで魔王の顔色がどんどん険しくなっているのですか」

 気付いてんなら手伝えよ!! という魔王の抗議に 仕方ないですねと答え、神もまた力を抑えることに加わりながら、疑問を口にする。

「ですが、この世界の力を留めるなど不可能でしょう」

「まぁね、正直どれだけ頑張っても一瞬、それもこの世界の力の半分抑えられるかどうか………ガハッッ」

あたかもその言葉を裏付けるようにシランの口ら大量の血を吐いた。

「おいおい、大丈夫かよ」

 魔王が巫山戯たように言う。だが、シランは、

「丁度いい…」

 そう言った。

「僕では、確かに世界の半分が限界だ。でもアイリスと二人なら…」

 そう言うと彼は、口元から零れる血を気にもせずアイリスと……唇を重ねた。

 いや、むしろ彼は自身の血をアイリスの口の中に送っているように見える。

「まさか!」

 神がその瞳に驚嘆の色を浮かべる。

「?あいつ何をしたんだ?」

 驚く神を訝し気に魔王が訊く。

 だが、神は魔王の方を見ることもなく、シランの方を向いたままに言う。

「まさか、貴方は彼女の死体を依代としたのですか?」

「そうだよ」アイリスから唇を離したシランが言う。

「依代?どういうことだ?」

 その質問に答えたのはシランだった。

「簡単な事だよ。僕一人では、世界の半分にしか耐えられない。なら、僕と同じくらい耐えられる者がもう一人いればいい。アイリスはあなた達神や魔王にも、届き得る程の力を保有していたからね。僕と同じくらいは耐えられる筈だよ。とはいっても数十秒くらいしか保たないだろうけど」

 まぁ、十分世界を破壊しきれるだろうけどね。と、そう付け加える。

「俺らが、それを許すとでも思ってんのか!?」

 その瞬間、魔王と神から殺気と共に膨大な力を放った。だが、それを受けてシランは、微笑んだ。

「何が可笑しい?」

 殺気を放つままに、魔王が訊く。

「いや、まさか神と魔王が一時的にとはいえ協力する日が来るとはね。この瞬間をアイリスにも見してあげたかった。あの子は本当に優しい子だったから、きっと喜んだ」

(何を言っているんだこいつは、)

 魔王はそう疑問した。神も少なからずそう思ったはずだ。この状況を見て、心優しいという少女が喜ぶはずがない。それは、人ではない二人でさえ分かることだ。確かに神と魔王は協力している。だがそれは、アイリスという少女が愛した少年と敵対するという共通の立場から来たものなのだから。『協力』の中に少年はいないのだから。

 だが、そんなことにもシランは気づかない。

 シランの心は、アイリスとともに手に入れたはずの感情は、アイリスとともに失ってしまったのだから。

「本当に、見せてあげたかった」

 そう言う、シランの目から液体が溢れだした。それは、紅い紅い血だった。彼の体が増え続ける力に悲鳴を上げているのだ。

 その姿は、あたかも感情を失った彼がそれでも流した涙のようであった。

「そろそろだね」

 シランはそう言った。

 その言葉通り、神にとっても魔王にとってももはや力を閉じ込めておくのは限界だった。

「ですが、あなたも死んでしまいますよ」

 神の言葉に、シランは笑みを作る。

「言ったろ?もう僕は、この世界の全てから興味を失ったんだよ。たった一人の少女も守ることのできなかった…自分自身にさえも」

  


 ついに、神と魔王の抑えこんでいた力が消えた。

 そしてこの放たれた力が一気に世界を侵食していく。

「今が最後みたいだぜ、神!!」

「そのようですね」

 そして神と魔王が、勇者の方を向く

「勇者、餞別だ くれてやる!」

「受け取りなさい」

 そう言って二人は弓を番える。形のよく似た、しかし一方は光り輝く黄金の、もう一方は全てを飲み込むような漆黒であった。

 放たれた二本の矢は、真っ直ぐシランへと向かった。

 すると、シランはふとアイリスを左手だけで抱え右手を前に出した。直後、二本の矢がその手に引き寄せられるかのようにその右手に向かいそして、衝突した。

 シランは、神と魔王の力を持ってさえ無傷…….というわけでは無かった。消し飛んでいたのだ、シランの右手正確には右肩から先の全てが。だが、シランは気にした様子もなく神と魔王の方を向いた。すると

「…………………………」

そこには、何もなかった。

 もはや、どこを見ても何も無い。下を見ても大地は無く、左右を見ても木々は無く、上を見ても星も月も太陽もない。

 無無無無無無無無無、ただただ虚無。その中にシランと、シランが抱えるアイリスだけがある。

 ふと、ポケットに違和を感じた。ポケットに右手を突っ込もうとして、もう右手がないことに気付く。

「結構不便だな」

 そう苦笑いして、目を閉じた。

「おっ、出来た」

 シランの目の前に、一脚の椅子が現れた。

 ほんの僅かな時間とはいえ、神をも超える力を持っているのだから、それくらい出来て当然なのだが。

 そして、シランはその椅子にアイリスを座らせると左手で違和の正体を探った。

「ああ、これか」

 それは、シランがアイリスのために買った髪留めだった。

「結局渡せなかったな」

 そう言うと、シランはアイリスの髪をそれで括った。左手だけで苦労しながらもなんとか括り終えると、シランは呟いた。

「やっぱりよく似合う」

 そして再びアイリスを片手で抱き上げようとして…出来なかった。

身体が砂のように、さらさらと崩れ始めていたのだ。見ると、アイリスも同様に崩れ始めていた。シランの創った椅子もまた…

シランはそれでもなんとかアイリスを抱き上げると自分が椅子に座り、彼女を自らの膝の上に座らせた。

そして、優しく抱きしめた。


   

   もし、また新たな世界が

 

   生まれることがあるのなら


   その世界がこの子への優しさで溢れた

   

   そんな世界でありますように


 ただ 祈る  神さえ消えた虚無の中で……

 そして シランとアイリスは 静かに静かに消えていく

 

 

   世界の終わりが………終わった 

とりあえず、完結です。

読んでくださった人 本当にありがとうございます


これからは、この話穴だらけなので改善などしていくつもりですので、アドバイスなど頂けるとありがたいです。

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