エピローグ-2-
先導している悠里に続くようにして輝は追っていく。意外にも悠里の運転は丁寧で、やはりみんなを乗せているという緊張感から、事故を起こすわけにはいかないという使命感を固くさせているのだろう。
「結局ヘタレだったわけね」
「うるさいぞ渚。安全運転で行かないとな」
両手でハンドルを握るその姿は渚の方を向く余裕がないようにも見える。
前方の車との車間距離もだいぶ空いている。
「本当に制限速度を守ってるのね。隣の車線見る限りみんな飛ばしてるけど」
「うるさいぞ渚。安全運転で行かないとな」
会話をすることですら危うい心身になっている悠里だった。
「そう言えばこの車に乗ってるのはほとんど女子になったわね」
「そうですね! あと此恵たち一年生が全員いるです」
「あ、あの……僕は男です……」
「こう言ったら悪いんだけど、空音くんの方がボクなんかより女の子らしいけどね」
「そそそそんなことないです! 僕なんかより夏撫先輩の方が女の子らしいです!」
「いいよ謙遜しなくて。ボクはかわいくないですし」
「夏撫先輩はかわいいですって!」
「いやいや空音くんの方が」
「そろそろその恥ずかしい言い合いはやめてくれるかしら。聞いててよくわからなくなってきたから」
「そうですよ! 第一イッチーだってかわいいです!」
「えええ!?」
「この話広げるの?」
「わ、私こそかわいくないし……瑞凪さんや小早川さん、それに夏撫さんの方が綺麗で美人だし……」
「自分のこと言われるとさすがに恥ずかしいわ」
「ご、ごめんなさい!」
「そこで謝られてもね」
「ご、ごめんなさい……」
「冗談よ。非道い先輩からの嫌がらせって思って」
「は、はぁ……」
「でもイッチーはみらいセンパイと付き合ってるんですよね? もっと早く言ってくれてもよかったです」
「ご、ごめんね……私も言いたかったけど、中々言えなくて……」
「そのせいでみずなセンパイ勘違いしてたですから」
「なッ! 六実ちゃん!?」
「こばやセンパイから聞いたです」
「そんなことがあったんですか? ボクは聞いてないですけど」
「は、初めて聞きました」
「たまたまこばやセンパイと会った時に聞いたです」
「…………さーゆーりー……?」
「うるさいぞ渚。安全運転……ってハンドルを握るな勝手に回すな!! 危ないだろ!!」
輝の車の方はひどく落ち着いた様子で動いていた。
ガチガチの悠里とは違い、長く運転していないはずなのに余裕な表情で片手のみ使ってのハンドル操作だった。しかも缶コーヒーを適度に飲みながらだ。
本人はもっとスピードを出したいのだが、いかんせん前の車が遅いため、それに付き合わなければならないのだ。
「前楽しそうだ」
「あんな左右に揺れてるのに楽しそうなのか?」
車線ギリギリまで寄っている前の車を見ながら輝と照はそれぞれの感想を言う。
「カガリンたちもやるか?」
「車酔いするやつが出るからやめろ」
照の言うことなので素直に受けたが、残念そうな顔になっていた。
「で、実のところ箕来はどうやって鎖倉さんと付き合ったんだ?」
「え、その話今するんすか?」
「気になるー」
「我も興味がある」
「気になるなー」
「確かに気になる」
「先輩方や照まで。ほんとやめてくださいよー。大したことじゃないっすし」
「あの子を見る限り、カガリンは付き合うまでの過程は難しいと思うかな。君の中では大したことではないとは思うが、その大したことないことをカガリンたちは知りたい」
「ちょ、マジっすか」
「えーたっちが言ったらオレも言うからさー」
「はぁ……まぁ普通っすよ。俺が好きになってずっとアプローチしてきた。それだけっす」
「どんなアプローチなんだ?」
「一花ちゃんが花壇の前にたまにいるって言うことを仲がいい委員に教えてもらって、度々話したんすよ」
「美しき花園の中にある真の一輪を探し求めたのか」
「告白はやっぱえーたっちかー?」
「そうだよ。つーか恥ずいっすね、なんか」
「で、なんて言ったんだよ」
「それはさすがに聞かない方がいいだろう。二人だけの言葉なのだから」
「ちぇ」
「ほっ……それじゃあ今度は陽ちゃんの出番だ」
「まさか自己紹介してもらった時に彼氏の紹介もするなんてねー」
「やははー。でも仮なんだけどなー」
「いっその事付き合っちゃえば?」
「渡会会長が言うんですか……?」
「書記のやつだって待ってるんじゃねーのか?」
「は、はぁ!? なんで俺と初歌の話になるんだよ!?」
「お前が変なこと言うからだろ」
「そ、そう言えばまだあの答えを聞いておらぬぞ、我が友」
「え、お前も乗ってくるのかよ!?」
「あの答えってなんですかー? 渡会会長ー?」
「これは流れ的に言うしかないっすね、会長」
「マジで勘弁してください……」
休憩を摂ることになった二グループ。
運転手二人が一緒に休憩している時に。
「メンツ変えてもいいですか?」
唐突に悠里が輝に頼み事をしてきた。
「おや。今のメンツじゃ不満かな?」
「いや、なんていうかですね……疲れるんです」
その顔を見る限り真面目な雰囲気を可持ち出しているため、特に断る理由はなかった輝はそれを受け入れた。
「そうか」
悠里の提案は受諾されたものの、助手席の人は変わらず、更に前の話をさせられたりして彼女の疲労は溜まっていく一方だった。




