エピローグ-1-
卒業式の次の日。土曜日。
今日の学校は休みになっていて、午前中のみ授業ということをしないで過ごせる日になっている。
というのも、卒業式の片付け等があったからなのだが。
「で、どういう状況なんだこれ」
朝早くから起こされた照がしかめっ面でここにいるみんなに訊ねていた。
それもそのはずだった。ここは彼が住んでいるマンションの駐車場で、帰宅部全員と生徒会全員、一年生の奏汰と一花、そして輝までもがいて、大きな荷物をそれぞれが手に持っているからだ。
全員集合という初めてのことなのだが、知らない顔もいたため一通り自己紹介をしてから本題に戻った。
「なんだって、今から卒業旅行だが?」
「じゃあなんでここにこいつがいるんだよ」
そう言って照は自分の姉のことを指さす。在校生でもなければ卒業生でもない輝がこの場にいることに疑問を感じずにはいられなかったのだ。
そのことはみんな誰しも思っていたため、自然と悠里に注目する。
「それはもちろんこれのためだ」
みんなに注目を浴びながらも、悠里は一つの車を指す。それには照は見覚えがあった。
「あれって家の車じゃねーか」
実家にあるはずの車が停められていることに驚いていたが、輝がこの場にいることと合点がいった。
「急なことだったが、テルルンのためと聞いたからには不条理を曲げざるを得ないからな」
輝は免許証を前から取っていたため、自宅の車を運転することができる。とはいうものの運転自体は輝自身の関係上、あまりしたことがない。
「二つ返事には私自身が驚いた」
「電話したのオレだけどなー」
電話番号を知るわけがない悠里は妹の陽に頼って呼んだのだ。そしてそのことから、今度は車でのお出かけとなることがわかった。
「でもいくらファミリーカーだからってこの人数入れねーだろ」
合計十三人を車に入れることは流石に難しいことくらい悠里でもわかっているはずだった。
しかし彼女はその質問を待っていましたと言わんばかりに、ふっふっふと笑った。
「これが目に入らぬか!」
そう言いながら懐から取り出しみんなに見せつけるようにしたものは、とあるカードだった。
それにはみんな見覚えがあり、よく見てみるとそこには悠里の名前、誕生日、証明写真が記載されていた。つまり、紛れもなく運転免許証だった。
「どやぁ」
みんなが驚いていることに喜びを感じながら彼女はどや顔をこれでもかと見せつけてくる。
そろそろ照がキレ始めてくる頃合いを見計らって瑛太が訊ねた。
「いつ取ったんっすか?」
「受験が終わってすぐ合宿免許に行ってきた。本当なら渚たちのも無事終わってから行きたかったがなにせ時間がな」
合宿免許は二週間ほどかかるため、卒業間近でわかる国公立組の発表を待っているとどうしても今日までに取ることができない。
なので表向きは泣く泣くといったかたちで合宿免許に取り組んだのだ。
「マニュアルは楽しかったが」
「本当にわたしたちのこと考えてたの?」
一時期悠里と会う機会がなかったのはこのことだったのか、と卒業生組は思う。その時に本人に聞いてみたがはぐらかされるばかりだった。
「で、車一台だけだと足りないから輝さんも加えたんっすね」
「そういうことだ。これで全員分乗れるだろ」
確かにファミリーカー二台もあればこの人数でも乗れることができる。
しかし、渚はある不安を募らせていた。
「免許取って一ヶ月経ってないのにこんな大きな車運転できるの?」
初心者には難しいんじゃないのか、と普通ならそう思うことを口に出す。
それでも悠里の中にある自信は計り知れないものだった。
「大丈夫さ。私だぞ?」
「山に登るのよ?」
「大丈夫に決まってるさ。私だからな」
ここまでの自信は逆に心配でもあるが、綺麗な形の胸を張る彼女の姿はつまらない虚勢を張っているようには見えなかった。
「それじゃあどっちに乗るか決めてくれ」
そう悠里が言った瞬間、ほぼ全員が輝のいる方へと向かっていった。
「おい、お前向こう行けよ」
「さすがにそれは無謀なのは知ってるだろ?」
「まーねーちゃんのほーがいーよなー」
「ごめんね、悠里」
各々が揃って悠里がハズレだと言っているかのようにしてみんなに押し付けようとする。悠里に聴こえるように言っているあたりがみんな謀っているようにしか見えなかった。
その厳しい現実に、悠里は先ほどまでの自信が音を立てて崩れていくのが目に見えた。
「…………ふ、フフフ……」
いつの間にか駐車場の隅っこで体育座りをしてぶつぶつと何かを呟いていた。誰も近づけさせないような黒いオーラを出しながら。
唯一帰宅部特有のノリがわからない後輩たちがオロオロとしているだけだった。
結局、輝の車には助手席が照、真ん中に百合子と志馬に瑛太、後ろが陽と初歌。そして悠里の車の助手席には渚、真ん中は一花と此恵、後部座席が奏汰と飛鳥になった。
悠里の車に乗ることになった人たちに敬礼をしたあたりから本気で彼女が泣きそうになったため、ここからは真面目になる。
「事故らないでね」
「わかってるさ。そんなことより競争したっていいんだぞ?」
「やめとけ」
「カガリンは構わないが」
「まず場所知らないっすよね」
互いの無事を祈り、目的地へと向かい始める。




