試験-3-
「試験、か……」
センター試験会場前。四人は無事に時間通りに着くことができた。
雪がキラキラと降り続ける中、悠里以外は彼女の比べほどにならないほどの緊張をしていた。
国公立に関わってくるセンター試験。何度も何度も練習をしてきてもやはり本番は失敗ができない。そのプレッシャーが三人を押し付けようとしていた。
「…………ねぇ、悠里。ちょっとだけ聞きたいことがあるんだけど」
不意に、気分を紛らわせるためなのか渚が悠里に前から思っていたことを聞いてきた。
「なんだ。そんな神妙な顔で」
しかしその顔はどこか寂しそうで、それでも怒りがあるかのような、難しい表情だった。
「…………箕来くんとは、どうなの?」
「エイエイのことか? なんだそんなことか」
どんなことが聞かれると思ったらこのことだったので思わず悠里はくすりと笑ってしまった。
そんな悠里の反応に、渚はムスっとしてしまった。
「ごめんごめん。そのことは受験が終わったらゆっくり話そう」
「……? 何か事情があるの?」
「渚が無事合格したら教えるさ」
悠里のその発言でますます渚は疑問が残るような結果になってしまったが、教えてくれると約束してくれたのだ。頑張らざるを得ない状況になってしまった。
「…………あーエイエイはかっこいーなー」
「!?」
何を思ったのか、突然悠里が自分の彼氏のことを褒め始めた。若干棒読み気味なのにも関わらず、それは渚には効果てきめんだった。
「エイエイって実は男らしいしー、私のことちゃんと気遣ってくれるんだよなー」
チラチラと渚の反応を伺いながら悠里は言葉を重ねてくる。
案の定、渚は驚きを隠せないでいた。あわあわとしていて誰がどうみても慌てていると思われても違いはなかった。
「…………渚?」
途端に渚は俯き、肩を震わせていた。
さすがに言い過ぎたか、と悠里が反省した直後に渚の瞳から一筋の涙が出ていた。
「ちょ、渚!?」
「どうした? ってなぎちゃん!?」
突然泣き出した渚に、今度は幼なじみ三人があたふたとする番になった。
周りから見たら後輩が先輩のために先走りの涙を流しているようにも見えたり、なんらかの事件が起こりそれに対して涙している女子を宥めようとしている人たち、そして何故かセンター試験会場前で男一人女三人の浮気現場ということにも見れる。
「…………わたしの知らない悠里が、もう……」
その涙声には私情も含まれてはいるものの、その想いは悠里に伝わっただろう。悠里は頭を掻いて言おうか言わないか迷っていたことをついに言った。
「渚! 私とエイエイは付き合ってない!」
「「「え?」」」
その衝撃発言に三人は自分の耳を疑わざるを得なくなった。
そしてその発言は周りの人に、百合の修羅場現場ということを錯覚させてしまい、志馬のことをエイエイという人物に置き換えて話を聞くようになってしまった。
「…………で、でもあんなに仲良かったのに……?」
「本当はみんなの前で言いたかったのだが、渚のために今言うと、エイエイには既に彼女がいたんだ」
悠里の言葉から察するに、隣にいる女の子が既にいた彼女ということなのだろう。そう解釈する。
「彼女さんの方が付き合ってるとみんなに知られたくないことで、隠していたんだ」
「そ、そうだったの…………」
つまり渚は悠里のことが好きだったがエイエイと付き合うことになったことと思っていたが実は付き合っていなく、エイエイは隣の女の子と前から付き合っていたから悠里とは付き合わずにいた。ということがみんなの内心で解決したことになる。
実際、渚はその話を最後までちゃんと聞いていたが、最初は半信半疑だったが、やがてそれが本当だとわかった途端にまた涙が出てきていた。
「…………なんだ……全部、勘違いだったんだ……」
「黙っててすまなかった。まさかこんな深刻に考えてたなんて」
「ばか…………心配して損した……」
そんな、か弱くなっている渚の身体を悠里はゆっくりと抱きしめる。
彼女が泣き止むまで黙ってその頭を撫で続けた。
傍から見ればいい話のように見えるが、実際付き合おうとした彼氏が実は彼女持ちで元カノの元に戻ってきた女の子の話なのだ。むしろ悪いのはお前じゃね、と内心でツッコんでいた。
「…………もういいわ。そろそろいかないと試験受けられないわ」
悠里の身体から離れた渚の顔は、少々目元が赤くなっていたものの、いつもの彼女の表情になっていた。
それを見て悠里も安心した表情になり、二人の幼なじみもホッとした顔になった。
「それじゃあ改めて行こう。みんなで頑張ろう!」
おー! と三人は同意してみんな一緒にセンター試験会場へと向かって行った。
その光景に、聞いていた人たちの頭にいくつものはてなマークを浮かべさせていたのは四人は知るよしもしなかった。
後日、その話がネット上で話題になっていることを知ることになるのはまだ先の話。




