試験-2-
「あ、そう言えば自己紹介まだでしたよね。私の名前は」
「あ、えーっと、二年生で百合子さんですよね?」
「えーっと……」
「よろしくです! 此恵は此恵です!」
「ボクは夏撫飛鳥です。よろしくお願いします」
「オレらはたまに顔合わせる仲だからいらねーよなー?」
「なんでも部がお世話になりました」
「いえいえ、そんなことないですよ。あと私の名前は」
「でも生徒会の仕事って大変じゃないんですか?」
「それはもう大変ですよ。でもあの楽しい先輩二人と一緒だから頑張れてるんです」
「すごいです! 此恵には無理です!」
「ほんとにな」
「先輩だってできないじゃないですか!」
「ま、まぁまぁ二人とも」
「そんなことより、百合子ちゃんはあの二人の面白い話かなんか知ってる?」
「おー。それオレも聞きたーいー」
「えーっと。あ。こんなのはどうでしょう、保戸野木会計の内緒話ですけど」
「内緒話を暴露するスタイル。嫌いじゃないっす」
「内緒ですよ? あれは夏辺りでしょうか……」
『暑い……初歌は暑くないのか?』
その日はいつもよりやけに暑かった日だった。
生徒会のメンバー全員はいつもの書類整備を生徒会室でおこなっていた。
生徒会室にはエアコンが設備されていなく、扇風機一つで暑さを凌ごうとしていた。
『ふふふ……我がこのような灼熱地獄に負けるはずがない………………あつい……』
当然扇風機一つだけで涼しくなるはずもなく、気休め程度のものしかない。
学校指定の夏服を着ている二人が汗をかくほどの暑さに、改造を模した制服を着ている初歌はそれ以上の暑さを感じているに違いなかった。顔を真っ赤にして書類に相対していた。
『それにしても暑いですね。何か買ってきましょうか?』
『いや、さすがにパシるのもあれだし……』
『なら我が行こう』
『それだと後輩の面目が立たないので、私が』
『否。一輪の百合に迷惑がかかる』
『いやいや。保戸野木先輩は座ってて下さい』
『否否』
『いやいやいや!』
『否否否!』
「あ、これ渡会会長の面白い話でした」
「そこまで話してオチが別人て」
「まぁそういう時もありますよね」
「結局、渡会先輩は何をしたんですか?」
「その後ダチョウ方式で渡会会長がジュースを買ってくることになるんですけど、生徒会室から出てから入り口に黒板消しを設置したんです」
「此恵もよくやりました!」
「ちびスケはちびスケだから毎回当たるけどな」
「そ、そんなことないです!」
「で、黒板消しだけじゃ物足りないとのことで、色々とピタゴラ方式で設置したんです」
「よくそんな時間ありましたね……」
「保戸野木会計が頑張ってくれました」
「むしろそんなキャラなことに驚きだ」
「それで、見事に全部渡会会長は引っかかってくれました」
「ほんとに会長の笑い話だった」
「次こそ保戸野木会計の内緒話です。あれは私が初めて生徒会に入った時だったかな」
「それっぽい話そうだな」
『(これから初めての生徒会の仕事だ……)』
まだ二年生の百合子にとって、そのことは緊張を与えてくれるのに十分な材料だった。
あまりこういう目立ったことをしなかった彼女にとって、何故生徒会に入ろうと思ったのか。
それは先輩で友達の悠里の発言がきっかけだった。
『演劇部の脚本家として新しい考えが必要だから、新しいことをしよう』
と。
それからの悠里の行動は電光石火の如くに行われ、百合子の意思は半分以上無視された。
結果、百合子は何もせずにいつの間にか書記に任命されていた。
『全く。悠里さんはいつも急なんだから』
その顔は不満ながらもどこか嬉しそうにも見えていた。
約束された集合時間前に生徒会室前に来ていた百合子は深い深呼吸をする。正直、まだ緊張はとれていない。
それでもいいと、その方がいいと思いながらもこれからへの決意を改めた百合子は、生徒会室のドアノブにゆっくりと手をかける。
そしてそれを、同じようにゆっくりと回した。
『失礼します!』
「あ、これダメ。私の恥ずかしい話だ」
「百合子さんって、意外とおっちょこちょいなんですか?」
「そんなことないよ、多分」
「なんだか親近感が湧いてきました」
「それはお前もだからだろ」
「そ、そんなことないです! 多分……」
「あはは。それで、その話のオチはなんっすか?」
「よくある話だよ。単純に教室を間違えただけ」
「それははずいなー」
「本当に恥ずかしかったんだからね。もう色々な人に笑われちゃった」
「現に今も笑われてるしな」
「結局保戸野木ちゃん以外の恥ずかしい話だけでしたね」
「あいつは見た目が恥ずかしいだろ」
「それを言ったらおしまいだー」
「でも保戸野木会計、部屋とか私服、素に戻った時とかは意外と可愛らしいんですよ。元々可愛いですけど」
「中二病ならではっすね」
「あと渡会会長も可愛いです」
「男がかわいーって言われちゃーなー」
「お前人の事言えねーだろ」
「…………あー」
「……あ! そろそろ学校に行かないと遅刻です!」
「あれ、もうそんな時間っすか」
「急ぎましょう!」
「ごめんねー。長話ししちゃって」
「そんなことないです! 今度はゆっくり話しましょう」
「此恵も一緒にいいですか?」
「勿論、というより私からお願いするね」
「ほら照も行くぞ」
「だる。遅刻でいいだろ」
「生徒会として、それは見逃せないですねー」
「そうですよ照くん」
「…………はぁ」




