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試験-1-

 一月中旬の、受験生にとって重要な日。

 その日はセンター試験だった。

「…………よし!」

 悠里の家から最寄りの駅前に、こんな朝早くにも関わらず帰宅部部員らと生徒会の書記が駆けつけてきてくれていた。

「わざわざお前まで来なくてもいいのに。昨日激励されたんだし」

「気分や雰囲気が違うじゃないですか、渡会会長!」

 毎度お馴染みになりつつある百合子が言う。

 しかし天気はあいにくの雪模様。このあたりはあまり雪が降らないはずなのに朝から元気良く降り注いでいる。いつもの町並みは途端に真っ白へと変わり、同時に寒気も運んでやってきた。

 みんなは厚着や傘をさして雪から身を守っていた。

「あえて集合を言わなかったんだが、この集合率は素晴らしいな」

 元部長である悠里がこの集まった人たちの一人ひとりの顔を見る。そのほとんどが眠そうにしていた。

「人望はなんとなくなさそうね」

「…………ふ、ふぅ。なんだか無性に寒くなってきたぜ……」

 冷や汗を垂らしながら悠里は額のそれを腕で拭う。

 それを見た飛鳥は慌てて訂正しようとする。

「ち、違います! ぼ、ボクが連絡したんです!」

 そう言って彼女は軽く落ち込んでいる悠里に携帯を見せる。確かにそこにはみんなに呼びかけのメールが表示されていた。

 悠里が嬉しくなったのもつかの間、飛鳥は間違ってその次にみんなからの返信を見せてしまった。

『え、明日だったのですか!?』

『面倒』

『えー行くのー?』

『そういえばもうそんな日っすね』

「…………」

 みんなの反応を見て、悠里はうっすらと涙を浮かべた。渚も地味にショックを受けていた。

 あっ、という声とともに飛鳥はサッと携帯をしまう。しかしそれは時遅く、二人の心に確実にダメージを与えてしまった。

「ほ、ほらみなさんちゃんと来てくれましたし!」

「嫌々だったんだろうな……」

「ごめんね。こんなめんどくさい先輩たちで……」

 飛鳥の健闘も虚しく、二人はただ落ち込むしかなかった。

 その時にようやく目を開けた照が視界に映っためんどくさい先輩たちを見てため息をついた。

「そんなめんどくさいお前らのために来てやったのになんでそんな落ち込んでんだよ」

「お前らのせいなんだけどな」

「とりあえず喜んでおけよ。それではよ行け」

 適当にあしらう感じを隠そうともせずに彼は先輩にそう告げた。

 普通ならこんな照に一喝を与えるのが一般的ではあるが、この二人は違った。普段の照を知ってるからこそ当然怒りはせず、むしろ鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になった。

「めんどくせぇな。早く行ってとっとと帰ってこいってんだよ」

 そして照の顔がほんのりと赤くなっていることに気が付いた。

 その様子が二人にとって、優しさで包まれていった。

「わー。にーちゃんかわえー」

「先輩、褒めるの下手ですねー」

「まぁ照は昔っからそうだしな」

「黙れお前ら」

 後輩たちの微笑ましいやりとりは生徒会のメンバーにも笑みが溢れるほどだった。

「先輩たち、そろそろ電車着ますよ」

 百合子が腕時計を見ながら四人の先輩たちにそう告げる。もうそんな時間か、と悠里は驚いてみんなを改めて見回す。

「それじゃあ行ってくる。いい報告を期待していてくれ」

「まぁ悠里にはセンター関係ないんだけどね」

 すかさず横やりを渚が入れてくる。悠里を除いた三人は皆国公立を目指しているためセンター試験は大切なものだが、彼女は私立を志望校に選んでいるためあまり関係はないことなのだ。

 本当はみんなと同じように国公立を目指したかったが、学力がわずかに足りなかったためにこの結果となった。

「だからみんなも勉強しような!」

「これで浪人したら許さないからね」

 あらぬところを見ながらそう言う悠里に疑問を抱きながらも渚は手厳しく言葉にする。

「お前ら早く行くぞ!」

「時は刻一刻と迫ってくる!」

 すでに生徒会の二人は駅構内に入ろうとしているところだった。乗る電車もやってき初めている。

 それを見た帰宅部の二人も焦りが現れ、口早にこの場から離れようとする。

「なんだか忙しなくなってすまない。では行ってくる!」

「見送りありがとうね」

 なるべく走らないように心がけるが、その足は段々と早く動きだす。

 そんな、あまり先輩らしくない二人の背中を見送る帰宅部たち。手を振ったり声をあげたりして健闘を祈った。

「…………さて。どうする? 学校までまだ時間あるけど」

 駅から電車が出るのを見送った瑛太はスマホを取り出して時間を確認する。今日は土曜だが午前中にのみ授業がある。

 勿論休むわけにはいかないため登校しなければならない。

「あ、此恵朝ごはん食べてないです」

 お腹をさすりながら此恵は恥ずかしがりながらもそう提案してくる。

 みんなもそれには誰も反対しなかった。

「それじゃああそこのワックでいいかな?」

 駅前にあるワックを指さすのは百合子。登校までの時間はまだないものの、あまりゆっくりできる時間ではないため、自然とそこに決まった。




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