クリスマス会-5-
「……もう少し離れて歩け。変な奴だと思われる」
「ぼ、ボクだって恥ずかしいんですから!」
照と飛鳥がコンビニから帰ってきた時に、新たなカップル成立の話を聞いて驚いた。あの部長と瑛太が付き合うことになるなんて。
でも決めたものは取り消すこともなく、照と飛鳥はみんなと同様に祝福した。瑛太と渚は未だに現実を受け入れていなさそうだったが。
それから王様ゲームの続きが始まり、ビリになったのは飛鳥の方だった。
ビリには罰ゲームと決めていたので、飛鳥には罰ゲームを受けてもらうことになった。
その結果がミニスカのサンタ服を家まで着て帰ることだった。
それだと寒いという理由から、此恵の提案により白の長手袋とタイツの強制着用が下りた。
着替え終わった後、いよいよプレゼント交換が始まって、一抜けをした人から順にプレゼントが貰われる。
最後に残ったプレゼントを飛鳥が受け取り、みんなで一緒に開けた。
結果。
「そんなコスプレしてさらにそんなバカみたいなもん背負ってたら誰だって変な奴だと思うからだ」
「で、でもせっかくのプレゼントですし!」
飛鳥が当たったのは、半裸のアニメの女の子キャラがでかでかとプリントされてある抱き枕だった。裏表に違うポーズをとっているもので、表が制服が乱れた姿。裏が下着まで乱れているものになっている。
このプレゼント交換会、誰が用意したプレゼントなのかは伝えずにしていたので、この抱き枕は誰のものかはわからないのだ。わからないが予想はできる。
「この悪ふざけは瑛太か悠里だ。文句を言うならそいつらに言え。それかそれを当てたお前に文句言え」
「うぅ……でもプレゼントですのでちゃんと使います……恥ずかしいですけど」
照の方は飛鳥と比べるとまともで、何度か行ったことがあるデパートの近くの駅前にあるカラオケ店の割引券だった。一人分が無料になるものなのだが、あまり照はカラオケには行かないため、宝の持ち腐れになってしまうだろう。
「それにしても、これもですけど凄いプレゼントばかりでしたね」
「そーだな。瑛太が陽のプレゼントを引いて、明日一日所有権を委ねる券をもらうなんてな」
「ちょっとした修羅場になってましたよね……小早川先輩はゴスロリ服でしたからきっと此恵ちゃんですよね」
「逆に似合わないのが笑えた。んで此恵が問題集だったか。あれは渚のだろ」
「此恵ちゃん、頭抱えてましたね。それで陽ちゃんはボクのプレゼントを当ててました」
「あいつには勿体無い手袋だった。で、渚のが俺が持ってきた酒だったな」
「未成年ですよ!?」
「輝の置いてったやつの処分だ。飲むの面倒だし」
「でも瑞凪先輩、普通に飲んで酔っ払ってましたよね……」
「面白いものが見れたから結果オーライだ」
「瑛太くん、かわいそうでした……」
それからしばらく先ほどまでのクリスマス会のことで会話が続いていたが、たまに人とすれ違って飛鳥に奇異な視線を送られていた。その度に彼女はモゾッと体を動かして恥ずかしがっていた。
その一連の流れを見る度に、照は飛鳥を見た通行人にひと睨みしてた。不良顔負けの眼光に、通行人はギョっとなってそそくさと去っていく。
「…………あ、あの、照くん……」
不意に飛鳥が立ち止まり、彼を呼び止める。振り返って彼女を見ると、指を前でモジモジと弄りながら俯き加減で見つめていた。
いつもの彼女のその癖で、照はため息をついてから催促した。
「なんだよ」
「えと、その…………」
中々言い出せない飛鳥にイラつきながらも、いつものことだと割り切って待った。
そして待つこと数分、ようやく飛鳥が動いてくれた。
「あ、飛鳥サンタからのクリスマスプレゼントです!?」
手持ちのバッグから小物入れのような箱を謎の掛け声と共に取り出し、それを照に差し出した。
彼女の顔は真っ赤になっていて、頭から湯気が出るほど恥ずかしがっていることがわかる。
「…………」
照がどこから言えばいいか迷っている間も、飛鳥は恥ずかしさのあまりに倒れてしまいそうになりつつある。
「…………なんだよそれ」
もう掛け声には触れずに手に持っている箱のことに指摘をした。
それで飛鳥はようやくこの箱のことについて話した。
「こ、これはですね……その……て、照くん用のプレゼント……というか、ですね……」
「……はぁ?」
何を言っているのかイマイチ理解できない様子の照に、とにかく、と飛鳥はプレゼントを彼に渡そうとする。
「い、いつもありがとうの気持ちです! こ、今回はお金があまりたまらなくて照くんだけになってしまいましたけど、本当はみなさんにも配る予定でした!?」
言葉を重ねれば重ねるほど何を伝えればいいのかわからなくなり、どうしたらいいのか真っ白になってしまう。
こんなはずじゃなかったと思いつつも、今の飛鳥にはどうしようもできなかった。
本当に伝えたいことがあるはずなのに。それがどうしてもでてこない。
「…………ふっ。ははは」
本人は相当焦っているのに対して、そんな彼女のことを見ていたら笑みがこぼれてしまった。
この状況でどうして笑うのかと、また飛鳥の頭が混乱しそうになるが、手に持っていたプレゼントが照の元に行ってしまう。
「開けるぞ」
「え? あっ、はい……」
照が箱を開ける様をただ見つめる飛鳥。
箱の中身を見た彼はギョっとした反応を見せた。
「…………なんだよ、これ?」
「えっ? えーっと……何か間違ってました?」
箱の中身を飛鳥に見せながら照は問いただした。
「ブレスレットや首飾りはまだわかる。でもプレゼントにピアスってなんだ?」
その箱に入っていたのは、金と銀色の二つのブレスレットが交差して一つになっている物と、シンプルな銀色の首飾り。そして問題の品である銀色で指輪のような形をした、穴を空けなくても着けられるタイプのピアスたった。
「そ、それは、その……照くんがアクセサリーを着けた姿見たことなかったので、アクセサリーをプレゼントにしようと思ったんですけど、一式がそれしかなかったので、その……」
確かに照はアクセサリーの類いのものは普段も休みの日も着けていない。それはただ単純で短距離の時に邪魔になるから腕時計を着けないと思った頃からずっと続いているだけだ。
だから正直これはありがたいものだが、ピアスという奇抜なプレゼントに衝撃がまだ抜けていない様子だった。
「…………照くん、かっこいいんですから。学校はともかく、休みの日は着けてみてください」
ハニカミがちに照れる飛鳥。
そんな飛鳥のためではないが、照は黙ってプレゼントされたアクセサリーを全て今この場で着け始めた。
その行動に彼女は驚いたものの、全てのアクセサリーを着けた照を見てにこやかな笑みを浮かべた。
「似合ってます。かっこいいです」
「……そうかよ」
まんざらでもない様子で照は身につけたアクセサリーを触って確かめてみる。金属なので最初はひんやりと冷たかったが、次第に体温と共に暖かくなってきていた。ピアスのことはイヤリングだと思い込むことにした。
不自然な沈黙が始まり、今更になって飛鳥は自分の服装に自虐を込めて言う。
「…………やっぱり寒いですね、この格好」
そんな彼女を見てられなくなったのか、照がポケットに突っ込んでいたカラオケ店の割引券を彼女に渡そうとする。
「ほら」
あまりに突然なことに飛鳥の思考は追いつけず、え、と聞き返してしまう。
「後で行ってこい。俺が持ってても仕方ねーし」
「で、でもこれは照くんのものですし……」
「使わねーよりマシだろ」
無理矢理割引券を受け取らされた飛鳥は返品しようとするが、トコトコと照は進んで行ってしまった。
手に持った割引券と彼を交互に見、飛鳥は何かに気がついたみたいだった。
それでたまらず彼女は直ぐに彼の元に追いつき、その手を取る。
「なら今から一緒に行きましょう!」
「……聞いてなかったのか? そもそも行かねーし」
「でもこれは照くんのものですし、それにこれ、今日までです」
「はぁ!?」
飛鳥の言うことが信じられないと言ったように割引券を奪い取る。
そこには確かに今日の日付までの期間となっているのが書かれていた。
「…………ただの在庫処分かよ……」
「ほら照くん、急ぎましょう!」
今度は飛鳥が照の手を握り、そのカラオケ店まで走っていこうとする。思わず彼女の力になすがままで引っ張られるが、照は走りながら反論した。
「今からって、もうおせーぞ!」
「夜までやってるみたいですし、大丈夫です!」
「だったらせめて着替えろ! その格好で行くのかよ!」
「だ、大丈夫です! 大丈夫ですから!」
「お前……っ!」
コスプレした女子と男子が夜のカラオケ店に来店する本当の意味を全くわかっていない飛鳥に、イラつきを通り越して呆れという感情が支配した。
「別に逃げたりしねーから、着替えろ!」
「そう言って逃げたりしなかった日はなかったです!」
笑いながらそう言う飛鳥に言い返せなかった照。
それでもなんとか言葉を探そうとするものの、飛鳥の楽しそうな笑顔に照は何も言えずになすがままになって引っ張られた。




