クリスマス会-3-
「ラブコメ……?」
「急にどうした渚」
「ううん。なんでもない」
「そうか。じゃあ待ちに待ったプレゼント交換会だ!」
テーブルの上にある料理も少なくなってきた頃合いを見計らい、前から行うと公言していたことを実行しようとする。
みんなもお腹が膨れてきているので、一旦休憩を挟むつもりでそれに参加した。
「さて、改めてルール説明だ」
既にプレゼントは悠里に預けられており、そしてそれらはわからないように大小様々な箱の中にランダムで入れられている。
箱には一から七までの数字がふってあり、これからもらう紙と同じ数字の箱を手に入れることができる。勿論自分が自分のプレゼントをもらう可能性もある。
紙はただ配られるだけでは味気がないので、ゲームをして勝った人から順に紙を選ぶということになる。
「ゲームは王様ゲームにしよう。割り箸を人数分用意して、先端に一から六の数字と王という文字があって、ってまぁそこは大体わかるか」
「勝敗はどうやって決めるの?」
「王様になった人にはもう紙を渡す。で、二回目の王様になった人は抜けていって、最後まで残った人が罰ゲームだ」
あらかたルールを説明したところで、前々から準備していた王様ゲーム用の割り箸を用意する。
先端を自分を含めたみんなに見えないように手で握り、丸く囲んでいる部員たちの中心に出す。
「ではいくぞ……王様だーれだ!」
みんなそれぞれ一本ずつ選び、部長の掛け声とともに一斉に引き抜いた。
「わたしかな」
王様の印を見せるようにして最初の王になった渚がそれを知らしめる。
「お手柔らかに頼むぞ、渚」
「わかった。それじゃあ二番は五番に足で踏んでもらう」
悠里の言ったことをちゃんと聞いたのか聞いていないのか、渚は最初にしてはハードルが高いことを要求してきた。
そして自分の番号が呼ばれ、その命令を実行する者たちが声をあげる。
「此恵、踏まれるんですか!?」
「あ、足で踏むなんてできないですよ!」
明らかにそんなことができないタイプの二人だった。此恵と飛鳥はなんとか撤回しようと試みるものの、渚の一言で止められてしまう。
「王様の言うことは人道的で道徳的でない命令以外は絶対よ。軽く踏むだけでもいいのよ」
「むぬぬ……かなセンパイ! 思う存分此恵を踏んで下さい!」
諦めが早かった此恵は服が汚れることなど気にせずすぐに床にうつ伏せになった。
まだ飛鳥が戸惑ってはいるが、此恵がここまでしてくれることに自分も決心しなければいけないと思った。
「ご、ごめんね。此恵ちゃん……」
「さぁ! 煮るなり焼くなり好きにして下さい!」
靴を脱ぎ、靴下になった片足を恐る恐る此恵の背中にめがけて進める。そして背中に触れ、クイッと優しく押してすぐ引っ込めた。
「あ、かなセンパイ。マッサージみたいなのでもう一回お願いします!」
「え、ええぇぇぇ……」
意外と気持ちよかったらしく、此恵がアンコールを求めるが飛鳥にはさすがに二度目は無理だった。
「中々珍しいことだったな」
「遊木宮くんと悠里だったら面白かったのに」
「頭からつま先まで踏んでやるよ」
「さー次の王様は誰かなー!」
二回目。次の王様は飛鳥だった。
「ぼ、ボクですか。何も考えてなかったんですけど……」
「なんでもいいよー。渚ちゃんみたいなのがダメで、もっと普通でいいんだよ」
心外だな、と顔で訴える渚のことをスルーしながら瑛太はアドバイスを与える。
真面目な飛鳥は普通の命令がどんなことなのかを考え始め、やがて出した答えがこれだった。
「え、えっと……一番の人は六番の人にしっぺ!」
それが普通なのか、と誰もが思ったが本人は至って真面目そうだったので誰も文句は言わなかった。
言わなかった代わりに悲鳴の声があがった。
「嘘、わたし六番なんだけど」
「わりーなー。オレ一番ー」
先ほどのこともありまさにしっぺ返しとはこのことだった。
勿論陽は無関係だったのだが、やるからには全力の姿勢で行われた。
細い腕で陽のしっぺをしっかりと受けて苦しんでいる元王様の姿が数秒後にはいた。
「さ、さー次の王様は誰だー?」
渚のためにも次の王様を早く決めてあげた悠里。
三回目の王様は瑛太だった。
「おっ。俺だ」
「エイエイこそお手柔らかにだな」
何をするかわからない男子での瑛太だ。照同様どんな命令を下すかはわからない。
少し考えるそぶりを見せるが、命令はすでに決まっていたらしくパッと言った。
「本当はキスって言いたいけどさすがにマズイから、四番は一発芸」
おどけて笑って言うものの、目は割と真面目だったことには鋭い人には気付いていた。
だが四番の人物のせいでその真意は確かめることはなくなった。
「テルテルの一発芸か。見物だな」
あの照が一発芸をやるということでみんなは興味津々となっていた。
照本人は嫌そうな表情で瑛太を睨みつけるが、彼は趣旨を変えるつもりはないようだ。
「…………おい陽。こっち来い」
「んー? なんだー?」
ちょいちょいと照は手を使って陽を呼び出す。兄の呼び出しになんの疑いもなく寄る妹。
他のみんなには聞こえないくらいの声量で耳打ちをしながら店の外に出た。
何をするつもりなのか、とみんなは思ったが十分過ぎてようやく二人は戻ってきた。
「「どーもー。コンビ名は照陽でーすー」」
何故か陽と一緒に一発芸をするつもりらしい照。同時に喋っている陽自身もノリノリだった。
それはそれで面白いと判断した王様はそれを続行させた。
「「なーなー、オレとにーちゃんって双子だよなー」」
「「顔同じだし当たり前だろ」」
「「だよなー。ならさー、どっちがオレで、どっちがにーちゃんかくらいわかるよなー」」
「「まぁ俺とお前が着てる服替えればわからねーだろうな」」
「「というわけでー、はいあすかっちー。オレはどっちでしょー?」」
「ぅえぇええええ!?」
いきなりの無茶ぶりに飛鳥は対応できなかった。
確かに二人は先ほどと同じ服装だが、相談していた時に互いの服を交換したのかもしれない。
だから今は陽が照で、照が陽のマネをしている可能性もある。
しかしそれは嘘で、本当は本人たちなのかもしれない。
それが飛鳥の頭の中で何回も反復してショートしてしまった。
「ぇ、えーっと……えええーっと……」
「ぶっぶー時間切れー。答えはオレが俺だ」
陽の格好をしていたのに照本人の口調声音で回答を告げた。
照の方も、やははーと陽らしい感じの雰囲気になった。
「簡単に騙されたな」
「あすかっちならわかると思ったんだけどなー」
「あ、あれ? あれれ?」
容姿と声が合っていないようで飛鳥は戸惑っていた。
「先輩まさか女装してるんですか!?」
「してねーよちび助」
女装してる照の姿を写真に撮ろうと此恵は携帯を取り出そうとするが、照が照の口調で呆れていた。
「え、してないんですか!?」
「着替える時間なんてねーだろ」
「やははー。騙されたなー」
陽も陽の雰囲気で答える。最初から入れ替わってなどいなく、ただ口調を入れ替えただけなのだ。
それでも流石は双子で、互いの特徴をよく掴んでいた。
「うむ、中々面白かった」
「まぁ照一人だけなんだけど、別にいいか」
「ちなみに悠里はわかってたの?」
「勿論さ」
「本当に?」
「……嘘です騙されました」
王様ゲームはこれからが本番だ。




