クリスマス会-1-
季節は巡り、師走。
世間では師匠ですら走っている季節のはずなのに、照の中ではこんなにも時間が長く感じたことはないと思っていた。
みんな自分の目標に向かって必死で、でも自分は何もしていないで。
そんな中学の頃を連想させる日々が続いていた。
「さて、みんな揃ったな」
クリスマスイブの夜。帰宅部のみんなは悠里の家である喫茶店にお邪魔していた。
内装は普段と少しだけ変わり、クリスマスらしい装飾が飾られている。テーブルを一列に並べてテーブルクロスを敷き、その上には色々な料理が並べられている。参加者の前にはコップもちゃんとある。
本当なら部室でパーティーを開く予定だったが、さすがに生徒会長に止められてしまった。
その生徒会長は今日出席はしていなく、会計と一緒に勉強するらしい。
「そんな根性を悠里も見習ってほしいわ」
「だ、だが三ヶ月は休みの日なしで頑張ったからそのご褒美でいいだろ!?」
部活を引退して以来、悠里はいつも以上に頑張って勉強に取り組んでいた。大体がパーティーを開くためなのだろうが、大学に受かりたいという気持ちも増えてきたに違いない。
「そんなことより、みんなここにいるってことは独り身か。悲しいなテルテル」
「ブーメラン」
「私は参考書が恋人さ」
「どや顔やめろ」
実は瑛太は既に一花とデートを済ませていた。クリスマスイブに出来なかったことは残念だったが、それでも二人で聖なる夜として過ごせたことを幸せに思っていた。
陽に関してはそんなこと全く思っておらず、奏汰も恥ずかしがって誘うことが出来ずにいたのでこうなってしまっている。今頃彼は家で悶々としているに違いない。
「まぁホワイトクリスマスにはなりそうにないな。よし、乾杯するぞ!」
この辺は雪があまり降らないため、ホワイトクリスマスにはなることが少ない。仮に降ったとしても積もるほどではない。
それであまり残念がることはないまま、悠里は自分のコップを手に持つ。
みんなもそれぞれ持ち、悠里の号令を待った。
「あー……そうだな……気が早いとは思うが、次の部長でも決めようと思う」
突然の部長のその発言に部員たちは驚いた。そんなこと一度も聞かされていなかったならだ。
今ここで言うのも忍びないなと感じながらも悠里は続けた。
「もう私たちが部室に来るのも数少なくなると思う。鍵は現状三つで私と渚の分とテルテルの分。あまり来ないなら次期部長にこの二つを託した方がいいなと思ったんだ」
手に部室の鍵を握り、部員たちを一目する。悠里の中では誰もが次の部長候補である。誰がなってもおかしくはなかった。
「次の部長は、カナカナ。君に託したい」
腕を突き出し、鍵を渡すようにして飛鳥を指名する。
名を呼ばれた本人はポツンとしていて、十分な時間をおいてようやく反応を示してくれた。
「………………え、えええええええええええええ!?!?」
「よろしく頼むぞ、部長」
自分を指さしながら驚いている飛鳥だったが、お構いなしに悠里は鍵を彼女が簡単にキャッチできるように放り投げる。
事の衝撃で飛鳥は戸惑ってはいたものの、鍵を落とすわけにもいかなかったため、ふらつきながらもちゃんと両手で受け止めた。
「それじゃ、最初の仕事として乾杯の言葉を頼もうかな。部長?」
彼女のテンパり具合に笑いながらも悠里はそう提案してきた。
まだ実感が湧いていない飛鳥はみんなに助けを求めるように周りを見た。が、みんなは彼女が部長であることに異議を唱えず柔和な微笑みで彼女を受け入れていた。
それを感じ取った飛鳥は、回らない頭を使って懸命に言葉を選んだ。
「あの、え……と…………が、頑張ります……」
言っていくにつれて意気が絞んでいくのがはっきりとわかったため、さすがに悠里は助け舟を出した。
「まぁ慣れていけばいいさ。それじゃあ乾杯!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
持っていたコップを天井に届かせるように高く上げ、新しい部長就任の祝福とパーティーの開始を兼ねて祝った。
ワンテンポ遅れて新部長もコップを上げた。
「さぁさぁ遠慮なく食べてくれ。今日は無礼講だ!」
「じゃあ早速チキンから食べようかな」
「此恵はケーキを占領するです!」
「にーちゃん、ほらーあーん?」
「勝手に一人で食べてろ」
「夏撫ちゃんも、ほら」
「あ、は、はい!」




