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デート-4-

 ようやく着いたショッピングモールは日曜日だからか人が大勢おり、地元のデパートが霞んで見えるほどだ。

「うわぁ……多いですね」

「だなー。先に飯いーかー?」

「あ、じゃあ……あのベンチにしますか?」

 一通りざっと見て一つ空いているベンチを見つけて、そこで食べることになった。

 二人の間に重箱を置き、ひとまず割り箸を陽に渡す。

 それを見事に綺麗に割って、まず重箱の一段目を開ける。そこにはびっしりとおかずが詰まっていた。

「おー。そーだいだなー」

 その中から迷わず選んだものは卵焼きだった。一つを箸で挟み、いただきますと呟いてそのまま片手でひょいと食べる。

 彼女の咀嚼する姿を見ながら、奏汰の心臓はドキドキと高鳴っていた。不味いと言われたらどうしようといった緊張だ。

 心配そうに見つめる彼だったが、彼女は卵焼きを十分に味わってから喉を通して奏汰に一言。

「これちょーうめー」

 笑顔でそう伝えた。

 心からの一言だったので、奏汰はようやく肩の荷が降りた状態になった。

 落ち着いた彼を横目に、陽はパクパクとおかずを口に放り込んでいく。

「……あ、二段目におにぎりが入ってるので……」

「んー」

 口におかずを含んだまま、重箱の二段目を開ける。そこにも多くのおにぎりが鎮座していた。

 綺麗な三角形で多種多様の中身のおにぎりに、陽の食欲が劣るわけがなかった。空いている手でおにぎりを一個掴み、空になった口に入れる。

 モグモグと食べている彼女の姿を見てるだけで、奏汰の心は満たされていった。自分の作った料理を嬉しそうに、美味しそうに食べてる人がいることに、晴れやかな気持ちになっていくのが彼には実感できていた。

「ふー。ごちそーさまー」

 奏汰が何も言っていないのにも関わらず三段目を既に開けていて、それでも全ての箱の中身を食べきってしまった。

 女の子一人で食べられる量ではなかったはずだが、彼女はちゃんと完食していた。

「お、お粗末さまでした……」

「いやーうまかったうまかったー。これならずっと食べてたいなー」

「ずずずずずっと!?!?」

 陽のその言葉は奏汰にとってはお味噌汁と同じ口説き文句で、顔を真っ赤にして恥ずかしくなってしまっていた。

 そんなことを彼女は知ってるはずもなく、どうして彼が顔を赤らめているのかがわからなかった。

「あー。せっかくだしこれ持つぞー」

「あ、あのえと、だだだ大丈夫です! それ……つ、使い捨てです、から……」

「使い捨てなんてあんのかー。便利だなー」

 まだ体温が上がったままの奏汰を待つように、二人はしばらくベンチに座っていた。電車を使い徒歩で来たため、やはり体力的にも休みたかったのだろう。陽はそんなことないが。

「それじゃー、いこーかー」

「あ、は、はい!」

 奏汰が落ち着いてきたころを見計らって、二人は揃ってベンチを立って服屋へと向かった。



「いらっしゃいませー!」

 ショッピングモールの二階。

 ちょうど目に止まった店に入ってみると、中は女の子をテーマにした服がたくさんあって、ここがいいなと陽は思っていた。

 が、奏汰にとって若干肩身の狭い思いだった。

 何せ女の子の店で女の子しかいないため、男である自分がいることは浮いている感じになるからだ。

「じゃー選んでくれー」

「ほ、本当に僕が選ぶんですね……」

 憧れの先輩のお願いなのだ、奏汰はそれを無下にするなんてことはできるわけなかった。

 今までとは違った意味で恥ずかしさが生まれながらも、一生懸命陽に似合った服を見つけようとする。

 気になるものを見つけては手に取るものの、これは違うと思って元に戻す作業が何回か続いた。

 次第に陽が飽きてきたらしく、ぼーっと店内を眺めるようにキョロキョロとしていたら、偶然ある服を見つけた。

「なーなー。あれさー」

「え? えっと、あれですか?」

 それはマネキンに着せられていた薄い気緑色のワンピースだった。

 確かにあれなら似合うと思った奏汰は賛同しようと言葉に表そうとするが、先に陽の出た言葉によってそれが無理なことになった。

「お前着てみてー」

「…………………………え?」

 何かの言い間違いではないかと耳を疑ってもう一度訊ねてみるものの、陽のそれは本気らしかった。

「だからー、お前に似合うと思うんだよなー」

「…………………………あ、あの…………あれ、女の子用、ですよ……?」

 何度も確認するが、ここは女の子の店でこれは女の子の着る服だ。

 何故自分が着なければならないのかを自問自答しようとするものの、

「早くー早くー」

 マネキンの近くの棚に置かれていた、それと同じワンピースを奏汰に渡した。今までより一層ワクワクした表情で。

 これはもう言うだけ無駄だと悟り、奏汰は全てを諦めて試着室へと向かった。

「(これを着て笑われて終わる……うん。すぐ終わる……)」

 自分に言い聞かせるようにして無心になってワンピースを着ようとする。

 と、下着姿になった時に陽が追加で何かを持って来ていた。

「これも頼むー」

 非情にも試着室のカーテンを全開にしてそれを渡してきた。

 さすがにこの場でのこの姿では凄く恥ずかしく、奏汰はそれをよく確認せずに奪うようにして取ってから勢いよくカーテンを閉めた。

「(だ、誰にも見られてないよね!?)」

 陽に見られること自体、部室で少しだけ慣れてはいるものの、ここは部室ではない。ましては知らない女の子に半裸を見せたかもしれないのだ。

 恥ずかしさで気が動転しそうだったが、手に持っている布の感触で現実に戻ってきた。

「……………………~~~!?!?!?!?」

 純白で小さなリボンが付いてる女物の下着だった。何をどう叫ぼうとするが、声にならない悲鳴をあげるだけだった。

 思わずそれを手放してしまい、頭の中がそれと同じくらい真っ白になった。

「着替え終わったかー?」

 外から陽の声がしてやっと自分のことが理解でき、急いでワンピースを着た。女物の下着は勿論そのまま放置だが。

「……き、着ました…………」

 自分でカーテンをゆっくりと開けて彼女に今の姿を見せる。そこには誰から見ても女の子としか言えない人物がそこにいた。

 ワンピースから見える細く白い四肢。綺麗な顔立ち。

 今になって自分は何をしているんだろう、といった感情がこみ上げてきて恥ずかしくなり、赤面してワンピースの裾を引っ張る仕草をする。

 そんな奏汰の姿を見た陽は、無言でうんうんと頷いて、

「けしょーしよー。あと色んな服も着よー」

 公開処刑の宣告をしてきた。

 あ、と察したが最後、陽は奏汰を置いて店員さんを呼びにいっていた。

 ただ呆然と立ち尽くす奏汰だったが、陽の目は一段と輝いていた。




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