デート-3-
幼なじみたちが感慨に耽っている一方。
一本遅れで奏汰たちは同じ電車に乗っていた。
「あ、あの。今日は何をするんですか?」
「あー、言ってなかったっけー。服買いに行くんだー」
「服ですか……ど、どんな服を?」
「女の子っぽい服買ってこいってさー。ほらー、この服もそーだけどイマイチ女の子っぽくねーってさー」
今、陽が着ている服は照でも着れるような男物の服装で、女の子らしい服はあまり持っていない。持っていたとしても小学生が着るようなものしかない。
なので、せっかくだからと買いに行こうというのだ。
「で、でもなんで僕なんですか? じ、女性の方と一緒の方が……」
帰宅部にも女子の方がいて、尚且つ女友達も陽には多いはずだった。
それでも奏汰に頼むには約束以外の何かがあるのかと疑問になったからだ。
「いやー、お前って女子力たけーじゃん? 選んでもらおーと思ってたんだけどー」
前に偶然デパートで会った時に感じたそれを、陽は悪びれなく言う。普通男なのに女子力が高いと言われて喜ぶはずがないのだが。
しかし奏汰は顔を真っ赤にして、女子力が高いことを褒められたことに対して喜んでいた。
「そそ、そんなことないですよ……」
「照れるなよー。自慢してもいーんだぞー」
自慢したら確実にからかわれることが必然なのだが、そんなことお構いなしに奏汰は自慢しようかなと思っていた。
結局、自然と奏汰の女子力は本人が公言していなくても大体の人にわかってもらえているが。
電車に乗ってしばらくして、目的地の最寄り駅に着いて二人は揃って降りた。
「電車じゃなくても来れたなー」
「じ、時間かかりますよ……?」
六駅離れているため、流石に歩くことは難しい。
「んいやー、チャリでさー。二人乗りしてー」
「二人乗り……ふふふ、二人乗り!? ダメですダメですダメです!!」
勝手に自分が彼女の身体に手を回して乗っている姿を妄想し、勝手に照れていた。
目的がズレていたが、当初の予定通り歩いて駅の近くにあるショッピングモールへと向かった。学校のすぐ近くの駅のデパートとは違いこちらはやや歩くため、二人での会話の時間が長くなることになる。
しかし、まだ先ほどの妄想の興奮が治まっていない奏汰は頭から湯気を出して落ち着きを取り戻そうとしていた。
「だいじょーぶかー?」
「だだだ大丈夫です……大丈夫……」
「そっかー。また倒れる前になんか言えよー?」
思えば奏汰は陽に色々と迷惑をかけているとわかってしまった。いつもいつも倒れてばかりいて、そんな彼のことを心配して運んでくれている。
今日こそは倒れずに彼女に心配をかけさせないよう頑張ろうと決めていたはずだ。
「(遊木宮先輩とのせっかくの、でででデートだから……しっかりとしないと!)」
気合いを改めて入れようと自分の両手で両頬をパンパンと叩く。叩いたところが赤くなってヒリヒリしたが、興奮を冷めるためもあるので我慢した。
そんな奏汰の行動を、陽は寝不足の時にやる行動だと勘違いをして笑った。
「寝不足かー?」
「ね、寝不足ではないです! た、多分……」
実のところしっかりと睡眠時間が摂れていない。緊張であまり眠れなかったからだ。
しかし、その眠気は陽に会った時には既に吹き飛んでしまっていた。
「そー言えばさー。それって何ー?」
途端に陽は奏汰が手に持っている重箱を指差す。
「あ、あの、その……お弁当です」
陽が来る前に思ってしまっていたことを思い出してしまい、尻ずぼみになってしまう奏汰。
やはり重かったのだろうか、と顔色を窺うように彼は彼女をチラッと見てみる。
そこにあった表情は彼が思っていたものとは反対の、瞳をキラキラさせている彼女だった。
「そーなのかー。ジュルリ」
思わずよだれが出てしまうほど、陽はそれに期待していた。
それを見て一安心できた奏汰だったが、同時に味の心配が新たに生まれた。
「あ、あのえと……その……お、おいしくないかもしれないですけど……」
先にこう言ってしまうのは女々しいと思いながらも、過度な期待をしないでほしいという本音が出た。
「でもさー、せっかく作ってくれたんだしさー。食べたいじゃんー」
それでも陽は奏汰の行為を無駄にしたくはないと言うように伝えた。
その一言で少しは気が緩んだものの、心配は一概になくなったわけではなかった。




