デート-2-
奏汰たちより一歩早く電車に乗った志馬たちは、休みなのにほどよく混んでいる電車内で吊革に掴まって談笑をしていた。
「そう言えばお前さ、みんなのことなんて呼んでるんだ? 俺たち幼なじみには全員『我が友!』って言ってるけど」
「それは違うぞ我が友よ。我が友、我が好敵手、そして我が供だ!」
「違いが全然わっかんねぇ……遊木宮照のことは確か……」
「我が闇を照らす者だ」
「妹の方は?」
「天から舞い降りし使者だ」
「夏撫さんは、飛鳥殿だっけ?」
「いや。終わりへと導く清き精霊だが」
「まさかのそっち!? え、えーっと、じゃあ箕来は?」
「大いなる真力を持ちし者であるが」
「……六実さん」
「漆黒の鎧を纏いし者」
「…………一応、関連したことが由来になってるんだな。わからないけど」
「まだまだ未熟だな。精進を怠っているのか?」
「逆にそれがわかるやつの方が少ないと思うけど……」
「皆わかってくれたが?」
「それは嘘だ!! 遊木宮や箕来ならともかく、他の人はわかってない!!」
「疑問と思わず我の呼びかけに答え、真名を快く受け入れてくれたが」
「…………勉強します」
「うむ」
はたから見たら初歌の格好や言動で自然と注意を向けてしまうが、中身は女の子ということはすぐに理解できていた。
その証拠に、特別暑い訳でもないのに頬が若干赤く染まっている。
男女二人で話をしていて、女の子の方が照れているのだ。聴こえない程度の舌打ちをする人も割といた。
そんな二人を遠目で、ある二人組が監視していた。
「上手くいってるな」
「そのようね」
電車の中とは言え、車両が違えば見知った顔つきがいても見つけ出すことは困難なものだ。それを利用して幼なじみの二人は電車を乗る時からずっと見ていたのだ。
「でも急に二人きりにしてどうしたの?」
「ただ単に二人きりの時に何をしているのか知りたかったからだが?」
「物好きね。その熱心さを受験勉強に費やさないの?」
「…………明日頑張ります」
高校三年生、受験期真っ只中である。
そもそも何故今日、本来四人で遊ぶ予定だったのかと言うと、息抜きも兼ねているが参考書を買いに行って近くの喫茶店で早速勉強するためだ。
生徒会の二人は一緒の国立大学を目指しているが、帰宅部の二人とはまた会えなくなってしまう。
中学の頃にもそれぞれ二人組になって別れたものの、今度は大学が別なのだ。会う機会が減るとも限らない。
だからせめて受験くらいは全員で一緒に乗り切ろう。とのことだ。
「…………正直、実感がないな。まだ部活が残ってるし、そもそも渚と別々の学校に行くことが想像できない」
「……思えば幼稚園から一緒だったのよね」
「あいつらとは小学校で。なんだか懐かしいな。覚えてるか? 初めてあいつらと会った時のこと」
「忘れられないわよ。帰り道の途中で排水溝に足を突っ込んで抜けなくなったあの志馬の顔を」
その時の光景を思い出して小さく笑いながら渚は答える。
結局その話のオチは、大人の人を呼んでくるまで動けなくて涙目になっていた志馬のことをとにかくあやしていた話。
それから友達になり、家に遊びに行ったら実は近所さんで幼なじみだったオチもある。
「中学の時は全く家に遊びに行かなかったな。だからうたちゃんのあれに驚かされたんだが」
「そうね。なんで遊ばなかったのかな」
「それは忘れてしまったよ」
三年間。あっという間だったようで長かったような気さえしてくる。
だから高校が同じだった偶然に、自然と二人は感謝していたのかもしれない。
「だからさ、大学に受かったら今度は絶対遊ぼう。みんなの家に行ってお泊り会したり、こうしてどこかに出かけたりして」
「……お泊り会の時、志馬は別部屋ね」
悪くない案ね、と渚は嬉しげに呟く。
なんだかんだで高校の時は犬猿の仲のような状態だったため、遊び始めたのは今年なのだ。
だからというのもあれだが、四人でもう一度、あの頃の子供のようにはしゃいで遊びたい気持ちでいっぱいだった。
「なら余計に勉強頑張らないとね」
「わかってるさ…………留年してもう一年遊ぶというのも」「ありなわけないし怒るわよ」
「じ、冗談だ。本気な目で言わないでくれ」




